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19話 小学生編6




 沙織ちゃんの家にたどり着いた。


 駅の近くにあるマンション。


 少し前に沙織ちゃんの荷物を持ってきたり、あとはベッドの配達のために来たことがあった。


 表札には九条と書いてあり、その横には家族の名前が書いてあった。


 沙織という名前の隣には彼女のお父さんの名前とお母さんの名前がある。


 俺はお邪魔しますと言って玄関を通る。


 沙織ちゃんはただいまと言って玄関を通っていった。


 ちなみに、家の鍵は既に持っていた。


 前回、沙織ちゃんの荷物を持ってくるときに受け取っていたのである。




 さて、今日この家に来たのは、二つ理由がある。


 その一つが家の掃除だ。


 この家が借家である以上、いつまでも放置しているわけにはいかない。

 いつかは整理して、処分する物は処分し、引き取るものは引き取らなければ。


 しかし、簡単には処分できない物もある。

 家具や電化製品とかがそれだ。


 捨てる場合には、粗大ごみとして引き取ってもらわなければいけない。

 俺の家に持ちかえる場合は、引っ越し業者を呼ばなければいけない。


 そういった手配は、小学生の沙織ちゃんにはできないから俺が連絡するつもりだ。


 とりあえず今日は、どれをどうするのか。

 持って帰るのか、捨てるのか。


 それを決定するためにも今日ここに来た。


 全部持っていければそれは理想的だが、残念ながら他の家の家具を全て持っていって保管できるほど俺の家は広くない。


 家のスペースの空き具合から見て、二つか三つ。

 多くとも五つほどで限界だ。


 ……せめて彼女の思い入れを考慮して選択したいところだ。




 ほどなくして、家の整理が始まった。


 まずは、家の中の物を取り出していき、いるものといらなものにわけていく。


 冷蔵庫のものは前回来た時に既に処分していた。


 既に空になって、電源も抜いてある。


 ただ、中を整理したのはそこくらいで、他のものは手付かずだ。


 他の部屋の机やタンスの中にあるものを外に出していく。


 書類に関しては、なにが重要で何が重要でないのか、それは一見しただけではわからない。


 だからとりあえず書類をカバンの中に詰めていく。


 家に帰った後にでもじっくりと中を確認すればいい。


 そのほかにも、明らかなゴミはゴミ袋に捨て、判断に困るものは専用の箱に入れる。


 そして作業を始めて数時間。


 片付けは行っているし進んではいるのだが、しかしそれでも整理さなければいけない物はまだまだ沢山残っている。


 流石に今日だけで終わる量じゃないな……。



「まあ、別に今日だけで終わらせるつもりもないからいいけど」



 初めから複数回に分けて行うつもりだった。


 今日のところは書類関係と、あとは大型の家具の始末。


 片付けの最初に沙織ちゃんに確認したところ、持っていきたい家具は学習机だけだった。


 それ以外は処分してもいいらしい。


「あと一つか二つくらいなら大丈夫だから。遠慮しなくていいよ」


 と伝えたのだが、


「大丈夫です」


 とそう言って他のものは断っていた。


 無理に持ってくる必要もないし、彼女がいいと言うならばそれを尊重しよう。


 そう決めて、家の中の物をどんどん整理していくと、使われていない部屋があった。 


 見たところ、物置に使われている部屋だろう。


 中は服が入っているタンスや、他にはビジネス書が置いてある本棚。


 あとは――。


 机には、本が置いてあった。


 単行本くらいの大きさの本だ。


 タイトルは、何も書かれておらず著者名も書かれていない。


 パラパラとめくってみると、中は日記だった。



「日記か」



 誰の物だ?


 字からして、小学生女子の丸っこい字じゃない。


 お父さんか、お母さんの日記だろうと予測できる。


 まあ誰の物であっても、流石に捨てるわけにはいかないよな。


 沙織ちゃんに尋ねようと持っていく。



「ごめん。この日記だけど――」



「え?」



 彼女は、俺が持ってきた日記をみて目を丸くした。


「これ、あそこの部屋にあったけど」


「それは、お母さんの日記です」


 日記を渡すと、沙織ちゃんがペラペラと日記をめくる。


「やっぱりお母さんの字です」


「よく日記の外装だけでわかったね」


「はい。お母さんが書いていたのを、見たことがありますから」


 うつむいて、日記をギュッと抱きしめる。


 かつての、日記を書いていた母親の姿を思い出しているのかもしれない。



「それ、読んでみたら?」


「え?」


 沙織ちゃんはこちらを見る。


「それは、君には読む権利はあると思うから」



 この家の物をどうするのか、沙織ちゃんに権利がある。 


 元は彼女の母親の物かもしれないが、今は彼女の物になってしまった。


 読まなくても別に構わないが、読んでほしいと俺は思う。


 ……そして実は、それこそが今日この家に来た二つ目の理由なのだから。


 

「……」



 俺の言葉を聞いた沙織ちゃんは、そのまま日記を読みはじめた。




 


次回の投稿は3/16(水)の18時です

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