第265話 輝く魔道書
グランフォルが魔法を発動した瞬間、魔道書を中心とし輝きを放ち始めた。
側で倒れているフィルインとジュロングはその凄まじい輝きに目も開けていられなかった。
しかし、 カハミラはその輝きでも目を瞑ることなくグランフォルに視線を向けている。
「……何もせずに待つと思っているのですか?」
そのとき、カハミラは “大洪水”が発動し大球から凄まじい勢いで水が溢れだした。
範囲を決めることができるのか地面に水が溜まっていき既に足が浸っている。
「!?」
そのときカハミラは目を見開きほんの一瞬だけ動きを止める。
何故なら、グランフォルが自身の命に等しい輝く魔道書を二人の間に投げつけたのだ。
「何を……」
カハミラが口を開くと同時に魔道書の光量がさらに激増し言葉を呑み込んだ。
ついには周囲まで包み込み、グランフォルとカハミラは光の中に消えた。
しかし、それは本当の意味で消えたのだ。
「……いない?」
間もなく、放ち続けていた輝きは失われフィルインが目を開くと先程までいたはずのグランフォルとカハミラの姿が消えていたのだ。
気配が完全に失っていることから姿をかき消すほどの速度で戦っているという可能性もない。
何より、地面を濡らし嵩を増やし続け、いつかは一種の海となっていたであろう大量の水もグランフォルたちと共に消え去っていた。
「!! あれは……」
そこでフィルインは先程までほどではないがそれでも薄く輝く魔道書が残っていたことに気が付いた。
魔道書はただ輝いているだけでなくパラパラと自動的にページが捲れ続けている。
魔道書も不思議に思ったがそれよりもフィルインはグランフォルの姿を探し続ける。
「兄上は一体どこに……あの魔術師も……」
「陛下、一先ずお下がりを。もはや、我らに出る幕はございません。それにここは危険です!」
「そうはいかない! 恐らく今も私たちが知らないところで兄上は戦い続けている。何があろうと兄上が戻るまで私はこの場に残り続けるつもりだ!」
フィルインの固い意志を感じ取ったジュロングはしばらくして自分も決心し頷いた。
「分かりました。陛下の御身が危険に晒されたそのときこそ今度はこのジュロングが陛下の盾となりましょう!」
フィルインは自分の盾となって命を落としたデンバロクを頭に浮かべる。
本音を言えばもう配下が自分の盾となって死ぬのはフィルインも許容したくはない。
しかし、それを言葉でジュロングに伝えるのは王がする行為ではない。
配下が主を守るために命を賭けることが役割だとするとその主は生きて国を滅ぼさないことが役割だ。
そんな配下へ向ける言葉を考えフィルインは一言だけ告げる。
「……頼んだぞ!」
「ハッ!」
そして、フィルインは巻き添えで命を落とすことだけは避けようと取り敢えず何が起きるか予想もできない魔道書から距離を置く。
その後は未だにパラパラと捲れていく魔道書を注視し続ける。
「……兄上」
グランフォルの無事を願いながらも何もできない自分に歯噛みするフィルイン。
そう思ったのも束の間、再び魔道書が強烈な光を放ち始めた。
「!?」
目も開けていられない輝きにフィルインたちは反射的に目を閉じてしまう。
その輝きはそう時間が経たないうちに弱まり、目を開けるとカハミラとグランフォルの姿が戻っていた。
だが、しかしフィルインの表情は生きていたという喜びではなく身を案じる心配だった。
「兄上!!」
そう叫びながらフィルインの身体は勝手に動く。
フィルインは見た光景。
それは息を切らしながらも立つカハミラ。
そして、地に伏せているグランフォルの姿だった。




