エンゴーラにて
いつもは観光客で賑わうエンゴーラは、今日ばかりは街全体が暗い雰囲気に包まれていた。街の中心に建つ教会には多くの住民達が詰めかけており、礼拝堂にて椅子に座る者もいれば教会の入り口付近に立ち、涙を流して神に祈りを捧げている。
「ああ………ラーレン様、リベリア様。デュナミス殿下にご加護をお与えくださいませ…!」
「デュナミス様、どうかご無事で……」
人々は懸命に讃美歌を唱えて主君の生存を神に請う。廃れ行くだけだった自分達の故郷に恵みを与えてくれた慈悲深い王子、その御方の突然の死に彼らは混乱し嘆き悲しむ。彼らは『死体が本人のものだという確証がない』という情報から、まだ王子は生きていると縋るように信じている。
「………すごい支持率だな」
そんな礼拝者達を遠巻きに見ながらアグニ達は感嘆する。エンゴーラの人々がデュナミス王子に恩義を感じているという話は聞いていたものの、下手すれば街の住民全員が押し掛けているのではないかという数に圧倒されてしまいそうだった。
「現在、エンゴーラの通常業務は一部を除いて休業となっています」
憲兵の一人がデュナミスに耳打ちして彼が頷く。確かにこれだけの人間が悲嘆に暮れているようでは、観光業どころではないだろう。デュナミスはフードを更に深く被り直し、顔が見られないよう努める。もし今デュナミスが存命していることが知られれば、街がいろんな意味で大騒ぎになること間違いない。
「それで、デュノア公爵と連絡はとれたのか?」
「はい、ただちに商会本店にお越し頂くようにとのことです」
「わかった」
頷き、憲兵の後に続くように一同は歩きだす。その中でメルは鋭い目でデュナミスを見つめて思案する。
(………やはりギルドからの依頼は、最重要機密だったようだな)
第一王子を襲った事故、銀月商会からの詳細不明な依頼、生存していた王子を暗殺しようとした謎の集団。どうやらこの依頼は一筋縄ではいかない事態を孕んでいるらしい。いずれにせよ、まずはことの成り行きを見極めるしかないだろうと、メルは表情を引き締めて歩を進めるのだった。
「デュナミス殿下、ご無事で何よりです」
銀月商会本店で一同を出迎えたのは恰幅のいい壮年の月竜族の男性で、彼は銀月商会の現会長とのことだった。彼はデュナミスが差し出した手を、存在をしかと確かめるように両手でしっかりと握る。
「心労をかけてすまなかったな商会長。随分、安眠できずいたようだな」
「殿下が気に病むことではございませんとも」
その目の下にはうっすらと隈が浮かんでいるのがアグニ達にも見てとれた。
「それにデュノア公爵も」
「商会長に同じくです。むしろ私よりもエルザのほうが大変でしたので……」
商会長の隣に立つのは彼よりもスマートな体型の月竜族の男性。マルタン・ド・デュノア公爵、エンゴーラが位置するデュノア公爵領を管理する公爵家の現当主である。
「そうか、エルザが………。彼女には何も?」
「外部に情報が漏れるのを懸念し、我々以外には公言しておりません。娘には酷かもしれませんが……」
「いや、懸命な判断だろう」
どこか申し訳なさそうに目を伏せるデュノア公爵に、労るようにデュナミスは優しく肩を叩く。
そのやり取りを一歩下がった位置から見ていたアグニ達は、ヒソヒソと小声で話し合う。
(………エルザって?)
(エルザ・ド・デュノア様。デュノア公爵家の御令嬢で、確かデュナミス王子の婚約者って話だけど)
デュナミスと公爵が語り合うのを他所に、商会長がアグニ達の前に出た。
「十戦団の皆様ですね?」
「は、はい」
「まずは我らが主、デュナミス王子をお救いくださりありがとうございます。エンゴーラの民を代表し、心よりの感謝を」
深々と頭を下げられると、なんだかアグニ達の背にむず痒い感覚がしてくる。
「いやそんな………ほとんど偶然みたいなものだったんですけど」
メルが遠慮がちに苦笑する通り、あれはまさに偶然の結果だったのだ。人並み外れた聴覚のレイが、回復術に特化したラナが、メンバー随一のフィジカルを誇るアグニがあの場にいたから彼らを救出できた。そして一番のお手柄はその采配をしたメルに違いない。そうこうしているうちに公爵との会話を済ませたデュナミスが、神妙な面持ちで口を開いた。
「本来なら謝礼をしたいところなのだが、今は状況が状況だ。例の件を済ませるのを最優先にするぞ」
「は!」
「では奥のほうに」
商会長が奥の扉に差しのべるを見て、二人は歩きだす。
「君達も来てほしい。もとより此度の依頼は、君達に助力してほしいものだからな」
※もしエンゴーラのど真ん中でデュナミスの存在がバレたら
市民A「くぁwせdrftgyふじこlp!!!!!!!!?」
市民B「ーーーーーーーーーーー」心停止




