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覇竜戦記  作者: ペペック9
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月の国の王子

繋ぎってなぜこんなに難しいのだろうか…

昨夜未明に発生した銀光林爆破事件。一夜明けたのちに国際チャンネルに報じられたニュースは、商国のみならず他国にも衝撃を与えた。事件の現場は人通りの少ない銀光林の林道で、乗車していたのは三名の竜人だった。発見時には車はすでに炎上しており、中にいた三名も黒焦げの焼死体となっておりすでに死亡。それだけならどこにでもありそうな事故死として処理されていたかもしれないが、炎上していた車の車種がそれだけでは終わらせてはくれなかったのだ。

車種は商国王家の貴族階級御用達の大手メーカー。中でもそのシンプルなフォルムから一般貴族にあまり流行らなかった為に、所有している人物が王族でも一人しかいなかった。クレルドリューン商業王国第一王子、デュナミス・アージェント・ド・クレルドリューンの愛車だったのだ。

発見した警備兵の証言から本国の騎士に確認をとらせ、間違いなく王子の車であるという裏付けが取れた。すぐさま乗っていた遺体を司法解剖に回すも、三名とも炭化の状態が酷くなかなか本人確認が取れない状態だという。また同乗していた二名の身元を調べていると、第一王子直属近衛隊長ロドニグ・ド・ロドニット子爵令息と同副隊長グレース・ド・グーディメル公爵令嬢のものではないかとの見方が捜査関係者の間で広まっているらしい。現在この三名は行方がわからず、王族の突然死に本国は騒然となっていた。




大きな街灯ビジョンで報道されるニュースには、三人の高貴な血筋(ブルーブラッド)と思われる男女の写真が写されている。道行く人々はその映像に立ち止まり、何人かは顔をしかめる。


「これどう見ても殺人だろ……」


「ネットニュースだと盗賊の仕業じゃないかって説もあるらしいがな……」


「でもさ~、確かデュナミス王子って覇竜族の妾の子だったんだろ? やっぱり反覇竜派閥テロの仕業じゃないのか?」


「まさか! まがりなりにも王族よ?」


「わからないぜ? 反覇竜派閥のテロリストって割りと洒落にならない被害を出してるって話だし……」


「それに王家のほうでは、王妃派閥が第一王子を失脚させようと企てているなんて噂もあるしな」


当然と言うべきか若者達の間では事件の話で持ちきりになっている。自国の王族に対する話題としてはいささか不謹慎な会話だが、軽薄な彼らは異にも返さない。


「でもデュナミス殿下の手腕のおかげで商国の利益は潤ったって話だし……」


「だから覇竜嫌い達からは嫌われてるって話も聞くけどね………って」


ふと女の無神経な笑みが引っ込み、ある一点を見つめるように目を見開いて固まる。何事かと友人達が彼女の視線の先に振り返ると


「…………」


『!?』


いつからいたのか、金髪の竜人の男が自分達の後ろに立っていた。それだけなら彼らは『何をジロジロと見ている!?』と抗議したかもしれなかったが、男の肩に刻まれた覇竜族の印を見てギョッとして黙り込む。しまった、よりにもよって覇竜族の耳に入るなんて……と罰が悪そうに友人達は互いの顔を見やり、そそくさと逃げるようにその場から移動していった。

男は彼らの後ろ姿を冷めた目で見続ける。気さくでフレンドリーな普段の彼を知る者が見れば、背筋が凍りそうなほど感情の見えない視線で。


「アグニ、そろそろバスが来るぞ」


「……ああ」








年期の入ったバスに揺られながら、アグニは流れる景色をぼんやりと眺める。商国の都心から離れて緑豊かな木々が多くなり、先ほどから同じ景色ばかりしか見えないが、今はただ無心になりたいアグニとしてはこちらのほうが都合がよかった。アグニの隣の席にはメルが座り、バスに乗車する前に買った新聞を開いて、例のニュースの記事を読み眉間に皺を寄せて考えこんでいる。バスの一番後ろの席にはジャックとトールとレイとラナも同乗している。レイは読みかけの本を読み、ラナはイヤホンで音楽を聞き、トールは椅子にもたれて高鼾をかき、ジャックは窓に両手をついて外の景色を物珍しげに眺めている。


『間もなく~、デュノア公爵領~、デュノア公爵領でございます』


そこへ無機質なアナウンスが響き、レイは本に栞を挟んでトールの肩を揺する。ハッと意識が戻るトールに目的地が近いことを告げ、ジャックとラナも音楽を止めて降りる準備をする。


「………そろそろだな。次のバス停で降りるぞ」


「ん」


メルも新聞を畳んでからアグニの肩をポンと叩けば、アグニは視線をそのままに小さく返事する。


停車したのは、ここへ来るまでの林道が嘘のように草原が広がる街道だった。プシューという音を響かせてバスの扉が開き、六人はぞろぞろと降りていく。メルがARMS内蔵地図から付近を調べる。


「ここからさらに歩いてあと五・六分だな」


「え~! まだつかないの!?」


「一番近いバス停がここまでなんだ、贅沢言うな」


目に見えて落ち込むラナに、トールが肩を竦める。


今回一行が訪れるのは、商国の北東に位置するデュノア公爵領にある交易街エンゴーラ。都市からバスで二時間はかかる辺境でありながら、美しい景観を望める宿泊施設やこの地域でしか手に入らない特産品目当てに、遠方からの観光客が絶えない人気の観光スポットだ。


「交通費負担してくれるのはいいんだけどさ~。こう長いこと移動していると疲れるよな」


長いことバスに乗っていたせいか、凝り固まった身体を解すようにトールは肩を回す。それにはレイも同感だったようで苦笑で返す。


「まあ気持ちはわかるよ」


「もう少しの辛抱だ。街についたら依頼主に頼んでランチでもご馳走して貰おう」


「「「メル(姉ちゃん)に賛成ー!」」」


並んで歩くラナ・アグニ・ジャックが声を合わせて賛同する。こんな苦労してここまで来たのだから、報酬の前払い変わりに飲食を奢って貰うのもいいだろう。


白金階級になってから初めての依頼。依頼主はエンゴーラに本社を持つ『銀月商会』の代表取り締まり役だった。ただどういうわけかアグニ達は依頼の内容を聞かされておらず、ギルドからは商会からの証明書と交通費の入った封筒を渡され『行けばわかる』とだけ言われた。普通なら胡散臭いと思うかもしれないが、ほかでもないギルドが正式に受諾した依頼らしいので、真っ当な内容であることは間違いないだろう。それに先日ギルドから課せられた依頼という名の昇格試験を考慮に入れると、もしかしたら外部に情報を漏らすわけにはいかないほどの重要な依頼かもしれない。

何せ銀月商会は、渦中の王子が興した組織なのだから。







もともとエンゴーラは、農作物もほとんど育たない痩せた土地しかない貧しい町だった。しかし今から十年ほど前に、王都から町の管理を新たに任命された人物がやって来た。その人物こそがデュナミス王子だった。

クレルドリューン王国第一王子、デュナミス・アージェント・ド・クレルドリューン。今は亡き先王と彼が懇意にしていた財務官の女性との間に生まれた王家唯一の男児だが、母親が覇竜族であったために王位継承権は無し。妾の子として王家から邪魔者扱いされていた彼は、名門学園を卒業後は王都から実質的に追い出される形で町の管理を任された。当然ながら覇竜である彼の手腕に不安を抱く町の住民達だったが、そこで初めて彼の辣腕が発揮された。

彼はまず当時は物珍しくもなかったこの地域の野菜や果物や花に目を付け、私財で取り寄せた上質な肥料で土地を開墾し上質な作物が採れるよう尽力。『銀月商会』を立ち上げて作物を出荷し、売り上げで獲た財力で町のライフラインを一新。住民に安定した衣食住を提供した。次いで町の景観の良さに気づき、小規模ながらも美しく多機能な宿泊施設を設立。観光ガイドに大々的にPRし、遠方の客を呼び寄せた。観光産業によって得られた収入は町を劇的に成長させ、今では交易街としてめざましい発展を遂げていったのだった。

彼の商人としての才覚を噂で耳にした貴族達に、王都に呼び戻されてからも彼の優れた経済学は奮われ、その王家の中でも高い素質から現在は覇竜の血筋でありながら国の重要な執務を任せられる才君と称えられている。






「その王子死亡のニュースのなか、彼が立ち上げた銀月商会の上層部からの依頼……偶然ではないのだろうな」


街道を道なりに歩くメル達は、新聞の一面に載るデュナミス王子の写真を見る。商国の最盛民族である月竜族の特徴である銀色の鱗、頭部からは二本の立派な角が生え、煌びやかな式典服を纏い笑顔で民衆に手を振る姿は絵に描いたような王子そのものだ。しかしその両目は左右で異なる色を持ち、左目は月竜族特有の銀色の虹彩に対し右目は紫の虹彩。しかも紫の目の瞳は丸い黒目ではなく覇竜族の証である御印の形をしており、彼が覇竜族の血筋であることをいやでも誇示している。


「………確か、事件があった銀光林はエンゴーラから二つ分隣にあるんだっけ?」


ラナが草原の向こうに見える森に振り向く。滅多に人が通らないあの場所は、今は現場検証の騎士達や報道陣でごった返していることだろう。


「そう、だな……」


ラナの問いかけに頷くメルだったが、どこか腑に落ちないといった声色の返事にジャックが首を傾げる。


「何か気になるの?」


「……なぜデュナミス王子は、あの検問所を抜けようとしたのだろう?」


メル曰く、王族が帝国へ入国するならば国道方面の検問所を通るのが普通のはずなのだが、今回の現場は銀光林だった。銀光林は検問所としてはかなり小規模で、曲がりなりにも王族が一般的に使用するようなところではない。何らかのお忍び目的だったとしても、わざわざ使うメリットがあるだろうか?


「それに発見された遺体は損傷が激しくて、まだ本人のものかどうかの確認はとれてないらしい」


現在司法解剖を行ってはいるが、まだこれといった証拠にはなっていないらしい。


「ん~」


なんとも不可解極まりない事件。一同が立ち止まって考えてはみるも答えは浮かばず、アグニは頭を掻いて唸る。どうにも頭を使うのは自分の性分ではない。


「……?」


するとレイが、何かに気づいたように辺りをキョロキョロと見渡す。


「どうした?」


「…………戦闘音が聞こえる」


トールの問いかけに答えるレイは、鋭い目付きで遠くを見据える。その視線の先には先ほどラナが見ていた森があった。アグニ達には何も聞こえなかったが、斥候(スカウト)の鋭敏な感覚を持つレイの耳には確かにその音が聞こえた。


「猛獣が戦っているんじゃねえの?」


アグニが言うように、こういった草原や森林地帯では野生の猛獣が戦うことなど珍しくない。だがレイは首を横に振りハッキリと否定する。


「いや、これは爪や牙のぶつかる音じゃない。製鉄された武器の金属音だ。…………剣と剣のつばぜり合い、あと砲撃魔法の音もする」


レイの言葉から察するに、どうやらあそこの森で誰かが戦っているらしい。しかも魔法まで使っているとなるとただ事ではなさそうだ。


「もしかして盗賊に襲われているとか?」


「ありえるな……」


仮にそうなら黙って見過ごすわけにはいかない。メルが仲間達と目配せすれば全員が頷く。


「アグニ、お前は爆炎翼で空から行け。このまま走るよりは飛んでいったほうが速い」


「わかった!」


「レイはアグニの影に入ってついて行ってくれ」


「ああ」


「怪我人がいるかもしれないしな………ラナはアグニに抱えてもらってくれ」


「了解!」


「ジャックはここで待機、トールは私と一緒にエンゴーラまで行き助けを呼ぶぞ」


「おう!」


「わかった!」


各自に指示を出し、メルとトールはエンゴーラへの道を走る。アグニはARMSを起動させて爆炎翼を広げると、ラナを抱き抱えて羽ばたいた。飛翔するアグニの影にレイが潜り込み、ジャックを残して一同はその場から動いた。

月竜族:商業神リベリアを崇拝する竜人民族。商国の実質的な最盛民族。特徴として根っからの商人気質、コミュニケーション能力と弁舌に長けた者が多いとされている。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 久しぶりのアグ兄さん!もう空を飛ぶのをマスターしてその内華麗に空中戦される事を期待してます!! レイ君人の影に入れるの便利そうだな(忍者みたい) これからどう活用(悪用)していくのか目が離…
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