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騒乱のデストリーネ  作者: 如月ゾナ
第17章 天人の衝突 [中編]
255/304

第255話 真聖剣

 

 始まった戦闘は序盤から苛烈さを帯びていた。


 ジャンハイブが前衛で斬り掛り、イリーフィアはその後ろから隙を見て矢を放つ。


 ヨソラは念動力で握り潰そうとするがすぐに“騎士王の威光”によって打ち消されてしまう。


「ふっ。弱いな。弱すぎる。これだけ攻撃してこの鱗を砕くことができないとは。クロサイアさんなら軽く振るだけで鱗ごと俺の骨を砕いてくるぞ!」

「くっ……」

「だけど、攻撃しないと、糸口は見つからない!」


 イリーフィアは絶え間なく光の矢を放ち続ける。


 そんな激闘の中、ただ見ていることしかできていない者がいた。


(……やっぱり私は見ているだけしか、できていない)


 ヨソラにこの事を言えば十分に力になっていると励ましてくれるだろうがそんなはずはないと自分自身が一番理解している。


 こうして、目の前で繰り広げられている戦いも目で追うことすらできていない。


 ジャンハイブが斬り掛ったと思えば弾き飛ばされ、その後ろから光の矢がクライシスに向かっている。

 それを躱したと思えばヨソラのすぐ前に移動して剣を振ろうとしていた。


 ヨソラは自分自身を魔眼で動かして素早くサフィーごと後ろに躱す。


 その去り際に押し潰そうと念動力を向けるがパリンと音を立てて相殺された。


 そして、持ち直したジャンハイブが再び斬り掛る。


 この繰り返しを続けているがサフィーが見えているのはジャンハイブが斬り掛ったところぐらいだ。

 見ているといつの間にか宙に浮いて後ろに下がっている状況に疑問しか感じていない。


 何かできないかと考えても何も思い浮かばない。

 そもそも、何かしようとすればヨソラたちの邪魔になってしまうだろう。


 この場で一番場違いな存在ではないかと己の中に滲む悔しさから歯軋りしてしまう。


(やっぱり私は何もできないの……?)


 そうサフィーが考える最中に再びジャンハイブが聖剣でクライシスを滅多打ちにする。


 片腕しか使えないため隙は大きいが割り切って全力で振っているためその威力は侮ることはできない。


 クライシスは剣で受け止めていくが剣から伝わる衝撃で手が痺れたのか顔を顰めた。


「ちっ、なんて威力だ……」

「!!」


 その僅かな隙を見逃さずジャンハイブは身体に剣撃を浴びせる。

 さらにイリーフィアがジャンハイブの後ろから光の矢を放ち徐々に鱗を削っていく。


 先程と同じような攻撃に見えるが確実にクライシスの鱗の鎧を削りつつあった。


 だが、クライシスも騎士王としての剣術に加え竜人としての力を駆使して反撃してくる。


 何とか躱していくが徐々に細かい傷が増えつつあった。


 戦況としては殆ど互角。


 確実に鱗を削るために同じ箇所にイリーフィアは細かく移動しながら弓を放つ。

 それに意識が向けば一瞬で距離を詰めて聖剣を振ってくる。


 共闘は初めてのはずなのだが見事な連携だった。


「ちょこまかと! いい加減止まれ!」


 そう不機嫌な声を出してクライシスは“騎士王の威光”を発動する。


 ジャンハイブとイリーフィアは立つことが困難になるほど自分の身体にかかる重力が増大した。


 立ち止まって隙だらけとなった二人にクライシスは襲いかかろうとするがその動きをすぐに止める。


 止まったのも束の間、ジャンハイブたちの拘束は解かれ距離を取ったためだ。


 クライシスは横目でヨソラを睨み付けた。


「“真なる心臓(トゥルーハート)”で作られたって言っても天人クトゥルアは天人か。やりにくいな!」


 互角の戦いを演じ続けてきたが、止まることのない激闘にお互い体力の限界が近づいてきた。


「はぁはぁ……埒があかないな。イリーフィア殿」

「?」


 イリーフィアは手を止めずに視線を向ける。


「このまま続けていても恐らく俺たちが倒れるのが先だ」


 ジャンハイブの視線はサフィーに肩を借りているヨソラに向いている。


 ヨソラの様子はかなり疲弊しており頬には無数の黒い線がついていた。

 もはや黒に染まっていたと言っても過言ではない。


 その線は顎まで続いておりそこから雫がポタポタと地面に滴って黒い水溜まりを作っていた。


 それでもヨソラは力を緩めていない。

 限界を超えても尚、力を使い続けているのだ。


「俺たちは彼女のおかげで互角を演じている」


 確かにヨソラがいなければ“騎士王の威光”を対処する手段がなくなってしまう。

 もはや、ヨソラはジャンハイブたちにとって生命線だ。


「彼女が倒れれば終わりだ。そして、あの様子からそんなに時間はないだろう」


 その言葉にイリーフィアも頷いて首肯する。


「俺は最後の一撃を放つ。だが、悔しい話、それであいつが倒れるとは思えない。止めは任せて良いか?」


 問われてイリーフィアの視線はジャンハイブが握っている聖剣に向いていた。

 そして、その聖剣に指を差す。


「その剣、借りる」

「!! ふっ、丁寧に扱ってくれよ」


 そして、ジャンハイブは聖剣を構えてクライシスにその切っ先を向ける。


「うおおおおおお!!」

「!? ……なんだ」


 ジャンハイブは自身に残る全ての魔力を放出し聖剣に注ぎ込む。


 立ち昇る程の魔力の渦を聖剣は吸い取って唸り声のような音を立て始める。


 やがてジャンハイブが放出した魔力を全て吸い込み終えた聖剣に亀裂が走り、割れて砕け散ってしまった。


 いや、違う。


 砕け落ちたのは色褪せた金属だけだ。


 ジャンハイブは変わらずその柄を持ち続けていた。


 そして、柄の先には磨き上げられたような光沢を放つ鋭利な新たな刃が顔を見せている。


 鍔には複数の宝石がはめ込まれておりそのどれもが強大な魔力が宿っている。


 こうして今までの聖剣とは似ても似つかぬ大剣が姿を現した。


「これがファフニールの本当の姿。“真聖剣しんせいけんファフニール”」


 今までの聖剣の姿は殻に籠もった姿。


 英雄と呼ばれるジャンハイブの全魔力を持ってしてようやくその殻を破ることができたのだ。


 それにただ魔力を込めればいいという話ではない。

 聖剣に認められなければ巨大な魔力を込めてもその姿は現すことはない。


 長年、共に戦い続けてこそようやく顔を見せるのだ。


「とはいえ俺もつい最近やっとのことでここまで至れたのだがな」


 ギチギチと暴走寸前の聖剣を強く握ることでジャンハイブは抑える。


 それでも揺れ動く剣先を何とかクライシスに向けた。


「凄まじい力だ。見ろ。俺が恐怖を感じている」


 クライシスは震える手を見せてくる。

 だが、その表情から余裕が一切消えていない。


 クライシスは看破しているのだ。

 その核心を突く一言をジャンハイブに突きつけてくる。


「で、お前にそれを扱えるのか?」


 ジャンハイブは心の中で苦笑いを浮かべるが表に見せているのは作り笑いだ。

 そして、自信満々に答える。


「無論だ」


 そして、ジャンハイブは駆けだした。


「なっ!?」


 クライシスが素っ頓狂な声をあげるのはジャンハイブが一瞬にして目の前まで移動したからだ。


 これも聖剣の力で身体能力を一気に向上させているからこそクライシスの目では捉えきれない程の速度を出すことができている。


 しかし、真聖剣から無理やり増強された力による身体の負担は凄まじくジャンハイブの顔は激痛で歪んでいた。


 それでも渾身の一撃を放つぐらいの余裕はある。


「“英雄破断えいゆうはだん”!!」


 風圧の轟音と共に振り下ろされた聖剣は一直線にクライシスに向かっていく。


「やっぱり、その剣、振るだけで精一杯のようだな!」


 クライシスは左手で持った自身の剣でそれを受け止めた。


「!?」


 ジャンハイブは剣を振った後、視線を地面に向けていたが思わず顔を上げた。

 その顔は驚きに染まっている。


 もちろん、大振りであるこの一撃を防がれることは予想の範疇だ。


 しかし、ジャンハイブはその受け止めた剣ごと引き裂こうと考えていたのだ。


 こうして完全に受け止められるのは完全に予想外。


「生憎、この剣も俺と同じ硬さ自慢なんだ。俺の剣の方が一枚上手だったというわけだ」


 ジャンハイブの身体の力が抜けていく。

 今の一撃で全ての力を使い果たしたのだ。


 もはや、ジャンハイブが行えることはただ倒れるのみ。

 憔悴しきった様子で倒れ始めるジャンハイブ。


 だが、閉じかけた目を大きく見開き、一歩、大きく踏み込んだ。


「そう言えばお前には借りがあったな。それだけは返させて貰う!!」


 ジャンハイブは聖剣の刃を上に向けて大きく振り上げようとする。

 正真正銘、最後のとても剣技とは思えない出鱈目の振り上げだ。


 そんな攻撃でも隙を突ければ必中するだろう。


 だが、それもクライシスは予測済みだった。


「ふっ、お前たちはしぶといからな。この程度、してくると思ったぜ! ……?」


 後ろに飛び退こうとしたクライシスだが身体が動かずにその場に止まってしまう。


「なっ……ハッ! サード!!」


 クライシスはヨソラに目を向けて大きく怒鳴る。


 ヨソラはクライシスがジャンハイブに気を取られている隙を見逃さずに魔眼でその動きを阻んだのだ。


 クライシスはすぐさま“騎士王の威光”で相殺して改めて飛び退こうとする。

 だが、その一瞬の隙が戦場では数時間に匹敵する。


 そして、ジャンハイブの真聖剣が大きく天にかざされた


 黒血と共に絶え間なく鱗に覆われた左腕が持っていた剣と共に跳ね飛んだ。


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