12話
「二人をこのままにしておくわけにはいきません」
神田さんはそうはっきりと告げる。
「このままにしておくわけにはいかないって、どうするんだ?」
「別れてください! あと同棲をやめてください! そして年齢相応の相手を見つけてください!」
一応尋ねてみると、彼女はすぐに返答した。
「なんども言っているが、付き合ってない。それと――」
まあ付き合っている云々に関しては、もう誤解を解くことは無理そうだ。
諦める。
だが他にも、訂正すべきことが、もう一つある。
「それと正確に言えば、俺たちは同棲というよりも同居といった感じだ」
「同居?」
さっきまでとは少し毛色の違う答えに、神田さんも虚を突かれた顔をした。
「むかし色々あってな。親戚の沙織を引き取って、うちに住んでもらってるんだ」
「そうなんですか?」
確認したいと、神田さんが沙織を見る。
「本当。修一さんは、親がいなくなっていくところのない私を引き取って育ててくれたの」
「あ、そうだったんですね……、それは勘違いをしてしまいました」
すみません、と謝る。
「で、でも、それとこれとは話が別です。付き合っているのは問題ですよ!」
神田さんはツカツカと歩いてくる。
「貴方は――」
言いながらこちらに来る。
しかし、注意が散漫になっていたのだろう。
神田さんは道にあったゴミを踏んづけてしまい、滑ってバランスを崩した。
そのまま後ろに倒れかける。
「あ」
「おっと」
危ない。
俺は倒れる彼女を助けるため、手を出して神田さんの掌を掴む。
そして腕を引く。
「きゃっ」
思ったより強く引いてしまった。
そのせいか、引いた後にうまく立たせることができず、引き寄せてしまう。
そして神田さんは俺の腕に収まった。
「は――」
神田さんから息が漏れる。
「大丈夫か?」
「は、はい……」
「まったく、はしゃぐからこうなるんだよ」
ため息まじりにぽつりと漏らす。
神田さんの方を見ると、意外と近いところに顔がある。
そして、目が合った。
神田さんの頬が、かあああっと赤くなる。
「な」
神田さんが息を詰まらせる。
そして調子を取り戻したかのように、俺をきっと睨みつける。
「なるほど。こうやってさおりんを落としたというわけですね」
「はい?」
「助けて頂いたことは感謝します!」
ばっ、と身を翻して、俺から数歩ほど離れる。
「ありがとうございます! でも私は絶対に認めませんから!」
そのまま一歩下がり、また一歩下がり、そしてこちらに背中を向けて勢いよく駆け出した。
「認めませんからねえええええ!」
捨て台詞を吐いた後、神田さんは走って去って行った。
……急にどうしたんだよ、まったく。
「修一さん」
呆けていると、沙織から呼ばれる。
彼女の方を見ると、沙織がじとーっと目を細めてこっちを見ていた。
「抱きしめてましたね」
半開きの目でそう口にする。
これは嫉妬、というか拗ねているのか。
「いや、あれはしょうがないだろ」
端から見ると抱きしめていたように見えたかもしれないが、人助けである。
転びそうになったのを助けたのだ。
その時、思った以上に強く引っ張ってしまってくっついてしまっただけだ。
責められるいわれはない。
いわれはないんだが、なんだか悪いことをした気になるのはなぜだ。
「なんだ浮気かー?」
「奥さんは大切にしろよー」
そしてその現状を見て、よく事情を分かっていない周りの人たちがはやし立ててくる。
「浮気じゃないから! あと、奥さんでもない!」
俺が大声で答えると、あははと笑って流された。
まあ、笑って冗談だと思っている内は別にいいか。
沙織も本気で嫉妬しているわけじゃないのか、すぐに「冗談ですよ」と言ってクスっと笑う。
「冗談ですよ。雪音を助けてくれてありがとうございます」
「助けた、って。大袈裟だな、もう」
転びそうなのを支えただけだ。
「でも、ダメですよ」
そう言って、沙織は指をこちらに向けて、眉を少しひそめる。
「何がダメって?」
「他の女の子にやさしくすることです」
むー、と眉を顰めるその姿は、いつもより幼く見えて可愛かった。
「ダメなんですよ。私以外の女の子にやさしいところをみせちゃ」
だって――、と続ける。
「他の人が、修一さんの魅力に気づいちゃいますから」
……。
魅力、ね。
「買い被りだって。俺にそんな魅力はないよ」
「それでもです。やさしくするのは、私だけにしてください」
沙織は、おれに一歩近づき。
「嫉妬しちゃいます」
そう言って、沙織は他の人に見せつけるように抱き着いた。
先ほどの神田さんとおなじくらい。
いや、それ以上にくっついてくる。
まったく。
人の目がある以上、こうして抱き着くのはよしてほしい。
すぐにでも彼女を離したいんだが。
沙織はギューッと抱き着いて離してくれそうにもない。
彼女を離すのは、きっと難しいんだろうな。
ハイファンタジーの方でも連載始めました
よろしければどうぞ
『魔法が使えないため実家を追放された少年、実は全て身体能力の向上になる「超人」だった。莫大な魔力を全て肉体強化に振り切って超パワーで無双する ~教えてやる、単純なパワーが最も恐ろしいことを~』
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