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騒乱のデストリーネ  作者: 如月ゾナ
第7章 騒乱の始まり
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第93話 元凶との対峙

 

 馬を走らせ続け挑戦の森から王都へ直行しているデルフとウラノ。

 だが、長時間馬を酷使した続けたため体力が尽きてしまい途中から自分の足で走っていた。


 それでもデルフたちは驚異的な速度で一日も経たずして目の先に王都が見えるところまで到達している。

 しかし、一切の達成感がない。


 酷く息を切らしながらただ呆然と王都を見ているだけだ。


「な……んだ。あれは……」


 あの賑わいを絶やすことがなかった王都の面影が一切なかった。


 大きな怪鳥が飛び交っており破壊された都門の先には夥しい数の魔物が彷徨いていた。


 王都全体から煙が立ち上っていることから混乱から生じた火が燃え広がっているのは明らかだ。


 デルフは左拳に力が入りウラノに視線を向けずに言葉を放つ。


「ウラノ!! 行くぞ!!」

「はい!」


 デルフは刀を抜き走り出す。

 ウラノも小刀を抜きその後に続く。


 王都に向かって走る途中、フレイシアの安否の他にデルフには一つ気掛かりなことがあった。


 (姉さんは無事なのか……?)


 デルフたちの家は王都の外だ。

 その魔物たちの進行路にぶつかっていてもおかしくはない。


 ナーシャの実力は王国が誇る騎士をも上回るとデルフは踏んでいるがそれでも魔物の群れ相手では不安が尽きない。


 今となってはデルフに残されたただ一人の家族。

 見捨てるという選択肢は元よりなかった。


 デルフはナーシャの下に向かおうと身体の向きを変える。


 しかし、そのときデルフはナーシャの言葉を思い出した。


「私よりフレイシアを優先しなさい……か。これを破れば逆に恨まれそうだな……」


 しかし、だからといって何もしないわけにはいかない。

 デルフは隣で走っているウラノに目を向ける。


「ウラノ」

「ハッ」

「お前は姉さんの所に向かってくれ」

「しょ、小生は殿の御……」


 ウラノの言葉は途中で遮られた。


「お前にしか頼む者がいない。姉さんを頼む」


 自分が向かうことができない無念を感じさせる程の振り絞ったデルフの声を聞いたウラノは頷くことしかできなかった。


「承知しました。ですが殿、これだけはお許しを」


 ウラノはデルフの肩に手を置いた。


「王女様の設置した魔力を解除し殿に設置いたしました。殿の危機の際にはこのウラノ、すぐさま馳せ参じます」

「助かる」


 デルフは手短にウラノに礼を言う。


 そして、ウラノは”感覚設置センストラップ”を解除する前に得た最後の情報をデルフに伝える。


「王女様は謁見室に。しかし、ジュラミール様とウェルム・フーズム魔術団長が反乱を。騎士団長が奮戦しておりますが……」


 ウラノの詰まる声で察したデルフは歯ぎしりをぐっと抑え重々しく頷いた。


「では、小生はこれにて」


 そう言ってデルフの隣にあったウラノの姿は一瞬で掻き消えた。


 ウラノが去ってからデルフはさらに速度を速める。


「ウェルム…………お前が目指した平和とは一体何なんだ」


 デルフは消え入りそうな声でそう呟いた。


 ジュラミールとウェルムの反乱は王都に向かう途中に既にウラノから報告があった。

 最初は何かの間違いだと思ったがウラノがそんな嘘をつく理由がない。


 ようやく呑み込むことができたデルフだったが悲痛な思いをせずにいられないでいた。


 ウェルムは王都にきて初めてできた友だ。


 デルフがまだ弱くリュースの弟子入り間もない頃、よくデルフの鍛錬に付き合ってくれた。

 その他にもお互いの夢を話し合ったりしてデルフはウェルムのことを親友とさえ思っていたのだ。


 それがここに来ていきなりの反乱。


 このまま行けば戦端が開かれるのはまず間違いない。


 今、この足を止めれば戦うことはなくなるかもしれない。

 だが、それをデルフ自身が許すはずがない。


 自分の主たるフレイシアの危機に立ち向かわない程、デルフは落ちぶれていない。


 ウェルムはこの国に仇なす敵なのだ。


 デルフは覚悟を決めて既に破られている都門を潜る。


 魔物に構っている余裕などなくデルフは可能な限り無視をして速度を緩めない。


 今は魔物を倒すことよりもできるだけ早くフレイシアの下に向かうことが優先なのだ。


 しかし、どうしても無視をすることができないよう立ち塞がった魔物も出てくる。


 そんな魔物は頭に突きを入れて一瞬で命を絶っていく。

 本当に死んだのかどうか確かめる必要はない。


 道さえ開けばそれでいいのだ。


 そのとき、デルフの目の先に逃げ遅れたと思わしき集団が目に入った。

 集団は子どもや年寄りが殆どで戦うことはまずできないだろう。


 護衛の兵士たちが前に出て人間大の大きさの三匹の狼の魔物に立ち向かいその民たちを守っている。


 だが、兵士の攻撃は魔物には一切通じておらず全滅するのも時間の問題だろう。


 デルフは反射的に身体が動いていた。


 一瞬にして魔物との距離を詰め握りしめた刀を力強く引く。


 そして、デルフは一匹に一発ずつ渾身の突きを放ち的確に頭を貫いた。

 その攻撃を目で追える者などこの場にはいない。


 兵士たちが気付いたときには既に魔物が横たわっている。


「早く避難区域に急げ」


 そう短く言ってデルフは再び走り始める。


 兵士たちはそれが騎士団の副団長であるデルフ・カルストであると気付き安堵の表情をした。


「了解しました!!」


 デルフは横目で兵士たちが住民たちを連れて円滑に避難を始めたのを確認すると視線を前に向けた。


 城に着くと足を止めずに門を潜る。


 城の中に入るとデルフはそこで初めて足を止めてしまった。

 なぜならその有様はあまりにも酷く荒れていたからだ。


 石の柱は罅が入りいつ砕けてもおかしなく辺りには瓦礫の山がいくつもできている。


 魔物が入り込んだ形跡があるが魔物の仕業ではないとデルフには分かった。


 これは戦闘が行われた余波によるものだ。


 廊下や階段も形が崩れて穴ができておりその戦闘の規模がどれ程のものであったかが嫌でも理解できる。


 豪華絢爛たるデストリーネ王国の象徴である城が見る影もなかった。


 デルフは警戒しながらゆっくりと謁見室に向かう。


 謁見室に向かうにつれて周囲の損壊が酷くなっていく。

 さらに壁や地面に濡れている血痕の量も増えてきた。


 そのとき、目の先で壁により掛かって座っている人物の姿を発見した。


 デルフはその姿を見て目を疑った。


「!! ……ハルザードさん!!」


 デルフは走りハルザードの下に駆け寄る。


「デルフ……か。思ったよりも……早かったな……」


 デルフはそのハルザードの姿を間近で見て固まった。


 ハルザードがいまだに握りしめている剣は刀身がなく折れてしまっている。


 しかし、それよりもデルフはハルザードの真っ赤に染まった腹部に目が行っていた。


「そ、その怪我は……」


 ハルザードの腹部は鎧ごと深く斬り裂かれていた。

 一目見ただけでも致命傷だと理解できるほどの大怪我だ。


 認めなければならない。

 デストリーネ最強と称されていたハルザードが敗北したのだと。


「まさ、か、あいつがこれほどの実力を備えていたとは……。ハッハッハ、完敗だ」


 すぐにでも消え入りそうな声で陽気にハルザードはそう言うが言い終わった瞬間に表情を急変させる。


「デル、フ。ウェルムを……止めてくれ。あいつを止められるのはお前しかいない。……俺では無理だった」

「ハルザードさん! それよりも治療を!」


 デルフはハルザードの肩を左手で支え治療の準備をしようとする。


 しかし、ハルザードは力弱く首を振った。


「無駄だ。お前も分かっているだろう。……まもなく俺は死ぬ。その前に、お前に今言ったことを頼みたかった。間に合って、良かった」


 だんだんとハルザードの声が小さくなっていく。


「ハルザードさん!! 気をしっかりとしてください!」


 今にも輝きが消失しそうな目でハルザードはデルフを見据えた。


「デルフ……頼んだ。この国を……俺たちの意志を……繋いでくれ」

「ハルザードさん……」

「俺のことは、捨て置いて……早く向かえ。お前には守るべきものがあるだろう!」


 ハルザードは残る全ての力を振り絞ってデルフに発破をかける。


 戸惑っていたデルフだったがそのハルザードの眼差しを見てこくりと頷いた。


「ハルザードさん。……約束します」


 名残惜しそうにハルザードから離れデルフは一礼をして走り出した。


 ハルザードはそのデルフの背中を目で追いかける。

 そして、デルフの背中に向けて腕を伸ばした。


「はっ……なんて大きい背中だ。弟子の出来はリュースには勝てなかったようだな。一体、どこで間違えたんだ……。リュース……俺もここまでのようだ。後は、任せよう。次の世代に……」


 そして、ハルザードは静かに目を閉じた。




 デルフは走る。

 ハルザードの約束を果たすため、自分の本来の役目を全うするため。


 流れた涙を拭いデルフはひたすら走る。


「フレイシア様!」


 今更、デルフはハルザードが離れているということは現在フレイシアには誰も護衛がついていないことに気が付いた。


 瞬く間に謁見室に着いたデルフは閉まっていたドアを蹴飛ばして中に飛び入る。

 すぐに目に入ったのは玉座付近で倒れているフレイシアを今まさにジュラミールが剣で突き刺そうとしている瞬間だった。


 フレイシアは恐怖で身が固まり動けないでいる。

 飛び入ってきたデルフに気付けないほどの恐怖が襲っているのだろう。

 視線が自分を突き刺そうとしている剣に釘付けであった。


「フレイシア、お前には悪いがここで消えてもらう。正当な後継者が生きられると後々面倒なんだよ」

「お、お兄様……」

「さらばだ」


 そして、ジュラミールは両手で剣を強く握りしめフレイシアに剣の切っ先を向けて振り下ろした。


「フレイシア様!!」


 デルフは足に力を入れ思い切り地面を蹴った。


 地面との僅かな差で滞空し加速するデルフ。


 間一髪だったがフレイシアとジュラミールとの間に割り込んだ。


「!? デルフ……カルスト!?」


 デルフは刀で驚きに染まっているジュラミールの剣の軌道をずらす。


 軌道をずらされた剣はフレイシアから逸れ地面に深くに突き刺さった。

 その際、ジュラミールは自身の体勢を大きく崩す。


 それをデルフは待っていたように既に身体を動かしておりジュラミールの横腹に蹴りを放つ。


 その威力は凄まじく不意を突かれたジュラミールは吹っ飛び壁に衝突した。

 壁に大きな穴が開きさらに奥へと蹴りの衝撃が続く限り追いやられていく。


 ジュラミールにとって幸運だったことは城から外に放り出されなかったことだろう。


 デルフはゆっくりと立ち上がり警戒を怠らないよう視線を向けずにフレイシアに言葉をかける。


「フレイシア様、遅れて申し訳ございません」

「デルフ!! 待って、いました……。待っていましたよデルフ!」

「お怪我はありませんか?」

「え、ええ大丈夫です」


 デルフはざっとフレイシアの状態を観察する。


 白いドレスには埃や汚れが付着しているが破けているところはなく言葉の通り傷は一切負っていないようだ。


 デルフは一先ず安堵する。


 そのとき、フレイシアのさらに後ろにあった玉座に目が入った。

 そこに腰掛けている人物も。


「陛下……。お労しいお姿に……。陛下の心中お察しします。ご安心ください。命にかけてフレイシア様は私がお守りします」


 デルフは小声で玉座に座ったまま息絶えているハイルに申し上げた。


 そして、視線を戻し前に向ける。


「ウェルム……」

「やぁ、デルフ。待っていたよ」


 ウェルムはいつも通りの調子でそう言った。


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