8話
「テレビ……!?」
「はい。ただいま話題のカフェに取材中です」
話題のカフェ。
その話題っていうのはもちろん、あのことだろう。
「この店はいま話題のパフェを提供しているんですよ。その名も、カップル限定パフェ」
やっぱりだ。
「他の店のカップル限定商品って、カップルじゃなくてもまあ食べることはできちゃうんですよね。二人組ならオッケーって感じで。ですがなんとこのお店、店主がこの人たちはカップルじゃないと判断すれば、だしてもらえないらしいんですよ。本当にラブラブカップルじゃないと食べることができないんです」
じゃあ俺たち無理じゃん。
食べれないじゃん。
本当はカップルじゃない。
「でも貴方たちなら大丈夫ですよね。見ていましたよ、先ほどのラブラブっぷり」
リポーターは興奮した様子で俺たちに詰め寄る。
「今日はずっとここで取材を続けていましたが、あんなにラブラブしていたのは貴方たちが初めてです。もういっそ尊敬してしまうくらいに仲良しオーラでまくってましたよ。お似合いのカップルって、やっぱりそういうのがでちゃうんですかね」
「見ていましたか。出ちゃいましたか~」
沙織は言われた内容が嬉しかったのか、頬に手を当てながらニコニコと会話する。
リポーターもこれならいけると踏んだのか、マイクをぐいっとこちらに持ってくる。
「そんなあなた方にぜひ、取材させてください」
取材って。
テレビって。
「あの、ちなみに。この取材の映像って地方テレビで流れるものですか?」
「いいえ。全国ですよ」
全国!?
ということは、全国テレビ!?
全国テレビはまずい!
全国で俺たちがカップルだと放送されてもみろ、もうそれは外堀が完全に埋まってしまう!
近所の人たちどころか学生時代の友人やら職場の人も、俺たちの仲を恋人だと認識してしまうだろう。
いいやそれどころか、テレビをみた親戚たちだって、そう認識してしまう。
そんなことになってしまうのはまずい。
なんとしても、取材を受けるのは断らなければ。
「すみませんが、取材はおことわり――」
「もちろんいいですよ♪」
しかし俺が断ってしまう前に、沙織がオーケーしてしまった。
「ありがとうございます! ほらカメラさんこっち撮って!」
リポーターはカメラマンに俺たちを撮るように指示する。
「お、おい」
俺は沙織に対して小声で質問する。
「沙織、まさかこれもお前の仕込みか?」
「いいえ、さすがにテレビの取材があるとは知りませんでした。本当に偶然です」
偶然か……。
それはまたすごい偶然もあるもんだ。
「まあでもいいじゃないですか? テレビで取材されるというのもなかなかあることじゃないですよ」
「いや、そういうわけにもいかないだろ」
取材を受け入れている彼女に対して、俺は抵抗の意思をみせる。
「取材をうけちゃだめだろ。大体な俺たちはカップルなんかじゃないんだから――」
「え? カップルじゃない?」
しかし、言っている最中に声が差し込まれた。
その声に振り向くと、大きなパフェ(おそらくこれがカップル限定パフェだろう)を持ちながら呟くさっきの店員さんの姿が。
「じゃあ先ほどの言葉は嘘? 店主であるこの私を騙そうとしたの?」
そして、店員さんの目からなぜかハイライトが消えていく。
「せっかく近年まれにみるラブラブカップルに出会うことができたと思ったのに、嘘だったなんて。そんな偽カップルにこのカップル限定パフェを食べさせるわけには……!」
ハイライトの消えた目でぶつぶつと呟く店員さん。
あー、なんかめんどくさいことになってる!
ハイライトが消えてめっちゃ怖い!
無表情でつぶやく姿とか、絶対テレビで流しちゃいけない類のやつだろ!
てかお前が店主だったんかい!
「修一さん。これはもうカップルじゃないとか言い出せる雰囲気じゃないですよ」
沙織がそう俺に向かって小声で告げる。
……くそ。
それもそうだな。
「いえ、その……、俺たちはちゃんとカップルです」
店員さん(店主)の雰囲気に耐えられなくなり、俺はついカップルだと受け入れてしまった。
「なあんだ。よかった。それではこちら、カップル限定パフェです」
店員さんは俺の言葉ににこっと嬉しそうに笑顔になったあと、例のパフェとコーヒーを机の上に置いた。
「おお! これが噂の本当のカップルにしか出せないというこの店のカップル限定パフェですね!」
リポーターがマイクをもって実況する、
「ここはぜひ、仲良しカップルであるお二人にあーんをお願いしたいのですが、よろしいですか」
「あーん、とは。あのあーんですか?」
「はい。そのあーんです」
もちろんとばかりにうなずくリポーター。
「やりましょうよ、修一さん。私たちの仲よしさをテレビの皆さんに示してあげましょう!」
そしてがぜん乗り気になる沙織。
「はい、あーん」
沙織がソフトクリームの乗ったスプーンをこちらに差し出す。
「あ、あーん」
もうこうなったらしょうがない。
この場でやらないという選択肢はないだろう。
俺はあーんをすることにした。
俺は沙織の差し出すスプーンを口にくわえ、パフェを食べる。
「おおー!」
その様子をリポーターは感嘆しながら見ている。
「いい……! カップルのあーん、尊い……!」
店員さんは、恍惚とした表情で見ている。
「それでは彼氏さん。ご感想は!?」
「とっても美味しいです」
俺はぎこちない笑顔でカメラを向きながらそう言った。
当たり前だが、ばっちりと俺たちの行為はカメラで撮られていた。
これをテレビで放送されれば、かなりやばいな。
いったいどうなってしまうのか、想像もしたくない。
親戚とか、職場の人とか、他にもいろいろ……。
ラブラブカップルと認識されるのだろうな。
今度の正月に集まった時、絶対に何かしら言われるに違いない。
まあ、テレビには編集というものがある。
カメラで撮影したものをすべて放映するわけではなく、使う映像は厳選されるのだ。
だからいま撮っている映像が必ずしも全国に流れるというわけではない。
だからこの映像が編集で切られる可能性も、大いにあるというわけだ。
そこは、映像を編集するスタッフに対して祈るしかない。
頼むよ、マジで。
「ありがとうございます! おかげでとってもいい画がとれました!」
「ええ。こんないい画はなかなか取れませんからね。絶対にテレビで流れるはずです。というか、流して見せます!」
しかし、俺の祈りとは裏腹に、リポーターやカメラマンが意気込んで映像を流すと宣言する。
「あ、あはは……。おかまいなく……」
二人の様子に対して、俺は小さな声でそう告げることしかできなかった。
ちなみにカップル限定パフェは、本当に驚くほど美味しかった。
それがまたなんとも悔しい。
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