表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

10/24

10話

すみません。遅れてしまいました




「次はもう変な商品のあるカフェなんかいかないからな」


「わかってますよ」



 例の放送があった日のお昼ごろ。


 俺と沙織は商店街を歩いていた。


 今日は別に何らかの用事があるわけではない。


 昼食をとるのと、夕食の買い出しといったところだ。


 彼女と歩いていると、いつも通り商店街の人たちから夫婦だなんだとからかい交じりに話しかけられる。


 沙織が周りの人たちと馴染んでいるのは嬉しいが、しかしこれはどうもな。

 周りから夫婦のように扱われ始めている状況に、危ういものを感じる。


「ふふふ。ちゃんと印象付けることができていますね……」


 狙い通り、とばかりに沙織がほほ笑む。


 やっぱりこれは彼女が俺の未来の妻だと、色々と広めていったのが原因か。


 ひょっとしたら、今朝のテレビの影響もあるかもしれない。


 と思ったが、商店街のおじさんおばさんが見るような番組でもなかった。

 それにテレビに映っていたならそのことを指摘しそうだから違うかもしれない。


 まあ今はあのテレビのことはおいておこう。


「それで、どこに食べに行きますか? 今日は――」



「あ、さおりん」



 そのとき突如、後ろ側からさおりんと声をかけられた。


「?」


 沙織が振り向く。


 つられて俺も声の方を向くと、そこには沙織と同じくらいの女子が立っていた。


「やっぱさおりんだ」


「雪音」


 と、沙織が返事を返す。


 さおりん、というのは沙織のことなのだろう。


 あだ名かな。



「沙織、この子は?」


「私の友達の雪音です」


 俺が促すと、沙織が彼女の紹介を始める。



「高校のクラスが一緒なんですよ」


「神田雪音と申します、よろしくお願いします」


 神田さんはペコリ、と頭を下げる。



「俺は沙織の親戚で、佐伯修一っていいます」


 つられて俺も頭を下げる。


「知ってます。さおりんからよく聞いています」


「あ、そうなのか」


「はい。もう毎日話していますよ」


「あはは。それは照れるな」


 思わず頭をかく。


「もう、雪音ったら。修一さんの前で恥ずかしいよ……」


 沙織はそう言いながらも、頬に手を当ててニヤニヤと笑顔を隠せていない。


 しかしそんな沙織の様子とは反対に、神田さんは険しい表情を浮かべていた。



「あの、佐伯さん」


「うん?」


「佐伯さん。どう見ても高校生には見えませんが。ええと、大学生の方ですか……?」


「大学生? そんな若くはないよ」


「ということは」


「社会人だけど、それがどうかした?」


「そう、ですか」


 歯切れ悪く、彼女はうなずく。


「ち、ちなみにいくつか尋ねても……?」


「27歳だけど」



 それを聞いた彼女は、眉をひそめてさらに険しい顔になる。



「どういうことですか?」


「?」


 いきなりの彼女の言葉の意味が分からず、首を傾げる。


「いったいどういうことですかと、尋ねているんです」


「ええと、何が?」


「さおりんのことですよ!」


 神田さんはビシッと沙織を指さす。


「さおりんはまだ高校生ですよ! 何考えているんですか!?」


「はい? ごめん。なんのことだ?」


 話が見えない。


 俺は彼女に尋ね返す。


 すると神田さんはさらに眉をひそめて、大きな声で告げた。



「さおりんと付き合っていることですよ!」



「……」


「大人なのに、高校生のさおりんと付き合うなんてありえません! 年上の親戚と言っていたから、てっきり高校生か大学生かと思っていたのに! 年の差ありまくりじゃないですか!」


 あ。

 ああー。


 なるほど。

 まあ、それはそうだよなあ。


 神田さんの指摘に、俺は納得する。


 彼女の指摘通り、俺は社会人の27歳で、沙織は16歳の高校生。


 交際していると聞かされれば、おかしいと言いたくなる気持ちもわかる。


 というか俺が沙織にしばしば指摘していたことだ。


 だから彼女の意見には同意したいのだが――。


 だが。

 彼女の指摘には間違いがある。


 そもそもの話だ。



「いや待て。俺は別に沙織と付き合ってはいない」



 そもそも付き合っていない。

 交際していない。


 前提が間違っているのだ。


 俺と彼女は恋愛関係にはない。


 しかし、神田さんはその言葉では納得していなかった。


「とぼけるつもりですか? 私は知っているんですからね! 貴方がさおりんに対して、婚約者だとか未来の妻だとか吹聴させていることを!」


「……」



 そういえばそうだったな。


 沙織はクラスメイトにも、そういったことを広めているんだった。


「もう、そんな婚約者だなんて。本当のことだけど」


 そして沙織は照れながら喜んでいる。


 いや君が広めたんだろうが。

 なら広めた当事者として、責任をとってこの場を収めてくれ。


 というのは、彼女の様子からして無理そうだな。


 自分でやるしかない。


「ちょ、ちょっと待ってくれ。そういうのを広めているのは俺がさせているんじゃない。沙織がやっていることだ」


「とぼけるのみじゃあきたらず、その罪をさおりんに着せるなんて……!」


 神田さんは憤慨した様子で、さらに語気を強める。


「それに私、見たんですよ。今日なんか、テレビであんなにカップルだと見せつけていたじゃないですか! これはもう言い逃れできませんからね!」


 テレビ、って。

 もしかしなくとも、今朝のあれのことだろう。


 俺と沙織が、カップル限定パフェを頼み、さらにあーんまでしている映像だ。


 沙織は友人に見るよう勧めていたと言っていた。


 神田さんにも勧めたんだろうな。


 その言葉通りに彼女は今朝の番組を見て、俺と沙織が付き合っていることを確信したということか。


 まあ、確かにあれを見たらカップルであることを確信してもしょうがない。



「いやあれはその場の流れというか。カップル限定の商品を食べるためにしかたなく……」


「見え透いた嘘を言っても無駄ですよ。あそこの店は店主の審査が厳しくて、偽物カップルは限定パフェを食べられないようになっているんです」


 それに、と彼女は続ける。


「テレビで見た様子では、貴方とさおりんはとっても仲良しカップルでした」


「あ、あれは。テレビの編集というか。そういう演出みたいな……」


「演出なんかじゃできません! もう誰が見てもいちゃつくバカップルにしか見えませんでしたよ」


「神田さん。それは君の誤解だ。俺と沙織は別に――」



「いいわけは結構です! 貴方は危険です。さおりんに近づかせておくわけにはいきませんからね!」



 神田さんは俺を警戒の眼差しで睨みつけ、そう宣言した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 沙織視点の話もっと欲しい
[良い点] 外堀埋めてるのは可愛かった(今回のはちょっとブレーキかけた方が良かった感はある) [気になる点] 未成年とってだけで拒絶反応起こす人いるけど結論だけ言えばこのパターンは大丈夫な可能性も。1…
[気になる点] 創作より現実の方が怖くて、通報したら本当に人生終わるのがヤヴァイ。 本人らの気持ちは無視されるからね… そう考えると、沙織は外堀埋めつつあるのかと思いきや、地雷処理せず放置してたったこ…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ