3話 操るのと操られるの
マインドコントロール。
無条件で他人を操り人形にするスキルだ。使うと問答無用でこっちの味方になる。戦場で敵将にマインドコントロールをかけて鞍替えさせる。
ただそうやって手に入れた武将は会話コマンドがなくなって、話しかけても反応しなくなる。
虚ろな目となり、すべての命令に反抗することなく従う。
デメリットももちろんある。狂人度も上がるけど、マインドコントロールで武将を手に入れるたびにタイグリッサ・ミッドウッドが暗殺される確率が上がる。ターンごとにランダムに発生するイベント
これはもちろん防ぎようがあって、自動で攻撃に対して防壁を展開するアイテムをタイグリッサに持たせるとか、こっちがカウンター暗殺者集団を養成する施設を建造するとかね。
当然一回マインドコントロールを使用するたびに狂人度が上がって、狂人度が高いと自動的に敵認定されることもあるので、例えばエリオットを選んで皇帝を殺してタイグリッサを妻にした瞬間から穏健派の貴族は自動的に宣戦布告してくる。
それでも防壁展開アイテムを迷宮から入手して装備させ、出会う武将を片っ端から、と言っても一回の戦場でマインドコントロールを使うのは一回だけではあるけど、敵の最強武将を全部引き抜くと最強軍団が作れるのでプレイ自体は結構スピード感があって楽しい。
これで敵勢力の中心となる武将を全部手に入れると実は結構特殊なエンディングになっていて、
このような短いナレーションが流れる。
──俺は大陸全土を手に入れた
誰も俺に逆らうことはできない
しかし俺の心は空っぽとなった
まるで俺が愛してやまない彼女のように──
これは魔王エンドと呼ばれている。武将との親密度の上げてのイベントもなくなるので、ただ戦略シミュレーションをストーリーなしで好きに蹂躙したいとか、そんな感覚でやるには悪くない。実は私も何回か魔王エンドを見たことがある。
R18指定のゲームではないけど、自分がタイグリッサになって夫を殺されたあげくイケメン主人公に好き勝手にされる妄想をしながら。
子供も生まれるのでやることはやっていたんだろうし。
それは私だけじゃなかったらしく、エリオット×タイグリッサのカップリングは結構メジャーで、同人誌や18禁イラストなどでよく描かれていた。虚ろな目をしているタイグリッサにエリオットがいろいろするという…。そして彼女はされるがままになっている。
タイグリッサのキャライラストはいつも目に光が宿っていないのである。
まあ、しかし。
私は別に虚ろな目なんてしない。
闇魔法の熟練度はまだたったの1。人ではない動物に一瞬だけ軽いめまいを覚えさせるくらいのことしかできない。
だが私は簡単に20まで上げる方法を知っている。
スキルブックとスキル宝珠である。
スキルブックを使うと20までは上げられる。20から40までは宝珠。40から50までは修練しかない。
修練すれば1ターンに1上げられるけど、1ターンは作中では1か月で、それもただ修練をしたという文章しか出ない。
多分誰か、もしくは何かにぶつけて上げることだと予想しているけど、闇魔法を一体何にぶつければいいのかと。動物実験でもするのか。奴隷を買う?私は確かにモラルとかかなり蒸発してなくなってるけど、さすがに父親のように落ちぶれてはいない。
前世の前世でも殺すのは同じマフィアの連中だけにしていた。妻が浮気をした時は相手の男を半ごろしにはしたけど奴はマフィアに入ってもないどっかのギャング所属だったので組織ごとつぶしたけど誰も殺しちゃいない。
じゃあ私は1か月修練をしたくらいで上げられないのかというとそうでもない。
持ってるだけでスキルレベルを限界値以上には上げないけど、オール+5にする指輪と全魔法を+5にする杖がある。この二つで私は今すぐにでもマインドコントロールが使える。
そしてこのスキルブックと宝珠、割と簡単に手に入る。
なぜなら父親がこの国の実質最高権力者だから。
別に溺愛されているわけではない。娘は政略結婚の道具としてしか見ていないのだ。そして一人娘ではあるけど、それはあくまでミッドウッド家の一人娘。母は私を産んでから産褥熱でなくなっており、父は外でたくさん愛人を作って子供を産ませている。
父はほとんど家におらず、家に来たら買って来た奴隷を殴ってストレスを発散させる。
娘のタイグリッサはそれを毎日見ているだけ。会話はほとんどなく、母は不在。使用人も恐怖に縛られている。ただ奴隷が腹いせに私に危害を加えるものなら屋敷のどこかに隠れていた影のものが奴隷を子供の前で殺す。
そりゃ虚ろな目なるわけである。
ただ彼女もバカではない。会話もできるし礼儀作法は完璧。教養も豊富で、全体的にパラメーターも高い。
初めて彼女を登用すると剣術と格闘術の熟練度が共に29でかなり高め。限界値が33だから、別にマインドコントロールなくとも重装の鎧着せて前線に送ってもかなり使える。
別に武闘派というわけではなく、まだ3歳なのに様々な分野の教師から個人レッスンをさせられるのだ。
そりゃ将来の皇妃となるわけだから、そうなるわけだ。彼女はそうすることで父に愛されるなどという希望なんて持ってない。あんな残虐な父に愛されるとか、そもそも頭の中にない。
だから彼女はただ空っぽのまま、課せられたことを淡々とやる。それだけである。
いや、やらないけど。あれ全部スキルブックで出来るものだ。レッスンをされてあげる理由がない。
そんな無茶苦茶な世界観なのだ。この世界には才能の神という神がいて、それ以外にもたくさんの神様がいるんだけど、とにかく才能の神が勝手にスキル限界値を決めたり配ったりしている。
ただ才能の神もそうだけど、この世界の神々は聖書の天使みたいな見た目をしているのだ。
作中でもいくつかの特殊なルートで神様と会話ができる場面があるんだけど。
聖書の天使と言えばあれだ。羽が数百枚も生えており、大きさは数キロメートル。羽には無数の瞳があって…。
ただのホラーである。
人格があるかも怪しい。