表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
騒乱のデストリーネ  作者: 如月ゾナ
第7章 騒乱の始まり
89/304

第89話 残された日記

 

 再び戻ってきた。

 見た限りでは前から随分と時が経ったようだ。

 失敗作のジョーカーのおかげでまた一からのやり直しになった。

 今回はどうやら捨て子のようだ。

 王の次は捨て子とはどこか皮肉が効いている。


 

 どうやらサムグロ王国は潰れ新たにデストリーネ王国が作られたようだ。

 デストリーネ、公爵から王に出世とは大した奴だ。

 面白くなってきた。

 新しい身体は思いのほか動きやすいが魔力の量は考えていたより少ない。

 準備を始める前に鍛錬が必要だ。

 今の力では紋章を集めるどころではない。

 昔の配下、いや友人たちを呼び起こすのもそれからだ。

 今は非力だが必ず再興してみせる。


 


 大分、力を付けることができた。

 魔力量も全盛期には劣るがあのときと同じ、いやもはや越えている勢いだ。

 もしかすると大魔術師であった母上にも匹敵するかもしれない。


 

 研究を行いたいが場所がない。


 どうやら挑戦の森という場所があるらしい。

 騎士ですら立ち入らない場所だ。



 

 狼の死体は厳重に保管することにした。

 まさかこいつに紋章が宿っていたとは。

 持ち主が命を落とすと紋章は新たな依り代へと移動してしまう。

 なんとか対策を練らなければ。

 まさか我が身に戻らないとは想定外だ。




 元に戻ることができないならば自分に従順な兵を作れば良い。

 やることは前と変わらない。

 昔、考えたを案を本格的に始めるときが来たようだ。

 幸い実験体ならここにたくさんある。




 ようやく試作品が完成した。

 黒血を直接注入するのは常人では失敗が多いことが分かったためより簡単に天人(クトゥルア)を生み出す方法。

 “悪魔の心臓”を作りだした。

 見た目は蜘蛛の様な形と不気味だが効果は期待できる。

 まだ実験はしていないがこれが成功になることを願う。



 結論から言えばこれは魔力を持たない動物に魔力を与えること止まりだった。

 黒血には届かなかったが今はこれで納得しよう。




 実際、魔物の力はどれくらいのものだろうか?

 その実験をここから近くにある村で行うことにした。

 しかし、王国の騎士に邪魔をされると厄介だ。

 そこで、封印したジョーカーの存在を思い出した。

 今ならば力も弱っているだろう。

 封印を解き騎士をジョーカーに釘付けにさせればいい。

 騎士ならば魔力のないジョーカーも屠ることができ邪魔なく実験もできる。

 まさに一石二鳥だ。




 予想外の事態が起きた。

 後始末に狼の死体に乗り移って向かったがまさかジョーカーがあの村にいるとは。

 しかも、騎士まで出てくるとは誰が予測できる。

 そのせいで魔物の回収ができなかった。

 王国には魔物についてすぐに広まるだろう。

 それにあの少年に付けられた傷が癒えない。

 身体だけではなく精神までに届く攻撃だとは。

 どれだけ非力な相手だろうと油断はしてはいけないと肝に銘じなければ。


 しかし、収穫もあった。

 まさかこの紋章の能力を手に入れることができるとは。


 さらにこの素体も有効活用するとしよう。

 これでこの世界の平和への道が見えてきた。




 日記はそこで終わっていた。



「な、なんだこれは……」


 デルフはまったく理解に追いついていなく頭を抑える。

 どこから整理しようにも狼狽えて足がふらつく。


 ただ一つ、理解できたことがある。


「あの悲劇は……やっぱり作為的なものだったのか……。いや、この国で起きていた全てがこいつの仕業? ……ん?」


 デルフは日記がまだ一ページ残っていることに気が付いた。


 恐る恐る捲ってみると……


 そのとき、扉が思い切り開く大きな音が響く。


「と、殿!!」


 血相を変えたウラノが叫ぶ。


「ウラノ! 後にしてくれ!」


 一杯一杯の今のデルフには全ての音が自分を邪魔する音に聞こえ煩わしく感じていた。

 そのため反射的にウラノの声を撥ねのける。


 だが、次に放ったウラノの一言はデルフにとって無視のできないことだった。


「王女様から緊急事態の連絡です!!」

「なに!?」


 デルフは捲った日記に伸ばしていた手をすぐさま引っ込めウラノに詰め寄る。


「詳しく聞かせろ!!」

「魔物が……魔物が王都を囲むように出現したと……」

「な……」


 普通ならウラノが何を言っているか理解はできないだろう。


 しかし、デルフはすぐに理解した。


 なぜならそれを経験したことがあるからだ。


 一度はあったこと。

 二度目がないという保証はない。


 それにその一度目は作為的に起こされた事が分かっている。

 ならば、今回も。


 デルフはすぐに王都に引き返す決断をする。


「ガンテツ! 調査は中止だ。王都に引き返す!」


 王都魔物襲撃の件を知らないガンテツの顔に疑問が生じる。


「王都に……でござるか?」

「魔物が王都を襲っている。残った兵士だけでは魔物相手はきつい」


 それでガンテツは納得したらしく深く頷く。


 デルフも主であるフレイシアと姉であるナーシャの危機に苛つきを隠し切れていない。


「……なんだ!?」


 デルフとガンテツは急いでログハウスの中から飛び出ると外は騒がしかった。


 それははしゃいで笑っているという楽しげな様子ではなく絶叫や悲鳴だった。


「な、何が起きている!!」


 先程から何もかも後手に回ってデルフはもう混乱する。


 この事態も作為的なように感じる。

 デルフの額に嫌な汗が流れる。


 デルフは飛び出て様子を確かめるとログハウスの周辺に魔物が溢れかえっていた。


 巨狼よりはまだ小さい狼、だが群れを成し茂みに隠れているものもいる。

 そのため目で見える数だけではない。


 さらに目が赤く闘志をたぎらせている猛牛や木に纏わり付いて威嚇している大蛇など様々な魔物が三番隊の面々に襲いかかっていた。


 アクルガ、ヴィールたちが奮闘しているが数が多すぎて徐々に押されている。


「あのときと同じ……」


 一切の気配を感じなかった場に突如溢れかえる魔物。


 デルフは刀を抜き加勢に行こうとする。


 だが背後からのガンテツの声でその足を止める。


「カルスト殿、いや副団長!!」


 デルフは振り向くとガンテツが神妙な顔付きになって不敵な笑みを浮かべていた。


「なんだ?」

「副団長は急ぎ王都へ。この場の処理は自分たちに任された」

「そ、それは……」


 しかし、デルフの言葉を食い気味にガンテツが遮る。


「副団長は騎士団の要の存在! 副団長は王都の危機に誰よりも早く向かうべきでござる! なによりこの人数では王都の到着はどれだけ急いでも二日はかかる。しかし、副団長だけならばすぐに王都に向かうことができるはず!」


 確かにデルフだけならば三番隊とともにここまできた時間に比べものにならないほど早く着くことができるだろう。


「しかし、お前たちを置いていくわけには……」

「自分も隊長でござる!! 信じていただきたい! この命に懸けて隊長の務めを果たすでござる!」


 デルフはガンテツの表情を見詰める。

 そして、こくりと頷いた。


「わかった。任せる!」

「了解でござる!」


 デルフは抜いていた刀を鞘に収める。

 そして、ルーを探そうとしたが既にデルフの懐の中に潜り込んでいた。


「ガンテツ。言うまでもないがくれぐれも気をつけてくれ」

「心得ているでござる。副団長、自分たちもすぐに追いつきます」

「ああ、待っているぞ。ウラノ行くぞ!」

「はい!!」


 そして、デルフとウラノは走り始めた。


 その際に交代して後ろで休息を取っているクロークのところに近寄って耳に囁いた。


「クローク、死ぬな」

「もちろんです!!」


 デルフはクロークの目を張るほどの成長に喜び口元を釣り上げるがすぐに戻す。


(魔物相手だというのにまだ心に余裕が見える。……大丈夫そうだ)


 デルフはそんなクロークを見て少し安堵する。


「ウラノ! 今、王都の状況は?」


 デルフは手短に要件だけを尋ねる。


「現在騎士団長の指揮の下、善戦しているようですが……。いつまで持つか……」


 漠然とした答えの理由はフレイシアからの報告ではなくその周囲の慌ただしい様子からウラノが推測したからだろう。

 そうするとフレイシアも余裕がないことが分かる。


「わかった」


 大体を理解したデルフは手短に答え全速力で走り出す。

 その道中に立ちはだかる魔物なんて関係なく突っ込んでいく。


「どけぇぇ!!」


 デルフは戦うことを一際せずに道を塞いできた魔物を蹴り飛ばして無理やり道をあけて進む。


 一度通り過ぎたデルフに魔物たちは追いつくことはできない。


 その速度に付いてくることができているウラノも大したものだ。

 少し辛そうにしてデルフは悪いと感じるが待っている暇などない。


 それにいくら引き離そうとウラノは死んでもついてくるだろう。


 最速で森の外に出たデルフは森の入り口前に繋いであった馬に飛び乗る。


「ウラノ! 大丈夫か?」

「はぁはぁ……も、もちろんです!」


 ウラノも遅れて馬に飛び乗った。


「飛ばすぞ!」

「はい!!」


 そして、デルフとウラノは王都に向けて走り出した。



 デルフは見ることはなかったが日記の最後の一枚には新しい字でこう記されていた。




「城で待っているよ。デルフ。あのときに語った僕の夢について全てを話そう」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ