10話 ターゲットを決める
エリオットはここ貴族街にある高級宿屋で泊まることに。いつまでかかるのかはわからないけど、父は迷宮にほぼこもりっきりで、家に戻っても彼は一人っ子なので、妹は生まれてすぐに病気で亡くなっている、長期的な滞在になって問題ないとのこと。
彼を見送ってから計画を練ることにした。何って、初の実戦の計画…、ではなくて。彼の母親を貴族の間の手から救い出そう計画である。少し手遅れ感はあるけど、別に殺されたり拷問されたりすることはないからそこはまだ大丈夫。
別に善意で助けたいと思っているわけではない。彼は純粋に潜在能力が高すぎるので、終わりを迎える帝国では恩を売って親しくなったら、彼の義理堅い性格からしてこっちに何かしらのメリットが転がってくることは想像に難くない。
それに、そろそろこの帝国内でエンネール公爵の娘ではない、タイグリッサという名前が持つ意味を人々にわからせる機会が欲しいと思っていたところだ。
マフィアの時もそうだった。
ある人物の名前を聞いたらそいつがどんな奴がに対しての評判が思い浮かぶ。そしてどう接したらいいのかは、みんなが知っているの同じ接し方をするだけでいい。
こいつの前では妻の話題を出してはいけない、そいつは喧嘩っ早い、あいつは薬を売るだけではなく頻繁にやってる、そういったものを考えながら接していた。私は、多分対した評価はなかったんだと思う。言われたことをやって、気に食わない奴がいたらわからせる。
それくらい。
口で言っても人々はわかってはくれない。人々が見ているのはその人が何を言っているのではなく、その人がどのようなことを今までしてきたかなのだ。
「ジェフリー。」
「はい、お嬢様。」
「ウィットン子爵に関する情報をできるだけ詳しく説明して。」
「お望みのままに。」
ウィットン子爵という名前は『アルガリータ戦記』には登場しない。登場しないから雑魚というかはさておき、登場しないためどのような能力、スキルを持っているのかがわからないのは少しだけ気掛かりなので。そこまで強力な能力を持つ人物ではないのは彼が戦場で功績を立てたことがないことから何となく予想はつくけど。
「今年で34歳、見目がいいところから昔から社交界では注目の的で、貴婦人たちとは親しくしており、主に未亡人の相手をしていたようです。そちら方面での腕は確かで、どのような女性であっても彼にかかればたちまち旦那様の味を忘れてしまうようになったと。」
「その手の事情は別に詳しく話さなくていいわよ。要はどのような役職についていて、誰とつながっているか。そういうのが聞きたいの。」
「そうですね、賢いお嬢様には夜の事情よりそちらの方がお気になさると…。しかしながらお嬢様、それこそがウィットン子爵という人物の本質でございましょう。」
「というと?」
「人のつながりはただ権力同士での繋がりには限らないという話です。彼は年を取ってでもその美貌は衰えるどころかますます磨きがかかり、貴族の男性までもが彼に心酔しているとのこと。つまり彼は数多な人々を魅了し、お嬢様の父君であらされらるエンネール公爵様のような、苛烈で女性のみに魅力を感じる人ではない限り、どのような人物であるとしてもつながりを持っていると見たほうがよろしいかと存じます。5年前からは見目のいい男女を借金返済を理由に一定期間連れ込み、裸で給仕をさせたり、自由に抱いてもいいおもちゃのようにする貴族の裏の社交パーティーを主導して行っておりますので、そちらの繋がりでも多くの貴族が関わっているとみて間違いないでしょう。」
「逆に彼に手を出したらしっぺ返しを食らうということかしら?」
「場合によるでしょう。派閥の問題などもございますので何とも。」
「例えばお父様が彼を処断するとかを想定することはできないの?」
「どのような理由で?」
確かに、理由がない。貴族の淫行なんて割と溢れているのである。
「そうね、役職にもよるとは思うけど。」
「私としたことがまだそれに答えることをせず、申し訳ございません。」悪びれた様子もないすました顔をしているジェフリー。会話を楽しんでいるだけなのか。
「うん。それで、役職は?」
「おりません。」
「ないって、なんの職にもついてないということ?」
「多くの未亡人たちから貢いでもらったお金は領地を丸ごと買うことができるほどだと。」
私はそれを聞いてから心が決まった。殺して奪う。
「わかったわ。ありがとう、情報料として何か欲しいものはある?」
「それなら、お嬢様の手の甲に口づけをする許可を。」
「そんなものでいいなら。」私は彼に手を伸ばした。彼は私の手を掴み、軽く握ってから手の甲を、舐めた。
「口づけと言ってなかった?」
「つい。」
無言で見つめあう。彼は笑顔でこっちをずっと見ていた。
「ウィットン子爵の肖像画を一枚探してくれないかしら。」帝国法で貴族の肖像画は写実的に描くようになっている。お見合いだけではなく、外交や定例会議での出席確認のための資料としても使われるので。
「御意。」
それから一日通してすべての個人レッスンが丁度終わったころ、ジェフリーがa4用紙サイズほどの肖像画を持ってきてくれた。
「経費は私宛に書いておいて。」
「それには及びません。代わりに私めからの質問を一つ許可いただきたく。」
「いいわよ。答えられるものなら答えるから。」
「ウィットン子爵に興味がわいた理由は何でございましょう?」
肖像画で見ても彼は確かに見目のいい人物なのが分かる。そして彼は原作では違う名前で出てきていた。作中での名前はユングレイブ。肖像画は両目ともちゃんとあるけど、『アルガリータ戦記』では片目を失っており、闇魔法の限界レベルが34と高い。つまり魅了の類の魔法が使えるということ。ジェフリーはそれまでは知らなかったようである。
そして彼は、ユングレイブ暗部に所属している暗殺者でもある。帝都を陥落させた時点でも暗部は手に入らない。帝都を調べるというコマンドが出てくるけど、それをせずにそして数ターンの間放置すると、暗部は別のところへ拠点を移してそこにある勢力と結託してから主人公に暗殺者を仕向けてくる。
その中には女性キャラを選択した時に現れる暗殺者がいて。
「彼の本当の名前はユングレイブというの。見たことがあるわ。」
「そうでしたか。やはり彼にご興味がございますようで。」
「そうね。興味はあるの。」
彼の肖像画を机の上に置いてダガーで額を貫く。
「高度な闇魔法の使い手は私一人で十分。彼は邪魔だわ。」
「それはそれは。」私の言葉にジェフリーは嬉しそうに微笑んでいた。こいつ、思ったより腹グロな気がしてならないんだけど。拾う執事を間違えちゃったのかな…。




