武人ゴルメスの友語り1
最初に見たのは、修練場だと思う。ケーニッヒ卿に相手せよ!と言われたその者、野の者には稀に強者が居ると聞くが、その一人であろうと思った。
その者はまどかと言う名の少女だった。だが醸し出すオーラは、達人のそれであり、細腕の女子と侮るには余りにも危険であろう。相手の力量を見極めるのは、戦士として、疎かに出来るものではない。己の力に溺れるような愚は、戦場では命取りである。
そして見極めた結論。この者は自分と互角であると…
しかもその者は、無手であった。天武の才なのか、幼き頃よりの修行によるものか、とにかく強い。そう結論づけると、私は一気に勝負を付けることにした。
私は自分の最大最速の技を打ち込む。だがその少女は、紙一重で躱した。スピードでは一枚上手と言うことか…だが押し並べてスピード重視の者は、技が軽い。次は相手の技を受け、隙を突いて反撃を試みることにした。
するとどうだ、その少女は雷鳴の術を放ったのだ。
私の今まで見た術者の中でも、最上位の雷撃。最初に見せた格闘家のオーラは、少女の力の一部でしか無かったのだ。
後日聞いたのだが、私は以前まどかに会っている。ケーニッヒ卿が帝都に来られたおり、護衛を勤めていたらしい。駅にいた冒険者の一人だったのだ。思えばあの時、まどかのオーラに気付け無かった。達人と呼べる武芸者には、相手に気取られぬようにオーラを抑えて居るものが居る。まどかは正にそれであるのだろう。
格闘家としても一流、術者としても一流、私は戦士として目指す高みを見た気がした。
『次に間見える時には、必ず追いついて見せる!』
そう心に誓い、私は修行を開始した。
次に会ったのは、武闘大会の時。まどかが参加するのを期待していたが、トーナメント表にその名は無かった。準決勝、私の相手は次侯爵の近衛騎士団長、武門の誉高い次侯爵家、その中で筆頭を勤める強者だ。油断ならない相手であった。
数合の打ち合いの後、次の一撃の為に気を練っている時だった、突然皇子様の席周辺で煙が上がる。私は試合を止め、皇子様に駆け寄ろうとした。その時、何者かが闘技場に降り立ち、煙に向け術を放った。竜巻のような風の術は、皇子様の周辺の煙を巻き上げる。そこにまどかが火炎魔術を打ち込み、謎の煙は燃え尽きた。
煙を吸い込んだ者は、身体に毒が回っているらしい。まどかは風の如く皇子様の元まで跳び、治癒の魔術を使った。
私は愕然とした。まどかが私に見せた術はこれで四属性。雷鳴、火炎、風、治癒である。最早これは、魔術師や魔導師というレベルではない。最早賢者の域に達している。知らぬうちに心の何処かで、少女という侮りがあった自分を恥じた。
『この者は…いや、この御仁は、自分よりも上位のお方だ。敬意をはらうべき人物だ…』
この日から、まどか殿と呼ぶようになった。
賢者の如き知恵を持ち、武人としての強さを持つ。最早人の域を超えていると言ってもいいだろう。何故だか敗北感や屈辱感は無い。私はこの御仁と剣を交えた事を誇りに思う。そんな気持ちになれる人物に、私は初めて出会えた気がする。