思考放棄
「………え?」
貴族とかそういったものはなんとなく雰囲気から察することはできたが、勇者ってワードが出てきた時点でもうめんどくさい。新たな疑問点が増えた。
俺が知っていることは、勇者と魔王はセットであり、様々なデカイ勢力が絡み合ってくる。
これがその通りであれば、目の前にいるこの少女はそのデカイ勢力のど真ん中の人物でありトップの存在だ。
正直、関わりたくない。
………てことは、俺はどちらかというと魔王側じゃね?
それはまず置いておこう。
もうアムディアに通訳になってもらう他ない。
「アムディア、通訳になってくれないかな?色々聞きたいことがあるんだ。」
「うん、いいよ!」
「まず、お礼の件だけど僕に人間の世界のこととかを聞かせてくれないかな?」
人間との関わり方が、これによって変わる。
「わかったって。でも、それだけでは足りないから、ちゃんとお礼させて欲しいって。」
とりあえず、情報は聞けそうだな。
「じゃあ、とりあえず、君たちは何で……」
「GYAAAAAAAAAAAAAAA!!!!!!!!!」
質問しようとした瞬間地響きのようなものが周囲を震撼させた。俺を含め、全員が姿勢を低くした。
「なにこれ。」
「たぶんドラゴンだよ。」
呟きのように発した言葉に対してアムディアが答えてくれた。
「いつもはこんなに近くにこないんだけどね。」
ファンタジー恐るべし。この調子だと想像もしない生物が出てくるのも時間の問題やもしれない。
全員が気配を消し、家の外に気を配り、探る。
しばらくして、メルトが何やら小さく声を発した。
「能力の警報は発動していないって。見つかってないみたい。」
確かにこの場所は樹の根の奥まった場所にある。上空からは発見はできないだろう。しかし感覚的にかなりの近さで吼えた気がする。
(ズドン!)
音と共に揺れが走る。
「これ、絶対降りてきたな。ヤバくね?」
「うん、でも見つかってないらしいから大丈夫じゃないかな。」
アムディアは硬い声色で答えた。
それから、3秒。
「~~~~~~!!!」
メルトが警告を発した。
彼女らは、外方向から離れ思い思いに身を隠す。
一方、俺は身を伏せるのみだ。この身体の大きさで隠れるところなどない。
そして、
閃光と轟音が世界を作った。
何分か、何秒か続いたかは分からないが、生きているらしい。巨大な音というものはなかなか恐怖を掻き立ててくるものだ。久しぶりに感じた。それがまだ生きていると言う事実を叩きつけてくる。
そして、自分の世界が再構築されていく。
家の中は物が散乱したり、ガラスが割れるなどして、ひどい状態だ。何が起きたのかは一切わからない。ドラゴンだから、ブレスの類いだろうか?
「次は耐えれないかも。」
アムディアの声が頭に響く。
ブレス?を受けたはずの壁は焦げなど一切ない。衝撃を受けたのは何だ? いや、そんなことを考えている暇はない。
「脱出できる裏口とか無いのか?」
「うん。」
「地下室とかは?」
「ない。」
「オワタ。」
「え? うん。」
そんな、やり取りをしていると、フェリスが立ち上がり何かを全員に告げる。
それを聞いたメルトが何やら騒ぐ。
こいつ、絶対に囮になるとか言ってる奴だな。目があの時と同じ、確固たる意志をはらんでいる。
「アムディア、フェリスは何て言っているんだ?」
「聖剣を召喚してドラゴンと戦うって。」
「…………oh,fantasy.」




