武人ゴルメスの友語り3
すぐには理解出来なかった。命が等しいなどと考えた事が無かったからだ。主君の御命こそが尊く、守るべきもの。たとえ自分の命を盾にしてでも。それは、自分の置かれている立場には当然の事である。
…立場?それを言うならまどか殿には、主君が居ない…言い換えれば、まどか殿が主ということか?…そして、全ての民を主と仰ぐ…うーん、よくわからん…
我が意を察したのか、ジョーカーは、
「ゴルメス様、まどかお嬢様には、主従という考えそのものがございませんよ。冒険者とは自由の象徴。技や力では無く、心をご覧下さい。やがて、見えてくるものがあるでしょう。」
子爵家の別邸を調べる任務の時、まどか殿は魔術対策として、兵士全員に術をかける。ここに至るまでの間、商人等から情報を得る。帝都に来てさほど時が経っていないはずだが、商人はまるで従者のような振舞いだった。
『まどか殿は人を惹き付けるなにかがある…』
私はまどか殿と行動を共にしたかったのだが、役割りを分担された。まどか殿が正面から、私は退路を断つ役目だ。
裏手の森を探索すると、祠があった。不自然に思った私は祠を調べ、地下へと繋がる通路を発見する。
『なるほど、まどか殿の言った通りだ。』
慎重に通路を進む。奥から声が聞こえる…皇子様の声だ!しばらく語っていたようだが、突然気配が消えた。私は急いで奥に進む。
そこには広間があり、皇子様の姿は無かったが、まどか殿が捕えられていた。不思議なことにまどか殿は、囚われの身であるにも関わらず、落ち着き払っている。
『もしや、わざと囮になって情報を集めたのか?だからこそ我らに別行動を…』
考えている暇は無かった。崩落の危険があるらしい。私達は祠へ急ぎ戻り、崩落に巻き込まれずに済んだ。
『いったいまどか殿には、何処までの先が見えているのか…』
森を出ると、先程の商人の屋敷へ向かう。まるで事前に準備していたかのように、馬が用意されていた。ハンスという、まどか殿の仲間が手配したらしい。
『これはタダの寄せ集めの仲間ではない。まるで心で繋がっているようだ。』
だが、感心している場合では無かった。まどか殿に齎された情報、それは、子爵が皇子様を殺害し、皇子様に成りすましていた事、その姿で帝都を ひいては帝国を乗っ取ろうと企てている事。
帝国の騎士として、そのような輩を許せる筈も無い!必ず我が手で討ち取って見せる!私は怒りに燃えていた。
「ゴルメス、私達は先に行く。子爵の首は、任せたよ!」
まどか殿は、馬車の扉を開け放つ。ジョーカーはもう一人の少女、メグミを抱き抱え、馬車を飛び出した。
「な!何を…」
我が目を疑った。ジョーカーは黒い翼を広げ、飛んでいるのである!
「あの者、人では無かったのか…」
それを確認したまどか殿も、飛び出す準備をしていた。
「ゴルメス、人であれ亜人であれ、魂が真っ直ぐなヤツも居るし、汚れたヤツも居る。私の仲間は、皆真っ直ぐなヤツだよ。信じてやって欲しい。」
そう言い残して、まどか殿は火炎を纏い馬車の屋根に飛び乗った。私は並走する馬に乗り換えると、戦場へ一気に駆けた。