誕生
デストリーネ王国王城の王室。
ウラノはその扉の前をそわそわと忙しない様子でまさに右往左往している。
「おい、ウラノ。落ち着けって」
「こんなときに落ち着いてなどいられますか!! いつも行方知らずになるあなたもこの場にいるということは気持ちが同じだと思いますが!?」
「……確かにその通りだけどよ」
そのとき、王室の扉がガチャッとゆっくりと開かれた。
そこから顔を覗かせたのは桃色の長髪を後ろで結んだメイドのアリルだ。
言い争う二人の姿を視界に入れると呆れたような半目で睨み付ける。
そして、一言。
「お静かに」
だが、アリルの姿を見るや二人も反応し前のめりで迫っていく。
「どうですか!?」
「どうなんだ!?」
流石のアリルもその二人の圧に気圧されてしまうがそれも一瞬。
瞬く間に二人の脳天に手刀が振り下ろされる。
「「痛ッ!!」」
「静かになさいと言ったばかりです! 少しは落ち着きなさい。シフォードを見習ったらどうですか」
ウラノとグランフォルの背後には静かに待っているシフォードの姿があった。
そのすぐ側ではヨソラとサフィーが並んで佇んでいる。
シフォードはまだしも子どもの二人すら静かにしているのを目の当たりにした二人も流石に冷静さを取り戻した。
「全く……」
アリルは溜め息をついて王室の中に戻る。
前を向くと、自分の上司であるメイド長のランフェ、ベッドを挟んでナーシャがいる。
そして、そのベッドで眠っているのは国王であるフレイシアだ。
顔を赤らめて苦しそうに喘いでいる。
「大丈夫。フレイシア、もう少しよ」
ナーシャがフレイシアの手を握って声をかけ続ける。
ランフェは真剣な表情でフレイシアの介抱を続ける。
アリルは急ぎランフェの補助に回った。
そして、ついに「オギャー、オギャー」と静寂で包まれたこの部屋に大きな産声が上がった。
すぐさまランフェは赤子を取り上げる。
「はぁはぁ……」
フレイシアは意識朦朧の中、必死に呼吸を整えている。
「フレイシア様。若君です」
アリルがそう伝えるとフレイシアは胸をなで下ろしたように朗らかに笑った。
「そうですか」
ランフェは布で包んだ赤子をフレイシアの隣に寝かす。
「ふふ、おはようございます」
フレイシアは笑って自分の息子の頬を触れた。
「ぐすっ、フレイシア〜、頑張ったわね〜」
涙や鼻水やらで顔が酷いことになっているナーシャ。
「お姉様、泣きすぎですよ」
そして、二人は笑い合った。
そのとき、扉が思いきり叩かれた。
外からは「アリル、どうなんだ!?」などと荒げている声が響いてくる。
「ああもう!! 静かにと言ったのに! メイド長」
アリルがランフェに尋ねると頷きが返ってきた。
それを確認したアリルが扉に近づいた。
「どうぞ」
扉を開くとウラノとグランフォルが一気に雪崩れ込んできた。
「どちらですか!? 若君ですか!?」
「それとも姫か!?」
怒濤の質問に応対するナーシャ。
大声を出す二人に怒るアリル。
「ふふ、急に騒がしくなりましたね」
フレイシアが笑うとすぐ横にヨソラが近づいていたことに気が付いた。
「ヨソラ、あなたの弟ですよ」
「……おとうと」
生まれたての赤子に布越しに目を向けるヨソラ。
その後ろからサフィーは不思議そうに見守っている。
「名前は“フェルノ”。お姉さんとして仲良くして下さいね」
ヨソラは恐る恐る指で赤子の頬に触れた。
「……やわらかい」
だが、赤子が身体を動かすとヨソラはビクッと身体が跳ねて指を引っ込めた。
「ふふ、ははははは」
その様子を目に点にして見ていたが我慢しきれずにフレイシアは声に出して笑った。




