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1話 またまた死んでしまうとは情けない

前世の記憶を取り戻したのは死ぬ20分前。

それまで20代の平凡なニートだった私は真夜中気まぐれにお散歩をしていて、後ろから男に羽交い絞めにされた。

その時私の前世での記憶が流れ込んできたのである。

前世の私はアメリカ人で、男で、平凡なマフィアだった。平凡なマフィアって何ぞやという話だけど、別に人々の記憶に残りそうなマフィアじゃなかったんだから。

何人か殺したことがあるけど、相手はビジネスライバルというか、こっちはイタリアンマフィアで、相手はアイリッシュ系やロシア人マフィアという話。

マフィアだからと喧嘩が強いわけではない。ただ、まあ。そう。人を殺すことに躊躇しないだけ。

それでも今世では女で、相手よりも力が劣ることは明確。不意を打つにもこれと言った道具は…あった。

ジャージのポケットに玄関の鍵があった。それを握り、これくらいかなという場所に腕を上げてぶっさす。

狙うは一撃必殺。鍵で目玉を貫くことに成功し、男は悲鳴を上げながら腕を離した。

平和ボケしていた今世では少しだけ刺激が強すぎた気がしなくもないけど、どうとういうこともなく。精神的なショックがなかったのは幸いだったのかどうか、今になってはよくわからない。そのまま逃走したほうがよかった気もする。

ただそうしなかったのはマフィアの時の習慣。やるなら徹底的に。そうしないと報復される。

だから私は男の目玉から出た血液や眼球からこぼれた液体が付着した鍵をまだ握り締めたまま男にタックルをかました。幸い私は食べ過ぎ系のニートだったので体重はそれなりに重く、男はあっけなく転んだ。私は念のため男の残りの目玉に鍵をぶっ刺した。男は恐怖に満ちた顔でこっちを見ていたけど、もう見ることはできなくなったね。

幸い道は暗く、ここら辺には監視カメラもついていない。

近くにはトンネルがあって、小川も流れている。私は体重をかけて男ののどを鍵でえぐった。血がドバドバっと流れる。痛そう。

しかし、まあ。私ってこんなに残虐だったんだと今更思い返す前世の記憶。何人も殺して埋めた。時には銃で、時には拷問して。

それが祟ったんだろう、私も最後はアイリッシュ系のマフィアに捕まって3時間ほど拷問されてから死んだ。

顔の皮をはがれ、手と足の指はすべて生きているうちに切断された。

歯も抜かれた。みんなやってることだった。指紋と歯の記録は身元を証明するから、全部消すのである。

よくもそんな残酷な世界からこんな平和ボケした国に生まれたものだと実感する。

そして男の死体を引きずって、川に捨てる。

目撃者はいないのか再三確認する。

ああ、いた。

そういえばこの季節になると小川の周りに真夜中になるとカップルが車を止めていちゃついたりするのである。

死体を捨てたところで車の中の女性とばっちり目が合った。

どうしようか。

殺そうか。いや、もう私はマフィアでも何でもない。

ただのニートでオタクな、肥満体の20代女性でしかない。

親とはあまり仲が良くないというか、肥満だったことからいじめられ、不登校になってからほとんど会話らしい会話はしていない。

もっと前に思い出せたらよかった。

そんなちんけな、平和ボケしたいじめごときに屈するわけがないのに。

さすがに殺すことはなかったにせよ、運動をして殴って、停学をされてもまあ、社会ってマフィアのころにも思ったことだけど、資本主義社会は市場経済の中に入るだけでいいのに、別に自分がどんな人間かなんて誰も気にしちゃいない、お金になるような仕事をしてそれで生きればいいものを、それも出来ず。

平和ボケしているのに中途半端に暴力がはびこるような、どうしようもない状態で生まれたのが悪かったのかもしれない。

もういいや。私はまだ鋭さが残ってる鍵を自分ののどにぶっ刺した。男の死体に横たわり、空に浮かぶ月を浮かべる。

前世からろくな人生ではない気がする。もっとまともに生きられないものかと。

まあ、自分でもそれは信じちゃいない。世界は真面そうに見えてそうでもない。

たかが喋るようになった猿が服を着て歩いている世界なんぞ、どこへ行っても変わりはしない。

次があるならせめて、こんなことになる前に、自分が覚えていることを思い出してみたいものだと最後に思ったのであった。



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