2036/5/30
2036年のネバダを君たちはどう想像するだろう?
2036年のニューヨークをどう想像する?
車は全自動で走り、空には無数のドローンが行きかい、ホログラフィーの広告が宙に浮いている?
残念なことに、俺の2036年のアメリカは滅亡寸前だった。
コロナウィルスは変異株の種類が1000を超え、人類は皆、防護服を着て外では過ごしている。
アメリカは東西に分裂して内戦をし、ロシアは西進政策を推し進めEU諸国との戦争になった。中国は韓国、北朝鮮を併合し、中華真人民共和連邦として日本とインド、オーストラリアと戦争になった。
その最中もコロナウイルスは猛威を振るい、数十億の人間が死んでいった。
人類の総人口は10億にまで落ち込み、第三次世界大戦は勝者亡きままフェイドアウトしていった。
人類よりも、力も知恵もないウイルスの方が凶悪だった。
コロナウイルスを殺すウイルスを作る。
誰かが言い出したアイデアを実践するために俺は過去へと飛んだ。
ネバダベースでの二週間の経過処置が終わり、俺もまた抗コロナウイルスアンプルの治験者として接種を受けた。
「タイター、君には2021年に飛んでもらいたい。コロナウイルスは無数にあるが、なかでも驚異的な毒性を持つのがインド型だ。オリジナルのインド型を確認したい」
上官のスミス大佐がそう俺に指示を出す。
「わかりました。コロナ原種に対してもこの抗コロナアンプルが有効かのテストですね?」
「その通り。君にばかり難題を押し付けて済まない。タイムマシーン耐性が高いダイバーだからね、君は。経験も豊富だ」
「お世辞を言っても何も出ませんよ、大佐」
「これがミッションの概要だ」
俺は大佐から薄いプラスチックフィルムの指令書を受け取った。この時代、紙は高級品で、全ての書類がプラフィルムに置き換わっていた。
作戦概要に目を通す。
2021年に行き、インド型ウイルスに感染した人物の血液を入手する。
タイムテレフォンで、2021年の軍部には話が通してあるらしい。