賢者
あれだけスパッといければ、敵の姿を見なくても勝率半分って言えるな。
俺もあれ欲しいわ。
そういえば、俺と対峙した時に出さなかったな。震えてたし。出すのに時間がかかるのか?
そうこう考えているうちにフェリスがこちらに駆け寄って来て、何か言葉をかけてきた。声色的には心配している感じだ。
そういえば、ボロボロのふりをしていたな。
「大丈夫だ。ただ、やられたふりをしていただけだ。」
そう返したが、俺はアムディア以外とは話せないことを思い出した。
結果として、ただ、フェリスと見つめ合うだけになってしまった。
そして、見つめ合ったまま沈黙が流れていく。
「やはり、容姿はとても良いな。」
俺が出会ったときの第一印象は、美少女だったが改めてこうして見ると間違いでは無かったことがよくわかる。
すると、フェリスが俺の顔に向かって手を伸ばしてきた。
意図が不明だが、おそらく目の前にいるもふもふした動物に触れてみたいのだろう。そう考え、俺は避けようと思ったが動かないことを選択した。
フェリスの手が俺に触れようとした瞬間、
「~~~~~!!」
アムディアの声が聞こえた。
声のした方を見るとアムディアがこちらに手を振りながら走ってくるのが見えた。その後ろにはメルトの姿もある。
そして、どうやらフェリスは俺に触れようとするのをやめたらしい。アムディアたちに手を振って答えていた。
まず真っ先にアムディアは俺のもとに駆け寄ってきた。
「大丈夫!?どこか痛いところはない?」
明らかに動揺している。
「大丈夫だ。案外俺の身体は丈夫にできているらしい。」
一撃で倒せなかった場合、逃げ出そうとしていたため自分の中に後ろめたい感情が湧く。
「よかった~。ドラゴンの攻撃で結界が壊れちゃったみたい。何度呼び掛けても反応しなかったから死んじゃったかと思ったんだよ。」
アムディアは胸を撫で下ろしながら言った。
近ければ普通に念話ができるようだ。そして、アムディアの不思議パワーは結界のおかげか。それならば合点がいく。
「心配してくれてありがとう。ところで、この結界って町とかにもあるの?僕もアムディアみたいに瞬間移動してみたい。」
これは、一度体験してみたい。景色が一瞬で変わるというのはどんな感覚なのだろうか。
「うーん。私はここから出たことが無いから分からないんだ。 フェリスちゃんたちにに聞いてくるね!」
そう言うとフェリス達のところに行って少し話して帰ってきた。
「えっとね、賢者の結界は世界を探してもあんまりないって。」
そうか。賢者か。 まぁ、勇者がいれば賢者がいてもおかしくないか。つまり、ここは少なくとも賢者がいたと言うことか。
これだけの性能は特殊な人材でなければ作れないというのは少し残念ではあるが自分の脅威になりそうな奴は少ないに越したことはない。
勇者と賢者これは、確実に繋がりがあるとみてよいだろう。
そういえば、ドラゴンに邪魔されたがフェリスの話が途中だったな。その事も聞けるかもしれない。
「ねぇ、ゾルディア、私も一つ聞きたいことがあるの。」
「ん、なんだ?」
アムディアが改まった言い方をしたため少し違和感を覚える。
「ゾルディアは、賢者に会ったことがあるの?」
「いいや、ないよ。」
質問の意図が理解出来ない。
「何んでそんなことを聞くんだ?」
「ゾルディア、賢者と同じ言葉を使ってたから。会ったことがあるのかなと思って。」
そんな賢者のような特殊な解説や生態などを語った覚えは一切ない。
「どの部分からそう感じたんだ? 何か分かるかもしれない。」
まぁ、99%分からないと思うが。賢者が俺と同じことを言っているのであれば逆説的に俺も賢者、あるいは賢者の素質があるのかもしれない。これは、希望がある。
……犬で賢者ってアリなのか? ちょっとテンション上がってきた。
「えっとね、ドラゴンが降りてきた時に「オワタ。」って言ったよね。賢者も同じような言葉を使ってたの。」
「なるほどな~。」
ちょっと浮かれていた俺は適当な反応を返してしまった。
「え?」
賢者、日本人説浮上。




