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覇竜戦記  作者: ペペック9
15/18

デュナミス

かなり難産になりました

送迎バスに乗った一行は、エンゴーラの中でも一番大きい建物の敷地に向かっていく。緑のアーチを潜り抜ければ、そこには広い庭園が広がっていた。建造物の外観は商国特有の豪奢なロココ様式ではなく、必要最低限の装飾のみを施してある。無駄がなく清潔感のある雰囲気は、大衆でも変に肩を張らずに宿泊できる造りとなっていた。


「お~!」


「ここがディアネス・リゾートか」


送迎バスから降りて辺りを見渡せば、剪定された庭園からほのかで上品な花の香りが鼻腔をくすぐる。おそらくこれはディアネス・リゾートの名物であるユリの香りだ。


シンプルながらも上品な装飾の扉を開けば、二人の男女のホテルマンが出迎えてくれる。パリっとした清潔な制服と立ち居振舞いだけでも、ホテルの品格を反映している。


「ディアネス・リゾートにようこそおいでくださいました。皆様、どうか当ホテルにてごゆるりとお過ごしくださいませ」


「当ホテルには温泉もございます。ご要望があればいつでもスタッフにお声をかけてくださいませ」


王子の来訪にも動じずお辞儀をするスタッフ達、彼らには事前にデュナミスの生存のことを知らせてある。現在このホテルは表向きには公爵達の手引きで五日間ほど貸切となっているので、ほかに客はいない。デュナミス達がローブを脱いでスタッフに預けると、ようやく緊張が和らいだのかアグニの腹が鳴る。


「まず飯食いたいんだけど………腹減った」


それにフフと苦笑したデュナミスは、スタッフ達に早速指示する。


「そうだな。もういい時間だし、そろそろランチにしようか」


「「かしこまりました」」













通された食堂で早速ランチメニューに舌鼓を打つ一同の中。メルは真向かいのデュナミスに問いかける。


「それで、殿下は例のデータを要人に託すとのことですが、一体どう渡すおつもりなのですか?」


「実は近々このエンゴーラに、帝国の聖騎士殿がお忍びという名目で訪れる。渡すのはその時にだな」


「なるほど」


真面目な会話の二人に対し、ほかのメンバーは和気あいあいと雑談に興じる。


「いや~、まさか生きているうちにこのホテルに泊まれる日がくるとは思わなかったよな!」


「そうなのかい? 俺は()()()()ではこういうホテルに経費でよく泊まってたけど」


「いやそれはまあ…………レイの場合は手段として必要なだけなんじゃないの?;」


「トール兄ちゃん、そこのソース取って」


「これか?」


その様子をデュナミスはほほえましげに眺めるだけだが、メルとしては苦笑いせざるをえない。一応要人の護衛という真剣な依頼なのだから、もう少し危機感を持ったほうがいいのではないかと思う。そんな彼女の気持ちなどつゆ知らず、アグニは眼前のホテルランチを味わう。


「しっかしさすがエンゴーラ一のホテルだよな。この魚料理とかすごく美味いし!」


アグニの率直な感想に、そばに控えたウェイターがニコニコしながら話しかける。


「これらの食材は全て、デュナミス様ご自身が発見し品種改良したものなのです」


「そうなんですか?」


「はい。特にそちらのサラダに使われている今が旬のレタスなど、一年もの歳月をかけて上質な食材にしたのですよ」


へ~、と一同の視線がデュナミスに集中し、気恥ずかしいのか頬を描いて目を反らした。


「あ~、うん。食事が終わったら庭園を見て回ってみるといいだろう。今の時期なら当ホテル自慢の『フーリス』の花が満開になっている頃合いだ」


「え、フーリス畑が見れるの!?」


この地域特有のユリの品種『フーリス』。ラナが興奮するようにエンゴーラでも一番人気のユリの花畑が見れるこのホテルは、満開の時期は予約が殺到するためなかなかお目にかかれない。


「俺はこれから部屋でやることがあるからな。楽しんできてくれ」


「やった! 行こ行こ!」



「ちなみに、そのフーリスを作ったのもデュナミス様なんですよ」


「余計なことは言わんでいい!」









ホテルの東口から出てみれば、彼らの言う通りユリの花が咲く庭園が広がっていた。

フーリス、意味は『火のユリ』。最大の特徴である黄色と赤のグラデーションの花弁はまさに『火』のようだ。


「うわ~! すごいすごい! これは絶対バズる!!」


ラナは目を輝かせてカシャカシャとメディアARMSのカメラ機能を鳴らして連写している。


「おい、今このホテルは貸し切りってことになっているんだぞ。そんな写真を上げたら怪しまれるぞ」


「大丈夫大丈夫、まだ投稿しないから」


と言いつつも、メルの肩を抱きツーショットをするなど完全に受かれている。彼女らしいと言えばらしいのだが、こういうことに付き合わされるとどうにも疲れてしまう。ラナに片手でハートマークを作るよう指示され、二人でハートを形作るポーズを撮らせられるメルはやれやれとため息をついた。


「あれ? こっちの柵の向こうにもなんかあるぞ」


するとトールが何かを見つけたらしく、白く塗られた柵の向こうを爪先立ちで覗こうと努力している。ちょっとだけ高い柵はメンバーの中でも高身長な彼でもなかなか見れないようで、ジャックが彼に肩車して覗いてみることになった。


「何が見える?」


「ん~、畑が見える。しかも結構広い」


ジャックが言うように柵の向こうに見えたのはそこそこの広さを持った畑だ。植えられているのは野菜が多いようで、目視だけでもジャックのよく知る野菜がたくさん実っている。

ホテルの隣に堂々と畑を耕すとは、一体どういうことなのか。桑やホースを片手に手入れをしている農家らしき人々に、ジャックは声をかけた。


「何やってるんですか~?」


「ん? おお、アンタ達かい。例のお客様ってのは」


ジャックを見て察したということは、彼らもホテルの従業員のようだ。


「ここはホテル用の食材を育てる畑さ」


「当ホテルの野菜は全て、こちらの畑で取れたものを使用しているのですよ」


よくよく見れば農家の女性が持っている野菜は先ほどアグニが食べていたレタスだ。


「普段はホテルの景観を考えて隠しているんだが、興味があれば見学もできるよ。季節によっては収穫の体験なんかもやってる」


「へ~」


なるほど野菜収穫を体験できるとは確かに面白そうで、子供あたりに特に人気がありそうだ。


「ちなみに、こちらの畑はもともとデュナミス様が耕していらしたのですよ」


「え!?」


おばさんの突然のカミングアウトにジャックは驚きのあまりトールの頭を軽く蹴ってしまう。


「今は儂らが管理を引き継ぎしているんだがね」


あいつ王族なのに畑作りしてたのかよ……。脳内で麦わら帽子をかぶって桑を振りかざすデュナミス王子という、なんともシュールな光景を思い浮かべてアグニ達は顔をひきつらせる。


「………なんていうか、デュナミス様ってすごい人なんですね」


一人でエンゴーラを発展させたという話は聞いてはいたが、まさかここまでだとは思わなかった。


「ああ本当に、デュナミス様がいてくれたからこの街はこれだけ発展できたんだ。この街の全てが、あの方の偉大さを証明してくれているんだよ」


「………」















レイはホテル内を歩きながら内装を鑑賞していた。

このホテルは家族連れの大衆をターゲットにした施設らしいからか、調度品やインテリアもそれに合った雰囲気のデザインになっている。ゴテゴテした派手さはないが、かといって地味ではない。見れば見るほど計算されつくした美しさがそこにはあった。

レイが壁の絵画をじっくりと鑑賞していると、背後からガチャリと扉の開く音がした。


「あ」


「む」


振り返ると丁度自室から出てきたデュナミスと出くわした。


「やあ、楽しんでくれているか?」


「はい。大変貴重な体験ができて、嬉しく思います」


ニコリと愛想笑いで返すレイは、続けて気になったことを聞いてみた。


「こちらの内装のデザインは貴方が?」


「いや、デザイナーは別の者に任せた。ただ俺の納得のいく形にしてもらうよう、何度かリクエストはしたと思う」


正直申し訳ないことをしたなと呟くデュナミスに、それはまた大変だなと、レイは内心で顔も知らないそのデザイナーに同情する。王子直々の依頼ともなれば、プレッシャーは尋常じゃなかったことだろう。


「それにしても、殿下は本当に人望に溢れていますよね。さすが商国の王子は審美眼に優れている」


先ほどの憲兵達やエンゴーラの民の姿を思いだし、レイは素直な称賛を送る。国の象徴であるロイヤルファミリーとはいえ、あれほどまでに慕われるのは彼の人徳がいかほどかを表しているからだろう。ただその言葉に、デュナミスは不思議な笑みを浮かべて近くの窓に歩みよる。窓を全開にして体重をかけると、どこか遠くを見るように空を眺める。


「………皆はあたかも俺一人の力だと思っているようだが、俺自身はそこまで大した男じゃないよ」


謙遜な態度だが何故か彼が言うと嫌味に聞こえない。


「確かにいろいろ作ったりはしてきたが、それは俺だけでなし得たものじゃない。この街の皆がいて、俺に力を貸してくれたからできたことなんだ」


品種改良にしろ、施設の建設にしろ、デュナミスが一人でやったわけではない。それを手伝ってくれた他者がいたからこそなし得たのだと彼は言う。


「今だってこのホテルのスタッフ達、それに君達がいてくれたからこそ俺はここにこうしていられるんだよ」


重要なのは、他者との繋がり。独りでも生きている人種ならまだしも、人は他者がいなくては存在し続けない。そう語る彼の横顔はどこまでも真っ直ぐで、上に立つ者の風格が出ていた。


「あの……一つよろしいでしょうか?」


「なんだろうか?」


振り向いたデュナミスに、レイは二つ目の疑問を口にする。


「なぜ貴方は、私達に依頼を出したのですか? 国交関係の問題であれば、つい最近白金階級に昇格したばかりの私達のほかにもベテラン冒険者はいたと思うのですが……」


彼はわざわざ自分達を名指しで選んだわけだが、こういった依頼に精通していそうな白金階級冒険者はほかにもいたはずだ。なぜ白金としては新参の自分達に依頼してきたのだろうかとレイはずっと不思議に思っていたのだ。


「ああ、丁度その旨について君に相談があったんだ」


「?」


そして彼は告げた。アグニ達を指名した意図を………



「ーーーー」



「! じゃあ、俺達を選んだのは……」


「ああ、そのほうが()()()()()()()()()()()()()からな」


「……なるほど」


「それで、どうだろうか?」


「まあ()()次第でしょうか? なにぶん俺達のメンバーでも気分屋な性分ですからね」


「なら伝えておいてくれ。『素敵な贈り物を用意している』と」


「ふふ、では言ってみますね」

ディアネス畑は、芋掘り大会とイチゴ狩りが人気です

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― 新着の感想 ―
[良い点] アグニ達が和気あいあいと仲が良さそうな所が見えて とっても良かった(ラナちゃんとメルさんの絡みを見てるとジーンと来る)。 王子が一人で何でも出来るマンではなく色んな人に支えれているとちゃん…
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