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騒乱のデストリーネ  作者: 如月ゾナ
第18章 天人の衝突 [後編]
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第275話 舌戦

 

「その先、左です!」


 後ろのフレイシアの声に従い分かれ道が多い廊下を進んでいくナーシャ。

 王城の入り口の内装などは昔と比べて見違えるほどに変貌していたが根本の造り自体は変わっていなかった。


 そうと分かれば王城が自宅であったフレイシアからすれば迷う道理などない。


 しばらく走っていると目の先に巨大で厳重な扉が見えてきた。


 ナーシャはそれを蹴破り先頭を切って突入する。


 突入した場所は謁見の間だ

 その西扉からナーシャは突入した。


 待ち構えていた敵がいつ襲いかかってきても対応できるように既に刀は抜いている。

 だが、それは取り越し苦労に終わった。


 警戒して数秒経っても襲いかかってくる気配は一切なかった。


「……いない? 私たちが侵入することは既に知っているはずなのに?」


 ナーシャはこのデストリーネ王国に辿り着くまでに出会ったウェルムの分身を思い出す。

 しかし、攻撃が来ないのは事実だ。


 その事実に込めていた力を少しばかり抜くがここで油断をするのは愚の骨頂。

 警戒は怠らずに続けている。


「いないのならばそれに越したことはありません」


 ナーシャの後ろからフレイシアがゆっくりと歩き、その最中に身に纏っていた黒のローブを脱ぎ捨てる。


 中から出現したのは戦場では似合わないがこの王城では様になる純白のドレスだ。


 そして、フレイシアはナーシャの横に並んだ。


 フレイシアの視線は玉座に向くがそこにも誰もいなかった。


 だが、微かに感じる気配からこの場に目当ての人物がいることは確信できる。


 そして、フレイシアはその気配を辿り横に視線を逸らしていくと玉座の真逆の方向に王都を一望できるバルコニーがあった。


「!!」


 そこには王都を眺めているデストリーネ王国現王ジュラミールの姿があった。


 王に相応しい派手な衣装を身に纏っている。

 さらにはフレイシアが見違えるほど威厳を身につけていた。


「お兄様……」


 ジュラミールは横目でフレイシアの姿を捉える。


「……変わったな」


 フレイシアがこの場にいることに驚いた様子は見せず、すぐに視線を前に戻す。


「静かなものだ。今が決戦の最中だとは思えんな」


 王都には活気がなく人の出入りもない。

 人がいないわけではない。

 気配こそするが全ての民は自宅の中に引きこもっているのだ。


 恐らくジュラミールの“洗脳”によってそう行動を制限しているのだろう。


 静かな王都とは真逆に王城は激しい戦闘が繰り広げられているのか揺れていた。


「この王都が、あれほどのことまでしてお兄様が目指した姿ですか?」

「確かに綺麗事が好きなお前からすれば納得がいかないだろう。だが、事実を受け止めろ。これが見せかけの平和の本来の姿なのだ。……だがそれもこの決戦が終わるまでだ。ついに真の平和が実現する」


 ジュラミールは拳を握りしめて振り向いた。


「それでお前は何しに来た?」

「お兄様を止めに参りました」

「……止めに?」


 ジュラミールは眺めていた王都から視線を動かしゆっくりと玉座に向かって歩き始める。


 ナーシャはいつ向かってきても良いように警戒を強めるがジュラミールはそれを一笑に付した。


「安心しろ。まだ、手は出さん。フレイシア、止めにきたとは笑わしてくれる。お前は見せかけではない真の平和を望まないというのか?」


 ジュラミールはフレイシアの横を通り過ぎ真っ直ぐ玉座に向かう。


「質問に質問を返しますが、お兄様はこの先にあるのが本当に平和とお思いですか?」

「無論だ」


 一切の考慮がない即答だった。

 フレイシアは自身の内側に溢れる怒りをぐっと拳を握ることで抑えて言葉に変える。


「……お言葉ですがそこに民の心からの笑顔は少しでも存在しますか?」

「なに?」

「自分たち以外を信じようとせず、民たちの信用を魔法によってもたらし全ての国を滅ぼそうとしている。それで得た平和は、真の平和と言えるのですか?」

「全て、私とウェルムが統制し完全な一つの国となるのだ。そこでは争いどころか個人の犯罪すらなくなる。これを平和と言わずして何という?」

「民あってこその国です。民たちの行動どころか意志までも縛っているこの状況。今のこの静かな王都が物語っています! お兄様が目指している先は平和ではありません!」

「そんな考えでは良いように使われるだけだ。優しいだけの王に国を纏めることはできん。束の間の平和をもたらしたことで満足していた父と同じようにな!」

「あえてお兄様の求めているものが平和とするならばそれは空虚で中身がないですね」


 その言葉には冷静だったジュラミールも聞き捨てならないことだった。


「なんだと?」

「確かに争いはなくなるでしょう。民たちの意志を縛り、自分たちの思いのまま動かすのですから。そこに介在する意志はお兄様たちのみ。やっていることは子どもの人形遊びとなんら変わりません」


 ジュラミールは振り向き憎しみの視線を向けてくるがふとぐっと握った拳を目にして力を抜いた。


「今更のことだな。この衝突はあのときお前を消せなかったときから決まっていた。その思想を持つお前だからこそ父は王位を譲ろうとしたのだろう。私たちは相容れない存在なのだ」


 そして、玉座に辿り着いたジュラミールはその横に置いてあった剣を手に取った。

 鞘を放り捨て剣を抜く。


「お兄様……」

「私の事をもう兄と呼ぶな。お前からすれば父を殺し妹にまで手を掛けようとした敵だ。この決戦に勝利した者こそが王位を得ることができる」


 そう剣を向けるジュラミールにフレイシアは涙目になる。


「……私は、私は王位なんていらなかった。あなたが決起した日。私には何が正しく何が悪いか全く分からなかった。弱く脆い無知の私に王は務まらない。そう思っていました。ですが!」


 覚悟を決めた瞳でジュラミールを捉える。


「今ならはっきりと言えます。あなたは間違っていると!」

「もう言葉を並べる必要はない。理想を並べるだけで非力な者に王は務まらない! 反論があるならば武を持って証明して見せろ!」


 ジュラミールは地面を蹴った。

 人間離れした速度でフレイシアに向けて突き進んでくる


 フレイシアは身構えるがその前をナーシャが躍り出た。

 そして、二人の剣と刀が交差する。


「兄妹喧嘩をしているから口を出さなかったのだけど、口喧嘩じゃないなら介入させてもらうわよ」

「構わない。配下の力は主の力だ」


 そう軽い言葉を交わして二人は後ろに下がった。

 だが、下がったジュラミールの剣に衝撃が襲いかかる。


 一回、二回と続き合計五回の衝撃だ、


 ジュラミールはその衝撃をぐっと柄を握る拳に力を入れることで押さえ込む。


「これはギュライオン副団長の技……」


 ナーシャは刀をジュラミールに突きつける。


「私の名はナーシャ・ギュライオン・フテイル。現フテイル王よ」

「……フテイル王で副団長の力を持つか。色々と気になるが、一先ず厄介な存在ということは理解した。だが、厄介と有用は紙一重だと言うことを教えてやろう」


 ジュラミールは笑みを浮かべる。

 そして、片手の掌をナーシャに向けた。


 すると、その掌から紫の光が放たれたのだ。


「!!」


 ナーシャはその光が目に入った瞬間に飛び退こうとする。

 だが、反応が遅れてしまった。


「遅い!」

「きゃっ!」


 その光はナーシャの身体に直撃し包み込んでしまう。

 だが、倒れることなく着地したナーシャ。


 しかし、身体は蹌踉めき俯いている。


「まさか洗脳……」


 フレイシアは即座に看破する。


「流石に知っているか。そうだ、私が“真なる心臓(トゥルーハート)”を宿し得た力だ。……調略はありだろう? しかし、これは強制だが」


 虚ろな瞳のナーシャは振り向きフレイシアに向けて刀を構えた。


「ハッハッハ! 供を引き連れてきたのは間違いだったな!」


 この絶体絶命の状況にフレイシアは笑みを浮かべる。


「私が何の策も保たずに来たとお思いですか!」


 ナーシャが地面を蹴った瞬間にフレイシアは右手に魔力を集中させ白い靄が出現する。

 そして、それをナーシャに向けて放つ。


 操られているせいか単調な動きで向かってくるナーシャに当てることは容易なことだった。


 白の光がナーシャを包み込むとその瞳の色は元に戻った。


「あれ? 私、何を……あっ洗脳か」


 ナーシャも事前にジュラミールの力については頭に入れているためすぐに理解してくれた。


「そうですよ。お姉様。あれほど言ったじゃないですか。気をつけてくださいと!」

「仕方ないでしょ。洗脳ってことしか知らなかったんだから! まさかあんな物理的にくるとは思わないじゃない!」


 そのとき、再びナーシャの身体に紫の光が直撃した。


「“能力解除ケヒト”!」


 洗脳がかかった瞬間に再び解除する。


「ちょっと、私で遊ばないで欲しいのだけど……」


 頭を押さえて戸惑うナーシャにフレイシアはクスクスと笑う。


「ありがとうございます。お姉様、少し気が楽になりました」


 今までのナーシャの行動は先程から気を張り詰めて重苦しい雰囲気を漂わせていたフレイシアを気遣ってのことなのだろう。

 とフレイシアは解釈した。


(お姉様がこんなミスを犯すはずがないですからね)


 だが、当の本人であるナーシャは首を傾げていた。


「まさか紋章でも私の力を相殺できるとは。……仕方あるまい」


 ジュラミールが指を鳴らすとその両隣に鎧を身につけた騎士が出現した。


「……天兵クトゥルベン

「ただの天兵ではない」


 天兵の二人の鎧が弾け屈強な肉体が出現する。

 さらにその背後から無数の触手が伸びていた。


「強化型と放出型を混合した天兵だ。私の力作だ。あのウェルムでさえも型を複数備えたこの天兵を作れなかった」

「……天兵クトゥルベン天人クトゥルア。この存在こそがあなたたちの間違いの象徴なのです」

「お前にはこの素晴らしさが分からないだろう。別に理解しろとも言わん」


 フレイシアは欲しい答えと全くの見当違いの返答に苛つきを滲ませる。


「……それを作り出すまでにどれだけの民を犠牲にしましたか」

「力を得るための必要最低限の犠牲だ。少数を犠牲にして多数を取る。当然のことだ」

「ッッ……本当にお変わりになられたのですね」


 その言葉にジュラミールは笑って返す。


「お前の方こそ大分マシになったかと思えばまだまだ甘い考えだ。お前の語ることは夢物語。行く末は破滅にしかならん!」


 そして、ジュラミールは天兵の一人を突撃させる。


「今は何を言っても無駄なようですね……」


 ナーシャが向かってくる天兵を迎え撃つ。


「フレイシア! 私が前に行くわ」

「分かりました! 補助は任せてください!」


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