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騒乱のデストリーネ  作者: 如月ゾナ
第19章 魔王と勇者
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第294話 未来へ

 

 王都に戻ったフレイシアは後回しにしていた演説を行った。


 民たちは大通りに集まりフレイシアの登場を待つ。

 王都に住まう人だけではなくデストリーネ王国中から集まってきているのだ。


 それもそのはず民たちは長年続いた戦争の日々に怯えている。

 自分たちの王がどんな人物なのかを見定めに来たのだろう。


 裏側にてフレイシアは大きく息を吸い吐き出し緊張を何とか緩和させる。


「……大丈夫!」


 フレイシアは自分の首に提げたペンダントを強く握る。


 そして、ついにフレイシアが壇上に上がるや大歓声が響いた。


 少し後ろで隣に立つように大連合に参加した各国の王たちが並び、さらに後ろには護衛として白夜の面々が並んでいる。


 ちなみにいつの間にか五番隊隊長であるイリーフィアも白夜の一員とされそこに並んでいる。


 フレイシア曰く、「優秀な者を遊ばしておく余裕は今の我が国にはありません」だ。


 そして、フレイシアは声を張って話し始める。


「皆さん、長い間、国を離れて申し訳ございませんでした。何が起こったか全てをご説明します。……数年前、忘れもしません。王都に魔物が攻め寄せてきた日です。前王ハイルはある者に殺され我が兄ジュラミールはその者の傀儡となってしまいました」


 フレイシアは話しながら断腸の思いでいた。


(これはデルフが望んだこと。だけど、これだけは!)


 フレイシアはその話を続け一つ付け加えた。


「ですが、私は当時の騎士団副団長であるデルフ・カルストによって救出され命を繋ぐことができました。ですが、カルスト副団長はその際に酷い手傷を負い治療の介なく命を落としてしまいました。今この場で皆さんに語りかけることができるのも紛れもなく彼の働きのおかげです」


 ぐっと涙が出そうになるも必死に堪えそれを悟られないように顔にも出さない。


「悲嘆に暮れた私はそのまま身を隠すことも考えました。ですが、王女として国民の無事、国の安定。残されたデストリーネ王家の一人として果たさなければならない! そうして決起に及びました。有り難いことにこの声に賛同し味方してくれた各国の方々に心からの御礼を申し上げます」


 フレイシアは隣に立つ各国の王たちに頭を下げる。

 それに一礼を返す王たち。


「私はこのご恩を忘れることはないでしょう」


 この光景は民たちからすれば有り得ない光景だろう。


 今まで敵だった国の国王がこうして自分たちの国の王都にて頭を下げあっているのだから。


「これからも良い関係を続けることを願っております」


 向き直りフレイシアは神妙な面向きで言葉を続けた。


「デストリーネを混乱に陥れ周囲を巻き込んだ騒乱へと及んだ首謀者の名は。“魔王”ジョーカー。大軍を単騎で追い返した様をご覧になった方もいることでしょう。ジョーカーの力は強大です」


 ざわざわと民たちの間で波紋が広がっていく。


(やはり、既に噂が飛び交っているようですね)


 だが、この状況はデルフの予想通りで好都合だった。


 頃合いを見てフレイシアは大声を挟む。


「ですが、ご安心ください! “魔王”ジョーカーは既に滅んでいます。ここ立つ“勇者”タナフォスの力によって」


 そして、タナフォスは腰に差していた刀を抜き上に突き上げた。

 その刀の刀身は黒く紛れもない魔王の武器。


 今まさに不安でざわついていた民たちから大歓声が轟く。


「デストリーネ王国国王としてここに戦争が終結したことを宣言します!!」


 


 デストリーネ王国王室でフレイシアは頭を悩ませる。


「まったくグローテは……頑固者です」


 グローテにも白夜としての大事な役目を任せようとしていたが自分は殺人鬼だからと自ら望んで牢に入ってしまったのだ。


 幾度か説得を試みたが結局グローテの意志は変わらなかった。


 フレイシアはぷんぷんと怒って不機嫌だ。


「あいつも思うところがあるんだろう。好きにさせておけばいいじゃないか」


 この場には机に向かっているフレイシアともう一人。

 椅子に座って寛いでいるグランフォルがいた。


「あなたは好きにし過ぎなのです。フィルイン殿から王位を代わりに就いて欲しいという頼みを断ったらしいですね」

「耳が早いな。今更、王になれと言われてもな。むしろ、ここにいた方がそれなりの地位はあるし自由だし得じゃねぇか」

「あなたは奔放過ぎるのです。少し減額しますよ」

「うわぁぁ!! そ、それはなしで! なっ?」


 グランフォルはあれから一人で各国の旅を繰り返していた。

 自分の目で見るのが一番この世界の状況を理解できると残して。


 自分の仕事も放り投げて。


 こうしてフレイシアの部屋にいるのも帰ってきたことの報告のためだ。


「綺麗だな。そのペンダント。いつの間に買ったんだ? まさか……他に想い人が!?」

「失敬な。デルフの形見ですよ」


 そう答えるとグランフォルは悔しそうな顔をする。


「くぅうう。あいつ、いなくなっても俺を負かしてくるのか……」


 二人は笑い合う。


 こうしてフレイシアが笑えるのも少し時間が経ったからだ。

 演説が終わった当初は仕事に身に入らず気が付けば涙を零す日々を送っていた。


(本当にお姉様たちには感謝の言葉もありません)


 そのとき、扉が数回叩かれる。


「はい」

「イリーフィア。陛下、いい?」


 その声を聞いたグランフォルはピシッと笑顔が凍ってしまった。


「ちょ、ちょっと陛下。追い返してーー」

「どうぞ」


 フレイシアの声が聞こえるなりどんと扉が開き、グランフォルの首根っこに小さな手が伸びた。


 そして、一瞬にして姿が消え攫われてしまった。


 グランフォルの悲鳴が廊下に響くがフレイシアは笑みを浮かべる。


「しっかりと仕事するのですよ〜」


 イリーフィアは騎士団長にと推薦したが顔にはなれないと断られてしまい今は副団長の役目に就いている。


 では、肝心の騎士団長はというとイリーフィアとタナフォスの推薦によりクロークが殆ど無理やり据えられてしまったのだ。


 だが、責任感が強い人物で周りからの人望もいつの間にか厚くなっていた。

 ソナタも兄弟子として敬って懐いているようだ。


 誠心誠意働いてくれておりフレイシアも任命して良かったと満足している。


母様かあさま?」


 グランフォルたちが飛び出したせいか扉が開いておりそこからサフィーが顔を覗かせた。


 他でもないフレイシアが事前に呼んでいたのだ。


「来ましたか。どうぞこちらに」


 サフィーがとことこと歩いて椅子に座った。

 フレッドもサフィーに同行しておりその後ろに立つ。


 フレイシアも仕事机から移動してその対面に座った。


「それで母様、用って?」


 フレイシアは笑みを浮かべて地図を広げる。


「ここからここまで」


 デストリーネの所領の一部を指差す。

 だが、サフィーは意味が分からず首を傾げる。


 しかし、次のフレイシアの言葉でサフィーは目が飛び出すほど驚くことになる。


「ここをあなたの所領とします。今回の働き、見事でありました」

「え、えええええええええええ!!

「陛下! こ、これほどの領地。何かの間違いでは……」


 フレッドが身を乗り出して尋ねてくる。


「もちろん、今すぐにとは言えません。サフィーが成人ししっかりと引き継げるようになるまではフレッドが名代として治めてください」

「そういうことでは……」

「将来的にはサフィーには大公の地位も考えております」


 例外に例外が続きフレッドは驚き疲れて苦笑いを浮かべている。


「先の戦争でデストリーネの名のある貴族の殆どが戦死し我が国の現在は人材不足なのです。……自業自得ですが」

「母様? 最後聞き取れませんでした」

「え? あ、コホン! 信頼の置けるあなたたちだからこれほどの領地を任せられるのですよ。ここは我が国の主要都市の一つ。これからも存分に働いてヨソラとも仲良くしてください」

「もちろんよ!」


 そして、サフィーとフレッドはモラーレン家の復興を喜びながら退出した。


 それを笑顔で見届けフレイシアは再び机に戻り考える。


「味方してくれた各国にはそれなりのお礼をお返ししたいですが、特にフテイルには他と比類ないご恩があります。どうしたものか……」


 そして、残った危険についても考える。


「未だ、友好的でなく敵であるのはシュールミットとノムゲイル」


 戦うとなればその周辺の小国もその連合軍の味方にならざるを得ないだろう


「しかし、向こうも相当な痛手を負ってそうは動けないはず」


 フレイシアはそこでシュールミットの女王であるミーニアが頭に浮かぶ。

 友好を築き面と向かって会話をしてそれなりの性格や考え方は理解したつもりだ。


 だからこそ、断言できる。


(こんなことを起こすような人物ではありません)


 どのようなことが起こっているにしろ今は助けたい気持ちぐっと抑えて我慢するとき。


「今のうちにこの国感の関係を強固にしなければ……」


 これは数年単位の準備期間だ。


「どうすればいいでしょうか? デルフ……!?」


 フレイシアはごく自然に呟いた。

 声が返ってこないことで気が付いた。


「……駄目ですね。いつもデルフに頼り切りだったことが今更ながら理解できました。私に託してくれたのです。これからは私の役目」


 意気込んだフレイシアは取り敢えず思い付いた案を次々と出していく。


 その基軸となる考えはデルフが残した言葉だ。


「誰も手出しができず裏切ることもできない。一人の力では限界があります。一つにまとまる。絶対王」


 様々に思い出す単語を出していき後は一つに繋げていく。


 フレイシアの考えは纏まった。


「この世界ある数多の国がついに一つになるときが来ました」


 フレイシアは机に広げた地図の一カ所に指を差す。


 そこは世界の中心に位置するカルスト村であった。


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