納得
もう、思考を放棄したい。
自分で考えたところで問いに対する答えがでないからだ。
聖剣? 召喚したところで勝算は?相手はどんな奴?本当に逃げ道は無いのか?
………もう、どうでもいいか。自分の生きる道のみを模索しよう。
俺はワンマンプレイの方が得意だ。長いことそうしてきた。これからも変わらないだろう。
「アムディア、不意打ちであれば勝てる可能性はどれぐらいか聞いてくれ。」
俺からの問いに対して、フェリスは短く答えた。
「半分だって。」
「わかった。先に外に出て俺が囮になる。」
アムディアがその事を伝えると、フェリスが了解した。
相手がどんな奴かわからないのに勝率が50%は意外だった。
しかし、ここで大事なのはしっかりと攻撃してくれるということだ。
俺が生きるための手順はこうだ。
1.先に囮として出て、自分には被害のでないようにヘイトを集める。
↓
2.フェリスが不意打ち。
↓
3.ヘイトがフェリスに移行。
↓
4.遠くへ離脱。
大雑把であるが、フェリスは性格的に確実に攻撃を実行してくれるだろう。
逃げるチャンスがあるのはそこだ。
さっさと、実行しようか。いつ次のブレスが来てもおかしくない。
「先に出る。確実に不意打ちを決めるように伝えてくれ。」
これで、後には引けない。誰も。
俺は窓を頭で突き破り、外へと疾駆した。
そして、初めて見るその相手に驚愕した。
体調は10M以上の巨体。身体が人の手のひらサイズの鱗で覆われ、人を丸のみできそうな口には肉食獣を彷彿とさせる牙が生え揃っている。そして、パッと見、4足の生物かと思われたが、前足の付け根から脇にかけて翼が生えており空を飛ぶこともできそうだ。
これは、俺では歯が立たないな。逃げるしかない。
ドラゴンが飛び出してきた俺に対して咆哮を浴びせる。俺の平行感覚が狂う。
しかし、俺は止まらない。一度止まったらその時は死が俺を捕らえるだろう。
俺は、半円を描くように走り、ドラゴンが樹を背に向ける位置取りを行う。
遮蔽物はない。身を隠すことのできる森に逃げたいが聖剣と言うからには近接攻撃になるため、あまり離れられない。
つまり、使えるのは己の身体のみ。
ドラゴンが身体の向きを完全にこちらに向ける。
すぐに飛び掛かってこない当たり、獲物と言うより外敵としてとらえられているようだ。
相手の出方を伺う。
ドラゴンもこちらの様子を伺っている。
永遠とも取れる時間が流れる。
先に動いたのはドラゴンの方だった。奴は予備動作そこそこに跳び掛かってきた。そして、空中で身を翻し尻尾を俺めがけて鞭を打つように放ってきた。
俺は、それをステップを踏むように大きく避ける。
音速を越える速度の物が地面に叩きつけられ、周辺に散弾のように石が飛び土煙が舞う。
俺はすぐさまそこからさらに距離をとる。同時に、虎バサミよりも凶悪な物が土煙から現れ、ガツンと音を鳴らし俺のいた場所を切り取るようにその口が閉じた。
攻撃を避けられたことで忌々しげにドラゴンがこちらを睨む。
俺は変わらず相手の動向を探る。
するとドラゴンが身を起こし、犬で言うとお座りのような形をとる。
およそ2秒後、魔方陣がドラゴンの周りに多重展開され1mほどの火球が連続して飛んできた。走り、ステップを踏みながら避けるも、着弾すると爆発するおまけ付きだったらしい。
何発かもろに食らってしまった。
だが、ダメージが思ったよりもない。こうやって、攻撃を受けること自体が初めての経験であるが、この身体のスペックは相当に良いらしい。
しかし、俺はあえてダメージを負ったふりをする。被弾や土埃を被っているのでそれらしく見えるだろう。
それを見たドラゴンが有効打とみて再度火球を出す魔方陣を多重展開し、俺に放たれた。
最初は避けるが、残りの3つぐらいを爆発と土埃に紛れ、被弾したのように見せる。
いい感じにボロボロに見えていることだろう。
そして、ドラゴンが止めの一撃とばかりに、巨大な火球を魔方陣を展開し作り上げた。
流石に、あれはヤバい。だが、止めと言うのは呆気なく、アッサリとやらなければいけない。それは隙が大きすぎる。
急にドラゴンの作り上げた巨大な火球が霧散した。
続いて、ドラゴンの首が落ちる。
「納得の50%だな。」
戦闘が終了した。




