表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

6/24

6話

前半は修一の視点

後半は沙織の視点


―――修一視点―――


 そうしてなんやかんやありつつも、家に帰ってきた。


「ただいま」

「ただいま」


 誰に言っているわけでもないが、俺たちは玄関で、ただいまと言って家に入った。


 つい癖で言ってしまうのだ。


「えへへ、いーっぱい腕組んじゃいましたね♪」


「ああ……」


 本当に、帰ってくるまで腕を組んで歩いていたな。


 てっきりどこかで離すものだと思っていたのに。


 しかし、上機嫌な沙織を前にすると、可愛くて文句を言う気がうせてしまう。


 家に入り、靴を脱ぎ、手を洗ってリビングへと行く。


 時計を見ると、まだ九時にもなっていなかった。



「早いけど、お風呂に入るか」


「お風呂に入りますか? 洗ってきますよ」


「いいの?」


「はい。あ、一緒に入りますか?」


「入らない入らない」


「ふふ、冗談です。それじゃあ少し待っていて下さい」



 上機嫌に笑いながらそう言い、沙織はお風呂へと向かった。


「ふう……」


 彼女を見送ったあと、俺はカバンをソファの近くの床に置く。


 そしてドカッとソファに深く座った。


「ああ。疲れたな……」


 深く腰掛け、ソファで楽な体制になる。


 すると、急に睡魔が襲ってくる。


 仕事の疲れと、それと酒を飲んだせいか。


 あとソファの柔らかさもあるのだろう。


 だんだん眠気に抗えなくなる。


 どんどん瞼が下りて行ってしまう。


「いや、まだ寝ちゃダメだ。まずは部屋に行って、いやとりあえずスーツを脱いでから……」


 そう呟き、まずはネクタイを取ろうと首元に手を持っていく。


 が、しかし。

 あらがった甲斐もなく、ついに眠気に負けてしまった。


「ね、る……」


 深く息を吐いた後、俺はソファで眠りについた。








―――沙織視点―――


「あれ?」


 お風呂を洗って湯を入れ始めて、リビングに戻ってくると、修一さんがソファで寝ていた。


 ソファに座りながらも、目をつむり、寝息を立てている。


 お酒を飲んでいたらしいから、その影響で寝てしまったのだろう。


 そんなにお酒に強い人でもないのだ。

 飲んで帰ってきた後は、たいてい早くに寝てしまう。


 そこも可愛いところだと私は思っている。


 そこは今はいいとして。


「寝ていますね」


 リビングのソファで無防備に寝ている彼を見て、私の中にいたずら心が湧いてきていた。


 修一さんはお酒を飲んだ後は早くに寝てしまうが、たいていの場合は自分の部屋に行って布団に入って寝てしまう。


 部屋にたどり着けずに、ソファで寝てしまうことは今まではなかった。


 これはチャンスだ。


 「ふふ。いけませんね。私の前でそんな無防備な姿をさらしてしまって」


 いや、それとも私の前だから無防備になってくれるのだろうか?


 もしそうだったのなら、嬉しすぎてどうにかなってしまう。


「まあ、それはそれとして、ちょっといたずらはさせてもらいますけど」


 私はソファに座っている彼の後ろに回る。


 そして耳元に顔を持ってきて、彼に向かって小さな声でささやく。



「もしもーし。起きてますかー?」


「あなたの未来の妻の沙織ですよー」


「修一さんのことが大好きな沙織ですよー」


「起きているなら返事してくださーい」


「返事してくれないなら、ちゅーしちゃいますよー?」



 いくらか囁いてみたが、修一さんは何も返事をしない。


 それを見て、私は彼が寝ていると確信した。


 起きていれば、彼はびっくりして飛び起きるだろう。


「さて、寝ていることを確認できたところで」


 とりあえず、私はソファの前に回ってスマホを構える。


 そしてパシャパシャと写真を取り始めた。


「ああ。すごい。ソファで寝ている修一さんの姿。それもスーツなんて……」


 恍惚としながらも、私は彼の写真を撮っていく。


 音で起きてしまわないか不安だったが、幸運なことに彼は起きなかった。


「ふふふ。私の修一さんコレクションが増えちゃいました」


 実は私のスマホやPCには、彼の写真がたくさん入っている。


 それは普段の彼を撮影したものや、お出かけの時に撮ったものが大半だった。


 今回のように、寝てしまった彼を撮影したものは少ないのだ。


 つまり、今回の写真はレアものだと言える。


 これで、私のコレクションがまた潤う。


 ちなみに撮った写真は、暇なときがあれば何度も見返している。


 彼の写真を見ると、心が幸福感に包まれてしまうのだ。


 角度や距離などを変えて、私は何枚も寝ている彼の写真を撮りまくった。




「さて、写真も満足いくまで撮ったことですし」


 十分くらいたち、スマホの手を止める。


 本命は写真を撮ることではない。


 もっと他に、やるべきことがあるのだ。


 私は慎重にソファで寝ている彼のところへ行き、そしてその横のスペースに座る。


 そしてちょっとずつ、ちょっとずつ、近づいていき、修一さんの真横にピッタリとくっついた。


 近い、どころではない。


 肩と肩が触れる距離。


 太もも同士がくっつく距離。


 完全に密着しきっていた。


「うふふ。こんなに近づけるなんて」


 起きている時も、結構距離は近い時はあったが、完全にくっつけることは少ない。


 この距離感に、顔が熱くなり、頭がくらくらしてしまう。


「幸せ……」


 大好きな彼のそばにいられて、くっつくことができるなんて。


 幸せすぎて、おかしくなりそうだ。


 そして私は、まだ他に行動をする。


 これで終わりではない。


 少し背を伸ばして、私は寝ている修一さんの肩に頭をおく。



「ふわああああ……!」



 思わず声が出てしまっていた。


 やばい。

 これは、やばい。

 幸せすぎる。


 もうここに住みたい。

 そうだ、ここに住もう。


 いや、住んでいるな。同じ家に。



 ……何を考えているんだ。


 なんだか自分の思考がおかしな方向に行ってしまっていると、自覚し始める。


 でもおかしくなってしまうくらい、私は幸福感に包まれていた。


「すごい。まるで同棲しているカップルみたい」


 私はそう呟き、修一さんと密着している時間を楽しんでいた。


 まあ、同棲しているカップルというのもあながち間違いではない。


 一緒に暮らしていることは間違いないし。

 一応、婚約者だし。


 婚約者に関しては修一さんは否定してくるが、小学校の時に結婚の約束をしたから間違いじゃない。


 それに、今は婚約者じゃないと否定してくるが、将来的に夫婦になるのだから問題はない。


 絶対に夫婦になる。


 結婚する。


 この幸せを、永遠に続けてみせる。



「はぁぁぁぁ……!」


 そして私は再度決意を固めながらも、彼の肩に頭を置いて、幸福の海に沈んでいった。



ブクマや評価ポイント、感想などお待ちしています。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] かわいい〜!
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ