邂逅
思ったより筆が進みました。
レイの先導で飛行するアグニは、森の上空から眼下を見下ろす。
『アグニ、一旦止まれ』
ARMSの通信からレイの制止が出され、翼を羽ばたかせて中空にホバリングする。どうやら戦闘音の発生源に到達したらしい。
「状況は?」
ラナの問いに暫し間を置いてから、レイは森の木を覆うアグニの影から飛び出し枝に飛び移る。木々の隙間から音の出所を改めて見れば、予想通り複数の人間が武器を手に争っていた。数は総勢十二人。うち三人は薄汚れた白っぽいローブで全身を隠していて、残り九人は黒い装束を身に纏っている。黒い集団はそれぞれ近接武器を手にしているうえに数が多いが、白いローブの三人組は剣を手に前衛で戦っているのは一人のみで後の二人は防御魔法の内部に込もっている。
それを見たレイは瞬時に「襲われているのは数の少ない方」であると確信した。少人数の犯罪者が自警団に追い詰められている可能性も無くはないが、黒い集団はどう見ても堅気の出で立ちではなく『その筋』の戦士だ。レイはARMSから状況を報告しつつ、彼らの戦力を見極める
単身で剣を片手に戦うローブの一人は、九人という人数差にも関わらず互角の戦いを見せている。素早い身のこなしと卓越した剣技で一人また一人と切り伏せる姿を見るに、熟練の剣士に違いないだろう。そして剣士の背後にいる二人のうち一人は、しゃがみこむ三人目を守るように後ろから抱きしめて、ハンドガン型のバトルARMSを片手に砲撃魔法を放つ詠唱者だ。防御魔法を維持しつつ砲撃を絶やさない手腕を見るに、八位階はあるかもしれない。黒い集団もそれなりの手練れのようだが剣士の強さには及ばず、しかも不意をつこうにも後衛の詠唱者の的確な掩護射撃のせいでそれも難しい。ならばと先に後衛を潰そうとすれば、それを阻止せんと剣士が薙ぎ払う。
バランスは悪くない。しかし回復と防衛がいない状態でこの場を切り抜けるのは少々難しいかもしれない。事実よくよく見れば剣士の型が僅かに上下しており、大分体力を消耗しているのが見てとれる。
「……!!」
そして案の定、疲労のせいか踏み込みに力が入らず、間合いの詰め方を見誤ってしまった。黒い集団がその隙を見逃すはずがなく、手首から剣士の喉元に向けて小さな針を飛ばす。
「っ………!」
針が喉に刺さると同時に剣士の身体が硬直する。他の黒い戦士が畳み掛けるように胴体を蹴り飛ばし、剣士の身体が近くの大木に叩きつけられた。
ようやく最大の障害を取り除けたことに黒い集団は安堵し、今度は残りの二人を睨む。詠唱者は片割れを抱きしめる力を強めハンドガンを構えるが、敵の数はまだ六人もいる。歯噛みする思いで照準を合わせるが
「ぐっ!?」
「な、なんだ!?」
「………?」
突然黒い集団が動きを止めた。だがどうにも様子がおかしい、彼らにも異変が理解できないようで動かない身体を必死によじっている。二人が呆然とそのさまを見ていると
「アグニ!!」
レイの叫びとともに、彼らの図上からアグニが降りてきた。着地と同時に抱えていたラナを下ろすと、地を蹴って黒い集団に飛びかかる。
「おらあ!!」
「ぎゃあ!?」
「ぎええ!!」
レイの拘束でろくに動けない彼らをほぼ一方的に殴りとばすアグニの姿に、ローブの二人はわけがわからず困惑しており、そんな彼らにラナが声をかける。
「ねえ、あんた達大丈夫?」
彼女の声にハッと我に帰ったのは、しゃがみこんだ一人だった。
「お、俺よりも彼を!」
必死に叫ぶ低い声、そして彼と言って地に伏せる剣士を見る。どうやら三人のうち二人は男性だったようだ。頷いたラナが剣士に駆け寄ると、彼は喉に手をかけてヒュウヒュウと苦しそうに浅く呼吸している。どうやら針に毒が塗られていたようだ。
「『解毒』」
ラナが喉元に手を翳せば、ガントレットが青白く光り体内の毒が浄化されていく。呼吸困難が無くなり剣士はカハッと咳き込もうとするが、ラナが身体を押さえ込む。
「じっとしてて、今から針を抜くから」
下手に動いたり抜こうとすれば動脈を傷つけかねない。ラナはまず『|清潔クリーン》』で患部の雑菌を消毒し、『回復』で細胞の治癒力を高めながら少しずつ針を抜いていく。針自体がそこまで深くなかったのが幸いし、傷痕も残らず完治できた。
「よし、もう大丈夫」
「あ………」
ゆっくり起き上がった剣士が自身の喉元を恐る恐る触り、身体がなんともないことを確認して脱力する。だが状況を思いだし、慌てて再び剣をとる、
「まだ敵が!」
「あ~、それなら大丈夫だと思うわよ?」
「は………?」
見ればやはりというべきか、最後の一人の腹に飛び蹴りを食らわされたところで黒い集団は全員アグニに倒された。
「ラナ、そいつらは無事か?」
「毒は大したことはなかったし、そっちの二人はほぼ無傷よ」
先ほどまで自分が苦戦していた黒い集団をものの短時間で圧倒された光景に、剣士は唖然とした後緊張の糸が切れたのか大木にもたれかかる。
「………君達は、冒険者なのか?」
防御魔法を解いた詠唱者の手から離れるように立ち上がり、ローブの男が恐る恐る問いかける。どうやらまだ警戒心が解けていないらしく、少し後ずさりをしている。
「ああそうさ。だからあんた達に危害を加えるつもりはないから安心してほしい」
木の影からレイが顔を出し、影の触腕で倒れた黒い集団を束ねるように縛り上げる。
男は少しだけ安堵したのか身体の力を抜くが、ふとアグニの姿を見て驚いたように呟く。
「覇竜族………!」
「あ~………」
明らかに驚愕の混じった声色に、アグニはなんとなく彼の心境を察しややげんなりする。大方覇竜族が苦手な人種の男なのだろうか、覇竜族に仮を作ってしまったことに自己嫌悪でもしているかもしれない。
チラリと仲間の顔色を伺えば、明らかに不機嫌そうな目で男を睨んでいる。とはいえアグニとしては慣れているので、そういちいち不快になる必要はない。
「まあその………覇竜族に助けられたのが嫌でもさ、命拾いしただけマシだと思っとけよ」
「あ、いや………そういう意味で言ったわけでは」
アグニの気まずそうな言葉に、男は自身の発言が無神経なことに気づいたのか首を振る。
「いやいいって、気い遣われるほうが却って疲れるからさ」
「いや」
ハッキリと男は否定する。それは罪悪感からくる心境ではないことを、彼の雰囲気が伝えていた。
「本当に違うんだ。ただその、友人以外の覇竜族に会うのが初めてだったものでな」
そう言うと男はかぶっていたフードを外し、素顔を露にする。
「…………は?」
「え!?」
「!?」
三人は晒された男の顔を見て我が目を疑った。
銀色の鱗と二本の立派な角、銀の左目と紫の右目の虹彩異色、紫の虹彩に刻まれた覇竜の御印。三人はその顔をつい先ほど見たばかりで。
「『同族』に助けられて、不愉快に思うわけがない。改めて、助けてくれてありがとう」
クレルドリューン王国第一王子、デュナミス・アージェント・ド・クレルドリューンが、新聞の写真と全く同じ笑顔で感謝した。
まあこの展開は予想できただろうね




