王城の取引
趣味の二次創作にのめり込みすぎてもの凄く遅れました……
商国のとある工場。開発部門総本部と書かれた札の扉の向こうでは、様々な金属音を響かせている。大型戦艦のパーツを組み立てるのは、何人もの兎人達だ。
火花を散らして溶接し、ミリ単位の誤差も許されない繊細な作業。そんな作業場の片隅で、異質とも言える人物が三人ほどいた
40代後半、肩まで伸ばした水色のストレートを揺らし、豪華なドレスに身を包む、いかにも高慢という言葉が似合いそうなつり目の竜人の婦人。彼女こそ、現在の商国王家でも最大の派閥を持つポレット王妃だ。
そしてポレット妃の前で頭を垂れるのは、他の兎人と同じ作業着を着た二人の兎人だ。
「では、期日までにしっかり完成させなさいね」
「かしこまりました」
彼女は扇子で顔を隠しながらトゲのある言い方で釘をさすと、ヒールの音を響かせて工房をあとにした。
チラリと彼女が工房から出ていくのを確認すると女の兎人が、あああああああああ!と唸りながら頭をかきむしる。
「ざっけんじゃねえよクソババア! 八位階魔法のプログラムだけでどんだけ容量圧迫すると思ってんだよ!?」
端正な顔を歪ませて、彼女が去っていった扉に向けて中指を立てて暴言を吐いた。
彼女の名はオボロ・カリエール。商国きってのARMSメーカー、グレムリン・テックスの最高責任者だ。
「オーバーレビテートのほかの魔法をプログラムする為に、こんだけの量の演算宝珠搭載するとか、ARMS造りなめてんのか!?」
「しゅ、主任………どうか抑えて」
いらだたしげに壁を蹴る彼女におどおどとした様子で彼女を宥めるのは、副主任のジョゼットだ。
幸い工業音が響く工場の中での罵声が、外に漏れることはなかった。
「チッ、こんなはずじゃなかったってのによぁ……」
忌々しげに、親指の爪を噛むオボロ。なぜそこまで不愉快そうにしているのかと言えば、彼女こそが巨体浮遊のプログラミングを史上初めて成した詠唱者だからだ。
ただ、実用化できたとはいっても、必要な演算宝珠の大きさや品質など、まだまだ改良すべき点はいくつもある。彼女がそういった研究を進めるべく、法皇国へ特許の申請をしようとした矢先に、ポレット妃に存在を知られてしまったのがまずかった。彼女は近々起こす予定の戦争でこの魔法を使いたいからと、あろうことか彼らに暗殺者を差し向けてきた。
「あ~あ。こんなことにならなけりゃ、今頃は特許申請してガッポガッポ大儲けできてたっていうのにさあ」
ドカッと椅子に腰かけて、背もたれによりかかる。こんな大発明がいまだ世間に発表されず、こうして税金の無駄使いに利用されて不愉快なことこのうえない。
チラリと、艦に内臓する予定の演算宝珠を見る。象よりも巨大な演算宝珠の周りに補助用の小さな演算宝珠が繋がっている。ARMSクラフターとしての視点から見ても非効率的な設計だ。
「デュナミス様なら……もっと有意義な活用法を見いだせたかもしれませんが……」
「………」
項垂れるジョゼットにフンと鼻を鳴らす。
慈悲深く不和を望まないかの王子も、とうとう横暴な王妃の悪事に堪忍袋の緒が切れてしまったらしい。秘密裏に極秘データのコピーを持ち出し、帝国に引き渡す途中で襲撃されてしまった。以前王城を訪れた時は、彼を慕う騎士や貴族達が啜り泣いていたり、必死になって彼の行方を探していたりする姿を度々見かけていた。
このままいけば、ドラークの歴史に残りかねない大戦争が起こる。しかし自分たちにはそれを打破できる力などありもしない。
半ば諦観の気持ちで天井を見上げるオボロだったが、
「主任、お電話です!」
出入口から入ってきた作業員の叫びに、めんどくさそうにそちらを向く。
「はあ? 誰からよ、こんなクソ忙しい時に」
「そ、それが……!」
彼は注意深く周囲を見ながら、自分たち以外に誰もいないのを確認すると、彼女の隣に立ち耳元で囁く。
「……!?」
彼が耳打ちした言葉に、オボロは信じられないというように目を見開いた。
そしてすぐさま通信室に駆け込むと、魔法モニターに人影が映っていた。
「やあカリエール主任、久しぶりだね?」
「あれま~、本当に生きてたのね。アンタもとんだ強運だこと」
モニターにうつるのは、現在行方不明扱いのデュナミス王子だった。
ポレット派閥の会話を盗み聞きしていたため、彼が生きているのは薄々理解していたが、こうやって言葉を交わすと改めて驚く。
「ああ、おかげさまでな。そちらはお変わりはないかな?」
「最っ悪よ! あのババア、期日までに作れとか無茶振りしてくるし、おかげでこちとら睡眠不足よ!」
今までたまった鬱憤を吐き出すかのように悪態をつくオボロに、王族の御前で失礼ではないかと周りの作業員達がオロオロと二人を見合う。
「そうか………大変そうだな」
俺の力が足りず申し訳ないと、画面越しに頭を下げるデュナミスを見てため息をつく。本来ならば立場的に向こうが上だというのに、この男は平民相手にさえ腰が低い。たまにこいつが一国の王子であることを忘れそうになるが、まあそういった性根だからこそ、彼の国民からの信頼が篤いのだろう。
「ところで……」
それまでの柔らかな声のトーンから、張りつめた雰囲気にが変わる。
『少し、商談をしたいのだが』
商談、という言葉にオボロの眉尻がピクリと反応する。彼がここでいう『商談』というのは、いわゆる取り引きのことを意味する。
「そうは言ってもね~…………もうポレット妃からは前払い貰っちゃってるし。あたしだって命は惜しいからさ」
長い耳を撫で付けながら苦笑するオボロの言う通り、もしここで王妃派閥に反旗を翻すような素振りを見せれば自分たちはすぐさま殺されるだろう。対するデュナミスはその反応も想定内だったのか、小さく呟いた。
『十戦団』
「…………!?」
その言葉を聞いた瞬間、オボロの目が驚愕に見開かれる。
『確かアレのメンバーだそうだな? 件の爆炎翼の開発者とやらは』
「ちょ、ちょっとまさか…………!?」
ガタリと椅子から身を乗り出して画面に顔を近づけるオボロに、デュナミスはニコリと笑みを浮かべる。
『故あって今は彼女の友人達と一緒にいるんだが、君も会ってみるかい?』
見慣れた彼の営業スマイル。見る者によっては威圧感すら滲ませるその笑みに、オボロは身を震わせる。しかしそれは恐怖からではない。
「……っ、くはははははは!! アンタ本当に商売上手だねえ!!」
再び背もたれに体重をかけて大爆笑するオボロを見て、作業員達はやれやれと肩をすくめた。
そう、彼女は『そういうタイプ』の人間なのだ。自分自身の命よりも、飽くなき魔法の探求。彼女を突き動かすのはそれのみ。そんな彼女にこの『商談』を断ることなどできようはずがない。
「ああいいぜえ。あたしはまず何をすればいい?」
ニヤリと不適に笑う彼女に、デュナミスは変わらず営業スマイルを返すのだった。
フェリ「うっ!? 今何か悪寒が………!;」




