9話
少し、お待たせしました。
『好きな人と一緒に食べるパフェって、とっても甘くておいしいですよね』
「……………………」
例のインタビューから数日後。
なんとテレビ番組で俺たちが受けたインタビューが流れていた。
「ばっちし流れてしまっている……」
はあ、とため息をつき、顔を手で覆う。
「まさか放送されてしまうとは」
あのインタビューの後、俺たち以外のカップルにも何人か話しかけていた。
だから他のカップルの発言を放送することを期待していたのだ。
しかしどうやら俺の期待はかなわなかったらしい。
最初は例のカフェでのカップル限定パフェの映像や味のリポート。
そしてあのこっ恥ずかしい注文条件の紹介。
それだけならよかったのだが、俺たちのインタビューがテレビで流されていた。
しかも俺が沙織に「あーん」をされているところや、他にも沙織のした発言なども放送されていた。
先ほどの『好きな人と一緒に食べるパフェって、とっても甘くておいしいですよね』という言葉も、彼女が放ったものだ。
もう、なんというか。
完全にバカップルだ。
全国ネットで、俺たちが恋人関係にあるとアピールされている。
実際にカップルというわけじゃないんだが、少なくともこの番組の中ではそうなっているし、そのようにテレビで流れてしまっていた。
しかも、放送時間は土曜日の10時。
割と人が見ている時間帯だ。
平日だったならば、みんな仕事しているから俺の同僚や友人は見ている可能性は少ないんだが。
しかし今日は土曜日。
平日じゃないから、俺の同僚や知り合いも見ている可能性が十分にある。
夜7時などのゴールデンタイムではなかったことがせめてもの救いか。
『ありがとうございました! とっても仲のいい恋人さんたちでしたね。それでは、スタジオにお返しします』
そして、やっと特集が終わった。
「ふふふ。仲のいい恋人ですって。ふふふふ」
沙織はテレビを見て、ニコニコしている。
それはもう嬉しそうだった。
「そんな笑っている場合じゃないだろ。俺たちがまるで恋人みたいに扱われているのがテレビで流れちゃってるんだぞ」
「いいじゃないですか、流れても。みんなに見せつけちゃえばいいんです」
「見せつける、って」
「はい。見せつけてるんです。私たちがお互いを大好きな恋人だってところを」
沙織は「ふふふ」と上機嫌に笑う。
「これで私たちのことを恋人だと皆が知っていることになりますね」
「いや、知っちゃだめなんだよ。嘘じゃないか」
テレビでは恋人のように扱われているが、実際は違う。
カフェのカップル限定パフェを食べるために、店員の前で恋人のふりをしただけだ。
その場でインタビューをされてしまって、恋人ではないと主張できずにこんなことになっているのだが。
「はあ、こんなことが広まっちゃって。どうすりゃいいんだか」
「いい解決法がありますよ」
「解決法?」
「嘘じゃなくて、ぜんぶ真実にすればいいんです」
「……それはつまり」
「私たちが本当に恋人になって、ラブラブカップルになればいいんですよ」
「……………………」
一瞬、本気でそれを考えてしまう。
「……………………だめだ」
数秒たって、やっとその提案を否定した。
「ふふ。否定するまで、ちょっと時間かかりましたね」
「ああ」
「私と付き合うこと、少しの間でも考えてくれたんですね」
「その後、だめだってちゃんと否定したぞ?」
「前は考えることもしませんでしたけどね。私との交際を一瞬でも考える程度には、私のことを好きになってくれたんですよね?」
「ノーコメントだ」
「ノーコメントですか。まあいいですけど」
沙織はテレビの方に向き直る。
番組は既に他の特集が行われていた。
番組は一時間のもの。
あのカフェの特集が流れていのは、時間にして十分程度。
そしてその半分以上はパフェの味やその食べる条件に関してのものだった。
俺たちのインタビューが流れていたのは数分程度だ。
冷静に考えると、俺たちがインタビューを受けているシーンを俺の知人が見る可能性はとても少ない。
そこまで不安に思うほどのものでもない、か。
「まあ、誰も見ていないことを祈るか……」
見ていないという確証もないが、しかし同時に見ているという確証もない。
どっちかはわからないのだ
なら気を揉むだけ損というものである。
ここは見ていないことを祈り、いつも通り過ごすのが吉で――
「あ、見てると思いますよ。みなさん」
「え?」
いま、沙織はなんて言った?
「見てる? というか皆って」
「ええと、私の知人とか、親戚の方とか」
「なんで見てるって思うの?」
「私が連絡したからです」
「連絡!?」
連絡ってどういうこと!?
「連絡のつく親戚の方と、あとは私の友達にはみんなに言いましたね。今日この番組で私たちが出るってことを。絶対に見てと念押しもしました」
「なんでそんなことを!」
「なんでって、私たちのいちゃいちゃを見せつけたいからに決まってるじゃないですか」
「ええ!? ていうか俺たちの場面が放送されるとは限らないじゃないか。それなのに」
「そこは私も確証がなかったんですけど。私たちのインタビューが使われなかったとしても、別に損はしませんし。とりあえず言っておくだけ言っておきました」
なるほど。
別に放送されなくても番組の都合で使われなかったというだけの話。
確かに損はしない。
なかなかに策士じゃないか。
って、関心してる場合じゃない!
「なんてことをしてくれたんだ……」
親戚たちはテレビ好きの人たちだから、俺たちが映っていると知れば見る可能性は高い。
当然、あのインタビューも見ていたことだろう。
誰も見ていない、ということはないはずだ。
噂好きの人たちだから、一人見たら他の人たちに広まることは確実。
俺と沙織が付き合っているという嘘が親戚の連中に広まっているの間違いなかった。
これは、次に会う時に大変なことになりそうだぞ。
どんどん外堀が埋まっているという事実に、俺は頭を抱えるしかなかった。
次の投稿は2/4(金)です




