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1-1

 目が覚めた。


「……最悪な夢だ」


 そう、夢だ。それも相当にタチの悪い。


 人生最悪の経験と、現在進行形の問題のあわせ技なんてどう考えたってロクな夢じゃない。ワイルドガウンの件だけでも胸糞悪いのに、俺自身があの女に変身するなんて考えうる限り最低の夢だった。


 結局ワイルドガウンはあの現場にいた人々の証言で失脚し、縋り付こうとしたヒーローの地位を失ったわけで、ざまみろと言ってやりたい。だが、だからといって夢に見ても不快じゃないかといえばまったくそんなことはないし、おまけにあの女まで登場する始末だ。


「ほんっと、夢でよかった……」


 つーかあいつの名前とか知らんし。ああ、だからあのタイミングで夢から覚めたのか。

 ベッド脇の窓、カーテンの隙間から漏れる明かりはまだ朝のものだ。寝過ごしたわけではないらしい。

 朝日は非常に爽やかで心地よく、夢見の悪さを相殺……とまでいかずとも、多少は緩和してくれそうだったのだが、時刻を確かめようと窓とは反対側に身をよじった瞬間、悪夢と同等に不愉快なものが目に入ってまたしても気が滅入る。


「まぁ……あんな夢を見た原因はコレだよなぁ」


 時計や携帯が置かれたベッド脇の小机に無造作に放り出された雑誌。デカデカと表紙に踊る派手な文字は『週刊ヒーロー現代』とある。表紙を飾る写真は赤と白を基調としたヒーロースーツに身を包む、筋骨隆々の女の写真だ。銃を手にした数人の男たちに囲まれていながら、そのうちの二人をそれぞれ片手で掴み上げて振り回している。

 筋骨隆々といっても、それはボディビルダーとかそういう次元ではない。女が掴んでいる男たちは間違いなく大の大人だが、女の身長はほとんど彼らの二倍近い。明らかに真っ当な人間の体格ではなかった。


 そんな写真の女の肩の辺りからタスキのように斜めにかぶせられたゴツゴツした見出しには『話題の女ヒーロー徹底解析!』とあった。


「なぁにが徹底解析だ」


 昨夜、就寝前に流し読みした当該記事の内容を思い出して顔をしかめる。徹底解析とデカデカ掲載している割に、その内容は少しネットを調べればわかる程度の目撃証言をベースに、大半は推論で組まれたに過ぎない考察だった。


 だいたい『目撃者も彼女と戦った犯人たちもほとんどその声を聞いていない』と書いてあるにも関わらず『彼女の目的は犯罪の撲滅ではなく、ただ平和で静かな街を取り戻すこと』だと同じページに書いてある時点で記事の信頼度は地に落ちていた。


「平和で静かな街か……」


 俺の呟きに呼応するように、遠くでパトカーのサイレンが甲高い声を上げる。平和で静かな街なんて、このご時世では幻想もいいところだ。

 世界規模での治安悪化の原因は、経済だとか行き過ぎた医療技術だとか管理社会の反動だとかここ数十年の間にもあれこれ言われているが、そのどれが正解かなんて俺にはわからないし、どれでもいい。どのみち今となっては原因を特定できても事態の解決にはならないだろう。


 重要なのは凶悪犯罪の増加という事実、そしてそれに伴って現れたヒーローとかいう詐欺師の存在だ。

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