何で俺が3
何日か経過した。
数えるのはやめた。意味がないからだ。およそ20日近くさまよっていると思う。
どうやって生き抜いているかと言うと、狩りをしている。
なかなかこの体はスペックが良いらしい。それだけじゃない。
感覚で狩りの仕方がわかるのだ。犬は集団で狩りをしているものだと思ったが、こいつはずっと一匹で生きてきたのかもしれない。
動物をみてからは、異世界が確定した。
ウサギっぽいやつだったり、狐っぽいやつだったり、ゴブリンぽいのもいた。ほかにも、スライムっぽいやつだったり、蜘蛛っぽいやつだったり色々いたが、基本的に俺を見て逃げるやつは獲物だと思って食べた。
しかし、問題がひとつあった。肉であれば、俺の舌には合わないものはないのだが、合い過ぎるのだ。
骨を噛み砕く音が顎から脳に響き、口に広がる芳醇な血の香りが人間よりも何百倍も良い鼻を突き抜け全身を震わせる。
つまり、理性が薄くなるのだ。
恐らくこの時の状態が野生に最も近いと考えられる。この状態になると、思考が確立できず感覚での判断が優先される。
しかし、この状態が格別に気持ち良いのだ。
一番近い状態は酒を飲んだ時の状態だ。薄くなるだけだから、保てないわけではない。しかし、目の前の快楽に抗う理由や、理屈がなければ身を任せてしまう訳だ。最高に心地よい。獲物を貪り尽くしてしまう。
今日、合わせて7匹俺の牙にかかり命を散らし、俺の欲望を満たしてくれた。
そして、一つ進展ががあった。
夜、寝ていると何かが燃える臭いがしたのだ。久しぶりに嗅いだ臭いが気になって急いで見晴らしの良い場所まで駆けると、やはり火事が起きているようだった。
山の向こうの空が紅蓮に染まっていた。
山火事かもしれないが、行ってみる価値はありそうだった。
空が白み出した頃、俺は移動を開始した。
今の俺は、人間の足では、1週間かかりそうな距離も俺の足では2日とかからない。
山ひとつ登るのに時間はあまりかからなかった。
山の山頂付近に着いて燃えたであろう場所を見下ろすと、巨大な建物が、一つ燃えたようだった。
山頂から見て、経験からの計算だが、かなり大きな建物だ。
あれだけ巨大な建物が燃えたとなればそこそこ生き残っている人間はいるだろう。
俺は期待をよせ、歩を進めた。




