サフィーのお仕事
デストリーネ王国の大公爵であるモラーレン家の館。
時刻は昼を少し過ぎた頃、フレッドは門を通り、そこから続く広大な庭を進んだ先を進んでいく。
その最中に庭の手入れをしている庭師の老人がフレッドの帰宅に気が付いて近づいてきた。
「おや、これはフレッド様。お帰りなさいませ」
「ただいま戻りました。お嬢様は?」
「今日も執務室で励んでおられます。先日の王女様からの連絡をお聞きになった途端、凄まじい頑張りようで」
「それは何より」
そこで庭師はフレッドの隣に立つ人物に目を向ける。
「そちらのお嬢様は?」
「お嬢様のお友達です」
フレッドの横に立つ両目を布で隠した黒髪の少女はニコッと笑みを庭師に向けた。
そして、庭師との会話を終え、フレッドたちは館に入る。
「足下、お気を付けください」
「大丈夫、慣れてきたから」
二人は一直線にサフィーの執務室に向かう。
すぐ前まで辿り着くと怨念のような呻き声が聞こえてきた。
「うぅぅぅぅ……やってもやっても終わらない。広い領地ってこんなに大変なのね……ハッ! だめだめ、母様から頂いた領地なのよ。弱音を吐いちゃ駄目! 期待に応えないと!」
外でその声を聞いていた二人は顔を見合わせて微笑んでしまう。
気を取り直してフレッドは扉を数回ノックする。
「ぎゃっ! ……だれかしら?」
頓狂な声をなかったことにして極めて冷静に尋ね返してくる。
「フレッドです」
「!? フレッド!!」
声を聞いた途端、ドタドタと騒がしくなり扉が開かれた。
「フレッド! いつ帰ってきたの!?」
「たった、今です」
「もう、帰ってくるなら前もって言っていてよね……ってヨソラ!?」
サフィーはフレッドの隣に立つヨソラの姿に気が付いた。
「えっ、えっ、なんでここに」
その声に対してヨソラは首を傾げる。
「手紙に書いた、けど」
「えっ?」
だらだらと冷や汗を掻きながら目を逸らした。
だが、すぐに気を持ち直して頷いてみせる。
「へ、へぇ〜、も、もちろん見たわ!」
ヨソラはサフィーの性格を良く知っているため微笑みを浮かべている。
二人が世間話を続けている中、フレッドが執務机に目を向けると資料が山積みになっていた。
「しっかりと励んでいるようですね」
「当然よ。早く母様の力になりたいし。ヨソラ、今、王都はどうなっているの。母様は元気?」
「うん。でも、話は後。あれを終わらしてから」
ヨソラが指差すは執務机の上にある大量の書類だ。
「いいのよ、後で」
そう言ってのけるサフィーにヨソラは何も言わずにただ見詰め続ける。
視線は布で遮られているがその圧までは防ぎ切れていない。
そして、サフィーは数秒も経たずして折れてしまった。
「分かった。分かったわよ」
「大丈夫、ヨソラも手伝う。やり方、お母様から教わってるから」
「ヨソラ〜」
そして、二人はいそいそと執務机に向かっていき書類の処理を開始した。
ヨソラが来るまでは頭を抱えていたサフィーも今は楽しそうに進めている。
そんな二人の様子を見て微笑むフレッド。
「持つべきものは友ですね」




