冒険者
一話書くだけで数ヶ月かかってしまった……。なろうで大成した小説家さん達ってすごいな…;
……………………♪
歌が聞こえる。いつもと同じ、温かな夢の中で。
………♪………♪
柔らかな女性の歌声。確証は無いけれど、これは子守唄だ。
物心つく前から聞こえていた、とてもとても優しい歌声。
……♪……………♪
ぼんやりした視界に写る、自分を抱きしめて微笑む人影。歌っているのは間違いなく目の前の人物だろうが、自分はその人物を知らない。でもなぜだかその人物は懐かしくて………。
「ーーーーー」
なぜだか、どうしようもなく泣きたい気持ちになってくるのだ。
「……グニ………アグニ……!」
「………ん?」
微睡みから引き上げられる感覚に目を覚ませば、視界に見知った顔が入る。切れ長の涼やかな紫色の眼差しの女性の姿を認識し、アグニは寝ぼけ眼で女性の名を呼ぶ。
「………メル」
「やっと起きたか。もうそろそろ起床時間だぞ」
呆れたように腕を組む女性は、翠の髪を靡かせてため息を吐く。
「ん………ふわあ……おはよう」
「おはよう。朝食はすでにできているから、着替えてからこい」
「おう」
洗面所で顔を洗えば瞬く間に眠気が覚める。濡れた顔をタオルで拭き、アグニは鏡に映る自分の顔を見た。
「………」
クセの強い金色の長い髪、透き通るような翡翠の双眸、鍛え抜かれた筋肉質な体躯を引き立てる、日に焼けて健康的な褐色の肌。20代の男性としては申し分ない肉体は人間と変わらない。
その頭部に二本の赤い角、その口から鋭い二本の牙が出てさえいなければ。
「………寝癖ひでえな」
しかしアグニは気にもとめない。彼の種族『竜人』において、それはあたりまえな特徴ゆえに。
しかしただ一つだけ、彼には『竜人』にはない特徴がある。鏡越しに何気なく見やる自身の肩、手の平大の大きさの胎児のように丸まる赤い竜の痣。自らの『種族』の証にして、生まれてから今日まで自身のアイデンティティを否定し続ける印。
「…………」
しばしその痣を見たアグニはわずかに顔をしかめるも、胸に沸いた小さな感情を払うように頭を振り、身支度を整えて洗面所を後にした。
余計なことは考えなくていい、早くメルと朝食を食べるんだと、自分に言い聞かせるように。
「お~すお待たせ。あ、今日はパンケーキか!?」
台所に入る前から漂う香ばしい匂いにアグニの目が輝く。覗きこめば二人分の焼きたてパンケーキが湯気を立てて並べられていて、苦笑するメルがやれやれと首を振ってミルクを注いでいる。
「好物に関しては本当に勘がいいな」
「メルの作る飯はみんな美味いからな!」
にししと牙を覗かせて笑顔を見せるアグニは無邪気な子供のようで、メルは肩を竦めながらも微笑んで席につく。
「はいはい、じゃあ温かいうちに食べるか」
「ああ!」
向かい合わせになるように席につき、二人とも同じタイミングで両手を合わせる。
「「いただきます」」
本日の朝食はアグニの好物であるパンケーキ。パンケーキといってもスイーツ向けの甘い味付けではなく、胡椒と塩味をベースにしたおかず向けの味付けにアメリケーヌソースをかけたものである。付け合わせのソーセージとスクランブルエッグ、茹でたほうれん草との相性は非常にいい。アグニが美味い美味いと食べている姿に、メルも自分の作る料理を褒めてもらって喜ばないわけがなかった。
「そうだアグニ、今日の予定はどうなってる?」
「んむ? 9時半からギルドで報酬貰いに行くつもりだけど」
一旦食事の手を緩め、二人の目線が合わさる。
「いやな、エビを切らしてしまったからダニエルさんの店へ買い出しに行こうと思っていたんだ。だからギルドへ行くのは少し遅くなる」
「あ~、全然構わねえよ」
「ありがとう。じゃあ朝食の片付けが住んだらすぐに行こう」
「おう!」
アグニ達が住むシャンティ村は、牧場と麦畑が広がるのどかな農村である。その為か住民達の多くは百姓か職人の家系が多く、自分の畑などでとれる野菜を使った自給自足が一般的だ。だがメルが向かう「珍味の食材店」は地元では採れない珍しい食材の販売を生業としている店で、異国の味に憧れる村民達からの人気が高い。
「すみませ~ん! ダニエルさんいますか?」
「はいはい、ちょっと待っててね~」
メルの呼び掛けに応え、店の奥から灰色の肌に立派な角の中年のサイ獣人が顔を出す。彼がこの店の主人のダニエルである。
「やあメルちゃん。今日は彼氏と一緒じゃないのかい?」
「アグニはギルドに行ってます」
フフフと下世話な冗談を交わすダニエルにやれやれと苦笑しつつ肩を落とすメル。もはや恒例になりつつあるやり取りをスルーして、店先の食材を見回す。
「今日はエミルエビを買いにきたんですが……」
「ああ、エミルエビね。ちょうど仕入れたばかりだよ」
言うや大きめの水槽が並んだ棚に歩み寄り、赤いガラスの水槽を覗きこむ。メルもつられるように覗きこむと、手の平大の黄色の縞模様のエビが水槽内を元気に泳いでいるのがみてとれる。
「じゃあいつも通りで」
「あいよ~」
備え付けの網でエビを掬えば、ピチピチと元気に跳ねて水を弾く。それをメルが持つ袋に次次と入れていき、二十匹ほど入ったところで袋を閉じた。
「いつもどうも」
「なあに、世話になってるのはこっちのほうだよ。毎度あり」
代金を受け取り笑顔を向けるダニエルにメルもニッコリと笑顔で返す。
「では、私はこれからギルドに行きますので」
「うん、頑張ってね!」
軽く会釈して背を向けるメルは、その場を後にする。ダニエルはしばし笑顔でその背中に手を振っていたが、姿が見えなくなると腕を降ろした。
「あんな良い子達が、どうして………!」
人の良さそうな笑顔が引っ込み、ダニエルの表情が歪む。血が滲むのではと思うほど拳を握る姿。それは悔しさとやるせなさが混じったものだった。
冒険者。名前こそロマン溢れた職業であるが、その仕事内容はある種の便利屋のようなものである。難度の高い素材集めは勿論のこと、行商人の護衛に資材の運搬、はては探偵じみた素行調査などを幅広く行っている。
元々貧困な村の稼ぎの為に、村の力自慢達が立ち上げた私設の何でも屋を祖とする職業は、事情があって公務職を辞めた元騎士や、訳アリで堅気の職につけないが腕に自信のある戦士等がより集まり、現在は『冒険者ギルド』と呼ばれる一大組織へと成り上がった。
訳アリな人間も所属しているということもあり、一部の堅気から白い目で見られることも少なくないものの、公務職等が様々な制約等で動きにくいのに対し、冒険者は見合った報酬を掲示し依頼されれば即座に行動してくれるというメリットから、市民や上流貴族から重宝されている。
「それではこちらが今回の報酬になります。ご確認のうえ、領収書にサインをお書きください」
「おう!」
アグニの前に封筒と書類を差し出し、受け付け嬢は営業スマイルを見せる。アグニはまず厚さ数㎜の封筒を手に取り、封を開けて中の紙幣を取り出す。パラパラと念入りに枚数を数えてから額が間違っていないことを確認すると、今度は封筒の奥にある貨幣を受け付け台に落とす。これまた一枚一枚念入りに数え、報酬の総額がしっかり支払われているのを確認し、再び封筒に全額戻す。
「え~と……」
慣れた手付きで備え付けのペンを手に取り、二枚の書類の空白の欄に自身のフルネームを書き込めば、ようやく手続きが完了する。自身控え用の領収書と報酬の入った封筒を手に取り、受け付け嬢に笑顔で手を振れば、彼女も嬉しそうに手を振って返した。
踵を返してギルドの待ち合いテーブルに向かえば、ラヴィとレイが座っているテーブルに大手を振って元気な声を出し歩み寄る。
「終わったぞ~!」
「お疲れさま」
果実水を飲みながら寛ぐレイは、アグニに気づくと笑みを浮かべて軽く手を振る
「どうだった?」
ラヴィは小皿一杯に盛られたビーフジャーキーを一切れ齧っている。
「順調順調! あ、俺も摘まんでいい?」
「いいぞ」
許可を貰い、ラヴィの隣に座ればアグニもビーフジャーキーを一切れ齧る。
ストゥラヴィ・リヒトドゥンケル。愛称はラヴィ。
その容姿は銀色の短い髪と切れ長の紅い双眸。並の女ならば二度見すること間違い無しな線の細い美男子そのものだ。そしてその容姿に違わないとも言えるクールで近寄りがたい雰囲気もまた、ギルドの女冒険者達をうっとりと酔わせているのを当人は知らない。
そんなラヴィの向かいに座るのは、彼の双子の実兄。レーベル・リヒトドゥンケル。愛称はレイ。
ラヴィと対照的に金色の短い髪の色かと思えば、首筋の襟足部分だけが黒という変わった髪色をしている。兄弟である為か紅い双眸と顔立ちはラヴィと同じ美男子だが、近寄りがたい雰囲気のラヴィに対して社交的で人の良さそうな笑みを絶やさない、爽やかな雰囲気を出している。どちらもその場に居合わせた女冒険者達を魅了するほどの『イケメン』だ。
かくいうアグニも、二十代の割には童顔とも言えるあどけない顔立ちをしているので女性受けはしそうではあるが、それでも方向性が真逆な大人びた雰囲気を持つ二人のほうがモテる。
そして三人とも、ギルドで知らぬ者はないほどの実力者でもある。アグニは徒手空拳と炎を繰る武闘僧、メンバー随一の高火力を持つメインの『前衛』。対するラヴィは回避と剣術に特化し白光を用いる軽戦士、メンバーの中ではアグニに次ぐメインの『前衛』。レイは影渡りと超感覚を駆使した槍使い、メンバーの危機を誰よりも察知し知らせる『斥候』である。
階級・依頼達成率・信頼度の全てがギルド内でもトップクラスな彼ら『十人』は持ってしかる実力を発揮し、歴代の冒険者チームでも数えるほどしかいない短期間での金階級昇格を成し遂げているのだ。
そんな彼らだが、他愛もない雑談を交わしながら時折爆笑する姿は至って普通の冒険者と変わらない。もし彼らのことを知らない一般人が見れば、彼らの階級が金とは思わないことだろう。
「あ、そういえばさ!」
「?」
それまで雑談に笑っていたアグニが、急に目を輝かせる。思わず目を合わせる双子のうち、レイはキョトンと小首を傾げる。
「受け付けさんが言ってたんだけどさ、俺らそろそろ白金に昇格できるかもってさ!」
「「白金!?」」
アグニの口から出た言葉に、驚愕の声を上げる双子。ラヴィに至っては机をバンと叩いて椅子から立ち上がり、座っていた椅子が後ろに倒れてしまった。
冒険者には個人ごとに階級が存在する。実力・依頼達成率・人格面・信頼度などを総合的に評価し、その冒険者に見合った階級をギルドが決めるのだ。そして階級ごとに受けることができる依頼も決まっている。
階級は全部で六階級存在する
第一階級は『鉄』。いわゆる冒険者駆け出しの初心者である。主に階級が上の冒険者の付き人として同行し、冒険者の仕事がどういったものかをある程度学び、時には実際に経験することで冒険者としての心構えを磨いていく。単独で受けれる依頼は薬草の採取など簡単なものが主流。
第二階級は銅。まだ一人前とは言いきれないものの、鉄よりもある程度実力がついた冒険者。単独で受けれる依頼は弱い害獣の駆除が主流。
第三階級は銀。銅からさらに実力をつけており、この階級に至ってから初めて一人前の冒険者となる。単独で受けれる依頼は鉱石の採掘や猛獣の討伐など実戦的なものが多い。
第四階級は金。この階級は冒険者ギルドの中堅どころであり、当然ながら幾多の困難を潜り抜けた実力者ばかりである。単独で受けれる依頼は商人の護衛や、犯罪者・凶悪な猛獣の討伐に稀少鉱石の採掘など、銀に比べて難易度が飛躍的に上がる。
第五階級は白金。かなりの実力を持った者がなれるまさに冒険者の花形であり、その分昇格は極めて難しいとされている。受けれる依頼は一国の王が直々に依頼することもあり、場合によっては権力者のコネを得られることもある。
そして第六階級は金剛。白金からさらに選りすぐられた者のみが昇格できる、正に最高位の冒険者の称号。当然ながらその階級に至る冒険者は数えるほどしかおらず、全員が英雄と称されるほどの最強格の冒険者達である。ゆえに彼らが受けれる依頼の詳細を知る者はギルドの受け付け以外にはほとんど居ない。一説では世界の危機を未然に防ぐべく、水面下で活躍しているという都市伝説がまことしやかに囁かれている。
そのうちの白金階級への昇格。彼らが冒険者になってからの期間を考えれば異例の早さであり、ラヴィが思わず立ち上がるのも無理もないだろう。
「本当か?」
未だに信じられない話につい怪訝な顔になるラヴィに、アグニはハッキリと笑みを見せて頷く。
「ああ。詳しい内容はこの封筒の中に入っているらしいから、みんなと相談してみてくれってさ」
「ふ~ん……」
アグニがテーブルの上に置いた封筒を、レイが顎に手を添えまじまじと見る。色は茶色く、オーソドックスな角封筒。紅い封蝋には一切型崩れしていない印璽が刻まれており、後から誰かに細工された可能性が無さそうなのは間違いないだろう。問題はその印璽、一昔前のチャリオットをモチーフにしたその紋章は、レイには見覚えがあった。
「これって………デア・シュトライトヴァーゲン社のロゴだよね?」
レイの口から漏れでた単語に、ビーフジャーキーを齧るアグニは目をぱちくりさせてレイの顔を見る。
「デアシュト?」
スパーンッ!!
「あだ!?」
しかし突然後頭部をひっぱたかれ、上半身が前のめりになる。幸いテーブルに顔面が激突することはなかったが、後頭部がビリビリと痛む。アグニは少しでも痛みを和らげようと両手で後頭部を擦りながら、ひっぱたいた犯人を涙目で睨みつける。いくら仲間との会話で気が緩んでいても、突然の悪意ある不意打ちに気づかないほどアグニは鈍感ではない。それにひっぱたかれた感覚からして、拳で殴られたのではなく平手で叩かれたのは明白。なおかつ後頭部の痛みからして犯人はアグニの頑丈さを考慮した上で手加減をしたのだ。以上の点から、今の一瞬でそんなことができる犯人など一人しかいない。未だ涙目のアグニが睨む先にいる、ビーフジャーキーを片手にジト目で睨み返す仲間しか。
「何しやがんだよ!?」
「アホか! ライドARMSメーカートップシェアを誇る、世界的大企業だろうが!!」
「………あ」
当然ながら怒鳴るアグニに、対するラヴィが説教するように怒鳴り返す。その気迫にビクリと肩が震え、殴られた痛みも忘れて縮こまるアグニであった。
デア・シュトライトヴァーゲン社、通称DSW社。各国に支社を持ち、今やライドARMSメーカー社のトップに君臨する大企業。脳裏から引っ張りだしたかの企業の知識を思いだし、アグニは気まずそうに目を反らす。
「DSW社が金の俺達に依頼? となると素材採掘とかか?」
倒した椅子を直してから座り直し、ラヴィは片手で頬杖をついてレイに問いかける。レイも同じ考えだったらしく、静かに頷く。
「その可能性は高いかもな……あの会社って、本業は騎乗兵器の開発だからね」
「………まあ、本社があのタップァーロート帝国だからな」
タップァーロート。
竜王国の中でも最大の軍事力を有する軍事帝国。冒険者で例えるなら『白金』に相当する実力者が多く所属する精鋭騎士団『紅玉騎士団』を有するかの帝国は、騎乗兵器を用いた戦術において右に出るものはいない。DSW社も本来は帝国お抱えの騎乗兵器開発機関だったのだが、その開発技術を活かして一般向けライドARMSの量産・販売を行い、帝国以外の国からも莫大な富を得て、帝国の経済に潤いをもたらした。当代の皇帝からはその功績を認められ、以降開発機関は本格的な商業に乗り出す為にDSW社を設立。帝国における貴重な収入源として皇帝からさらに重宝され、各国に支社を設けるほどの大企業となったのだった。
「でももし希少鉱石採掘の依頼なら、どちらかと言えば白金に依頼するんじゃないか? なんで金の俺達に……」
「だよなあ……」
「やっぱりアグニが言う『白金昇格』に関係しているのか?」
いろいろと考えを巡らすラヴィとアグニだったが、答えは一向に浮かばない。
「いずれにせよ、みんな揃ってからじゃないとこの封筒は開けられないな」
レイもお手上げと言わんばかりに封筒をテーブルに置き、再び果実水に口をつける。
そこへ
「おい、火焔竜」
「ん?」
怒気の込もった声で自身の冒険者としての通り名を呼ばれ、アグニは何気なく振り向いた。
そこにはいかにも柄の悪そうな猪人が一人苛立ちながらアグニ達を見下ろし、その取り巻きと思われる小柄な小鬼三人が猪人の背から顔を覗かせながら睨みつけていた
「聞いてたぜ~。お前らまた昇格するんだってなあ?」
「兄貴より後に冒険者になったお前らがなあ?」
「納得いかねえなあ~。お前らただでさえ早い期間で金に昇格したんだろ? それが今度は白金だ~?」
「一体どんな不正したってんだ? ああん?」
明白なる悪意が含まれた皮肉。彼ら四人の目には誰が見ても妬みと嘲笑の色が見てとれる。しかし対する言われた当人達は怒るでも怯えるでもなく、またかと三人とも呆れの表情になる。
彼らは度々自分達……というよりアグニにイチャモンをつけてくる銅の冒険者チームである。階級こそ下から二番目だが、その実力は銀に相当する。しかし日頃の素行の悪さから昇格に至る条件を満たせず、半人前の烙印を押された問題児達だ。
どうやら自分達の会話と行動は相当目立っていたらしく、見れば周りの冒険者達も遠巻きながら彼らをチラチラ見て囁きあっている。だがこういったイザコザは冒険者ギルドにおいては日常茶飯事なので、熟練冒険者達は会話に聞き耳をたてることはあっても慌てることなく冷静だ。怯えるのは新参の冒険者見習いぐらいなものである。
そして当然ながら、金階級のアグニ達もこういった面倒事には慣れている。というより明らかに『格下』の相手にいちいち怒るほど三人とも短慮ではない。
「そういえばさ~、メルが買い物してからこっちくるらしいから、話し合いはそのあとでもいいか?」
「聞けよ人の話!!」
なのでいつも通り、アグニは男達をガン無視して二人との会話を続ける。
「そうなのか」
「別に構わないよ。ラナ達も別件があって遅れるそうだから」
「て、テメエらあ………!」
ラヴィとレイも男達をいない者のように扱い、ただでさえ不機嫌な猪人をほぼ意図的に煽る。
「ま、まあまあ兄貴。落ち着いてくださいって」
「そ、そうっすよ~、そもそも『覇竜族』なんかとチームを組むような奇特な奴らなんて、相手にするだけ時間の無駄ですよ~」
怒りに震える猪人に取り巻き小鬼達が慌てて宥める。こうなった時、八つ当たりを受けるのは自分達であることを学習しているからだ。もちろん宥めつつもアグニ達への嫌味も忘れない。先に絡んできたのが自分達であることを完全に棚に上げて。
しかしこれもいつも通り。なのでラヴィとレイもため息を吐きつつ、もはや恒例となる返しをする。
「俺達が誰と組もうと勝手だろ」
ラヴィの端正な顔は眉間にシワを寄せて今にも舌打ちしそうな不機嫌なオーラを滲ませ、喉笛に食らいつかんとする狼のような目で睨みつける。その気迫に男達は思わずたじろぐ。
次いでレイからも援護射撃の如く声をかけられる。
「わざわざそんな嫌味を言う為だけに俺達に話しかけるなんて、君達って随分暇なんだね。もしかして、そんなにお仕事貰えてないのかな?」
「な……!」
女性が魅とれるほどの綺麗な笑顔を向けるレイだが、口から紡がれる言葉には毒が込められているのは明白だ。だがその指摘は彼らにとっては図星でもあった。実際彼らは普段の素行は勿論のこと、実力的にもアグニ達にやや劣る評価である。そのためかほとんど依頼が来ないのである。
それだけでも粗暴な猪人の神経を逆撫でするには充分だった。
「このっ………生意気なんだよ! 『覇竜族』の分際でよお!!」
握られた拳を渾身の力で目の前のアグニに向ける。銅とはいえ腕のたつ冒険者の一撃は、一般人であれば避ける間もなく殴られ、吹っ飛んで顔面が変形するほどの大怪我を受けることだろう。しかしラヴィもレイも、殴られる当人であるアグニでさえ、身動ぎ一つしなかった。アグニの身体能力であれば、かわすなりなんなりできたが、あえてしなかった。
「お~す! 待たせたな!」
その拳は二人のあいだに割り込んできた男の背中に阻まれたのだ。咄嗟のことに身体が反応できなかった猪人は、そのまま男の背中を思い切り殴る。
ベキベキッ、グシャア!
途端に響く、骨が砕ける音。しかしそれは割り込んだ男の背中ではない。
「ひぎゃああああああ!!!?」
激痛から床をのたうち回るのは、殴った猪人のほうだった。どうやら砕けたのは彼の手のようだ。
「あ、兄貴! 大丈夫っすか!?」
取り巻きの小鬼達も慌てて膝をつき、悶える猪人にただただ狼狽える。
「やあトール。早かったね」
「ああ、パーツの追加で済んだから思ったより早く終わったよ」
対する殴られた男は殴った男の手が砕けるほどの攻撃をその背に確かに受けたはずなのに、そんなことが起こったのが嘘のようにピンピンしている。床でのたうつ連中には一瞥もやらずにその男、トールはラヴィの隣の椅子を引きアグニ達と同じテーブルに腰かける。
「今のくらいお前ならかわせただろうに。余計な手間をとらせるんじゃねえよ」
「悪い悪い」
やれやれと両手を後頭部に回し、トールは背もたれに深く体重をかける。アグニも苦笑を浮かべつつ軽く謝罪する。
金色のこれまたアグニ並みにクセの強い短髪に藍色の瞳。肌は白くもその筋肉量はアグニよりも多く、衣服がきついのではないかと思えるほど筋骨隆々で、長身大柄な大男。メンバー随一の防御力と雷を操る豪快な技を得意とする『重戦士』、トール・キルヒアイゼン。金階級冒険者にして、仲間を守る盾の戦士『防衛』である。
「ロットは一緒じゃないのか?」
「あいつならフェリと工場に籠りきりさ。ほかに来てないのは?」
「ラナとメル……それにチャックとアルバかな?」
指を折り、まだ来ていないメンバーを数えるレイにトールは頷く。
「いでえ! いでえよお!! 誰か助けてえ!!」
「あ、兄貴! しっかりしてください!!」
そんな四人とは逆に、今だ腕を砕かれた痛みに泣き叫ぶ猪人と狼狽える小鬼達。だがケンカを売られたアグニ達はもちろんのこと、遠巻きに見ていた冒険者達も彼らに手をさしのべようとはしなかった。今の騒ぎは誰がどう見ても猪人達の自業自得としか言いようがなく、同情する気持ちは湧かない。
そんなどうしようもない彼らに、ただ一人が救いの手を差しのべた。
『回復』
「!?」
澄んだ女の声とともに、猪人の腕が淡く光る。あれほどの痛みはすぐに消え、瞬く間に砕かれた腕は嘘のように完治した。
「な、治った……!? 誰だか知らねえがありが……」
涙を浮かべ、腕を治してくれた人物に礼を言おうとして、猪人達は硬直した。目の前に立つのはルビーのように赤い瞳に、水色の髪をポニーテールに纏めた少女だった。その肌の色が鮮やかな緑色でなければ、人間の美少女と変わりないことだろう。
そんな少女が、まるで汚物でも見るかのような冷たい眼差しで彼らを見下ろす。それはとても善意で治してくれた者の目ではなかった。
「うるさいから、あっち行っててくれない?」
クイと親指で後ろを差し、少女は彼らに冷たく言い放つ。そう、彼女が猪人を治したのは「泣きわめく声がうるさかった」からにほかならなかったのだ。
「ひ、ひいいいい!!」
「「「待ってくださいよ兄貴ーーー!!」」」
少女の気迫に今度こそ怖じ気づいた猪人達は、そのままギルドから逃げるように走り去った。
「「「………」」」
「………こっわ」
さすがの四人も彼女の気迫にややドン引き気味であった。アグニに至ってはポツリと率直な思いを呟いてしまう。だがアグニ達に振り返った少女からはすでに気迫は消え失せ、年相応の笑顔を見せる。
「おっはよー! みんな揃ってる?」
「おはようラナ。残念だが今いるのは四人だけだ」
少女……ラナの態度の代わりように動じずに答えたのはレイだった。
「ロットとフェリは工場に籠るらしいから、今日は来ないと思うな」
「メルは買い物してからこっちに来るって」
「ふ~ん。そういえばチャックとアルバも今日は来れないって言ってたわよ?」
「そうなのか」
「あ、ウェイトレスさ~ん! あたしチェリージュースとクッキーで!」
レイの隣の席に座ったラナは、視界に入ったウェイトレスに手を振り溌剌とした声で注文する。空いた皿を片付けていたウェイトレスも、慣れた様子で笑顔を見せる。
ラーナ・プラヤーハ、愛称はラナ。シルエットだけなら人間と同じ容姿ではあるが、その種族は蛙獣人の蛙人。緑色の肌と赤い瞳がその証である。武闘僧だが攻撃特化である『前衛』のアグニとは逆に、水魔法と回復術に特化した『回復』である。
そして逃げた猪人達と入れ違うように一人の女性がギルドの扉を開けて入ってきた。翠の髪と紫の瞳、白いローブを纏ったその人物はまごうことなくメルだった。
彼女、メルナ・エメラルダは他のメンバーに比べて戦闘能力はやや乏しいものの、ずば抜けた頭脳と冷静な判断力を駆使して作戦を練るメンバーの参謀的な存在である。
その視線は扉の外に向けられていたが、少ししてから仲間達へと視線を移す。
「おはよう。遅くなってすまなかったな」
「全然いいよ。今日はご覧のメンバーしかいないみたいだから」
レイが笑みを見せて言った言葉にメルは揃っているメンバーを確認する。いつものテーブルに座っているのは五人、確かに後の四人の姿が見えない
「アルバ達は何をしているんだ?」
何気なく聞くメルに、ラナは両手で頬杖をついて答える。
「ロットとフェリは工場で作業。チャックとアルバは今やってる雑草駆除の依頼がまだ終わらないんだって」
「雑草って……確か大量発生したトレントの間引きだろう?」
「まあね~」
呆れるようにため息を吐くメルに、ニヒヒと悪戯っぽく笑うラナ。雑草などと形容しているが、トレントは『金階級』の冒険者でなければ歯が立たない強い魔樹なのだ。それの間引きともなれば、必然的に達成難易度は高くなる。それでもさらっと言えることからも、今ここにはいない二人の仲間に対する信頼度が見てとれる。
「そういえば、ギルドから大慌てで逃げ出す奴らの姿が見えたんだが、今日は誰がやったんだ?」
チラリとまたギルドの入り口に視線をやり、自分が入ってくる前に見た光景を思い出す。すでにメルの中では大方やったのは仲間達の誰かだろうと目星をつけていた。
「トールが挨拶しようとして俺の間に入ったせいで、間違えてコイツの背中を思いっきり殴っちまったんだよ」
「お前が避けねえからだろ」
アグニが親指でラヴィの向こうに座るトールを指をさせば、やれやれとした様子で悪態を返す。
「ああ、それはまた……」
二人の会話に、メルは先ほど逃げていった猪人達に僅かながら同情してしまう。金階級かつメンバー屈指の頑丈さを誇るトールを、せいぜい銀階級の中くらいの実力しかない冒険者が力任せに殴れば大怪我するに決まっている。ただ逃げた彼らの両手は怪我をしていなかった。ギルド内でも評判の悪い冒険者である彼らに、わざわざ回復魔法をしてくれるお人好しな冒険者などそうそういないはずだ。となればそれをやった人物も一人しかいない……。メルの頭脳は瞬時に答えを出し、チラリとクッキーを美味しそうに食べるラナを見る。視線に気づいたラナは、悪気を感じさせない笑みで返すが、メルは特に何も言わず苦笑するだけだった。
「じゃあ今日は、この面子で話し合う方針でいくんだな?」
メルはアグニの隣の席に座り、ラナのクッキーを一つ手に取る。
「まあな。だがメルが来てくれて助かった」
「?」
ラヴィの言葉にメルがキョトンと小首を傾げれば、レイが先ほどアグニ達と話したことをラナ・トール・メルに丁寧に説明する。当然ながら三人とも先ほどの双子と同じくらい驚いていたが、すでに会話を聞いていた周囲の冒険者達は今度は落ち着いている。レイの説明が終わると同時に、アグニがテーブルの上に置かれていた封筒を手にする。
「俺達だけじゃどういうことなのかわからないからさ、メル達の意見も聞いておこうと思ってさ」
「本当は全員に聞かせたかったけど、急を要する依頼かもしれないしね。メルなら依頼主の意図がわかるだろうから、まず君が読んでくれないかい?」
レイに頼まれ、手にしたクッキーを口にほうり込んでからアグニから手紙を受けとる。封筒の裏表を確認、差出人の名前も依頼分類も書かれていない。封蝋に刻まれた印璽を確認、レイ達が言うように型崩れしていないDSW社のロゴが刻まれており、後から誰かに細工された可能性は確かに低そうだった。しばし封筒を眺めて思案するメルだったが、ここで意を決して封筒を開ける。念の為ゆっくりと封蝋を剥がすも、やはり細工の形跡はない。開けられた封筒に入っていたのは二つ折りにされた紙だった。慎重にゆっくりと中の紙を取り出すメルに、固唾を飲んで見守るアグニ達。折られた紙を広げれば、それは白地に縁が赤く彩られた、いかにも高級そうな二枚の便箋だった。
「この便箋て……」
便箋の独特の色合いに、ラナが気づいたように呟く。メルも同意するように頷き説明する。
「タップァーロートの企業団体が、特別な取引きなどに使う便箋だな」
「じゃあやっぱり、DSW本社からの依頼なのか?」
ラヴィが真剣な眼差しで問いかける。
「文字もタップァーロートのものだから、間違いないかもな。……少し目を通す。ちょっと待っててくれ」
メルもいつになく鋭い目付きで、便箋に書かれた文字を目で追う。しばしの沈黙、メンバーの間には僅かながら緊張が走る。メルが一枚目の便箋をテーブルに置き、二枚目の便箋に目を通してから数十秒後、
「っ…………!」
メルは息を飲み、驚愕に目を見開いた。
「ど、どうした?」
「なんて書いてあったんだ!?」
メルの驚きようにアグニ達も動揺してしまう。アグニは心配そうにメルの肩に手を置き、トールに至っては椅子から立ち上がって身を乗り出す。
「…………そういうことか」
だが当のメルは、口元に笑みを浮かべていた。
「メル?」
不可解そうに眉をひそめるラヴィ。レイも同じ心境なのか真剣な顔でメルを見る。
「確かに、これなら受付さんの話も辻褄があう……」
「どういうこと?」
一人で納得したように笑うメルに、意味がわからないとラナは首を傾げる。
「結論から言えば、ラヴィが最初に言っていた通りの依頼だったよ」
「! ではやはり、希少素材の採掘依頼か?」
「ああ………ただ正確には、『採掘』ではないな」
パサリと、メルは手にしていた便箋をテーブルに落とす。メンバーはようやく目にした二枚目の便箋に書かれた文字を読む。
「……!?」
「な!?」
「はあ!?」
「う、嘘でしょ!?」
「マジかこれ!?」
ラヴィ、レイ、アグニ、ラナ、トールの順に驚愕の声が上がる。それほどまでに、依頼の内容は信じられないものだったのだ。手紙の内容を要約するとこうだった。
『新しい騎乗兵器開発に必要な素材を採ってきて貰いたい。素材は金剛大蛇の鱗。必要な量はおよそ1トン。期限は無期限とする。
DSW本社』
「だ、金剛大蛇ぅ!?」
「白金階級相当の強大な猛獣じゃないの!?」
アグニ達の驚愕の声とその単語に、落ち着いていたはずの周りの冒険者達が再びざわめいた。それほどまでに、その依頼内容は信じがたいものだったのだ。
金剛大蛇。本来であれば白金階級の冒険者でなければ太刀打ちできない、超大型の爬虫類猛獣。その名の通りダイヤモンド並みの固く美しい鱗を持ち、あらゆる武器はその鱗に傷一つ負わせることができない代物。故に武器の外装用素材として重宝されるが、金剛大蛇自身の強さとその鱗の固さから、一枚だけでも採取難易度は非常に高い。それを金階級の冒険者である自分達に、しかもおよそ1トンも要求するなど、驚くなというほうが無理な話である。
「おいおいアグニ! 今の話マジなのか!?」
「俺達も仕事柄、金剛大蛇に遭遇したことは何回かあるが……あれは正真正銘の化け物だぞ!」
信じがたい話に、遠巻きに見ていたベテランの金階級冒険者達がアグニ達に近づき話しかける。おそらく心配してくれているのだろう、彼らの言動の端々からは「やめたほうがいい」という意図が感じられる。そしてラナ達も同じ心境だったらしく、お互いに顔を見合せて困惑している。
「ね、ねえアグニ………これって本当に私達当ての依頼なの? 白金の誰か当てのを間違えて貰っちゃったってことはない?」
「いや、受付さんは間違いなく俺達当てだって言ってたけど……」
「信じられねえよ! お前って結構抜けてるところあるしよ……」
「トール! それどういう意味だ!?」
戸惑いと疑念。本当にこれは自分達に送られた依頼なのか。双子達も納得がいかず、答えを求めて最初に目を通したメルに視線を向ける。
「ふむ……」
対してメルは至って冷静な面持ちで、顎に手を当てて考えこむ。心なしかその口元は笑っているように見えた。
「間違いなく私達に送られた依頼だと思うぞ? 一枚目の冒頭に、私達の名前が書かれているからな」
「「「え!?」」」
メルの指摘にアグニ達が慌てて一枚目を拾い目を通す。確かに冒頭には自分達の名前が全員分、フルネームで書かれていた。
「それで、我らが軍師様の予想は?」
先に落ち着きを取り戻したのはレイだった。彼の経験上、メルが動じずに笑っているのは大抵なんとかなる案件であることを理解しているからだ。
「おそらくだが、これはDSW社とギルドが結託して書いた依頼だろう」
「ギルドが?」
トールの問いに、メルが頷く。
彼女の推理はこうだ。自分達はすでに白金昇格に必要な最低限の水準を満たしており、昇格まであと一歩のところまで来ている。ただ、自分達が金に昇格するまでのスピードが歴代冒険者でも異例の早さである為、このまま昇格させると未だ昇格できない他の冒険者との軋轢が生まれかねないのだという。だからそんな冒険者達を納得させる為に、本来なら正規の白金階級冒険者に送るはずの難易度の高い依頼を、わざわざ依頼主であるDSW本社に直談判して内容を書き換えて貰ったのだと。
「つまりはこの依頼こそが、私達に課せられた昇格試験そのものなのだろう」
「一応辻褄は合うが、よく本社が了承してくれたな」
「手紙には『無期限』と書かれている。つまり本社としては対して急ぎの用事ではなかったから、ギルドの交渉でギリギリこぎつけることが出来たんだろう」
ラヴィの言葉に、フフンと自信ありげに語るメル。しかし依頼された理由がわかっても、まだ問題がある。
「鱗を1トン分て………無理過ぎない?」
力なくテーブルに突っ伏すラナに、トールもため息を吐く。一枚だけでもかなり難しいのに、それを複数も集める以上は難易度も飛躍的に上がる。確かに白金昇格試験に相応しいと言える依頼だが、それを成せるかどうかは別問題だ。だと言うのに、メルは余裕の笑みを崩さない。
「いや、一つ考えがある」
「「「!?」」」
静かに、それでいて力強い言葉に、全員の視線がメルに集まる。
「ほ、本当かメル!?」
アグニが身を乗り出して問うのに対し、メルはチラリとギルドの壁にかけてあるカレンダーに目をやる。
「………確か今月は、まだ五月だったよな?」
「? ああ……」
急な質問に答えたのはラヴィ。しばしメルは考え込み、今度はトールに質問する。
「トール、『アレ』の開発はどのくらい進んでいる?」
「『アレ』なら、あと三日くらいで仕上げが終わる予定だ」
「「『アレ?』」」
急に聞き慣れない単語が飛び出し、アグニとラナの声が重なる。
「そうか三日か………。よし、なら決行は二週間……いや三週間後だ。その間に採取に必要なものを揃えるぞ」
「! まさかいきなり『アレ』を使うのか!?」
「いや、三週間は『アレ』を試運転する為の期間だ。でなければ本番で扱えなくなるだろう?」
「な、なるほど……」
何やら二人だけで会話が勝手に進んでいき、慌ててアグニが待ったをかけた。
「い、いやちょっと待った! メル、何か秘策があるのか?」
「勿論だ、ただ………」
少し間を開けるように押し黙るメルに、アグニに緊張が走る。しかし
「まだ内緒だ」
唇に人差し指を当ててウインクするメルに、思わず顔を赤くしたアグニだった。
一応残りの四人は次の次あたりに出る予定です。