計画地にて(その4)
「流石にこの規模だと無詠唱じゃ無理だな」そう言ってコウはそっと目を閉じて両腕を前に伸ばすと呪文を唱え始めた。唱えながら徐々にその両腕は上に上がって行く
「ラーマイソン・エストウネマチーネ・アハビター…」そこまで唱えてコウは両眼を見開く。
「漆黒の空に燃え盛る紅蓮の炎と塊よ、マルタンの空より我が槍となりて敵を焼き尽くせ!」そう叫ぶとコウの両腕は下に向かって振り下ろされる。
「メテオーマ!!」
黒い水が水面に広がるように空には暗雲が渦巻き、その底部分はやがて赤く光りだす。赤い光は段々とその輝きを増し、突如として雲を突き抜けて、赤い塊が空から降ってきた。それはひとつではなかった、連続していくつもの塊が描く赤い軌道で空が埋め尽くされていく。そうして空気の壁によって動きを封じられた、アンデッド達に降り注いだ。炎の塊は次々に轟音をたてて地上に到達する。それは幾重にも幾重にも繰り返され、全てを焼き尽くすかのような爆炎は渦を巻く、その勢いは留まることなく空気で作られた壁の中をまわり続けた。
それを見ながら、呆然と立ち尽くすコルビーの後ろにナーガが現れた。
「とんでもないですね…これは魔王が成体になってもいい勝負になるんじゃないですか?」ナーガの言葉にコルビーは首を横に振る。
「今まで魔王と人間が戦う事がこの世界の中心の様に思いあがっていたが、エンシェントドラゴンを始めとして、そんな事はどうでもいいと思っている存在が結構いるんだろうな」
コウの放った魔法による炎はしばらく燃え続けた後、空気の壁と共に消失した。コウは空からゆっくりと降りてくると、コルビーの足元に大の字になって寝ころんだ。
「流石にこれはしばらく動けそうにないな。あとでまつとも10本な」そういってニッコリ微笑んだ。そこにクニオとグレゴリー、ティアマトが駆け付ける。
「ゲートも出来上がってないのにどうやってここに?」そう聞くクニオにコウは答える。
「転移ゲートの端部がいつになっても開かないから、ナーガに転移魔法で連れてきてもらったよ。術者さえいればゲートなんかなくても転移は可能だからな。疲れたから温泉につかりたいけど、お湯全部抜いちゃったんだろう?」
「そう言われると思って、コウ殿がアンデッドを焼き尽くしている間に横穴は塞いでおきましたぞ」そう言ってからグレゴリーはいつもの如くガハハと笑った。
ナーガは灰の山と化したアンデッドたちの方へ進むと、呪文を唱え始める。灰の一部分は光輝き、それは一つの塊となっていく。更にそれは人の形となった。
「ビフロンス、これで気が済んだか?」ナーガは復活したビフロンスにそう声をかけた。
ビフロンスは振り返って、灰になったアンデッドの軍団を見渡した。そうしてまたナーガの方を向き直した。
「確かにあのエルフの少女の力は我々とは比べものにならない様だ。しかしあのクニオとか言う良く分からない人間は、刺し違えてでも私が始末いたしましょうか」そういうとスックと立ち上がってクニオの方へと駆け寄ってきた。ナーガは特に止めようともせずその後姿を見送る。
「中々しつこい御仁のようですな…」そう言ってクニオの前に出ようとしたグレゴリーをクニオは左手で静止する。
「彼にはなんとか納得してもらわないといけないらしい」そう言ってから左腕に固定したアマリアの盾を確認すると、右手で鞘から『定光』を抜いて両腕で構えた。
ビフロンスは、駆け寄りながら背中の鎌を抜くと両腕で持って構えた。




