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騒乱のデストリーネ  作者: 如月ゾナ
第17章 天人の衝突 [中編]
253/304

第253話 離脱後

 

 曇り模様の空を豪速で突き抜けていく二つの影があった。


「はぁはぁ……もう、だめ……」


 激しい息切れと共に漏れ出る声に合わせてその速度も徐々に減速していく。


 急落下こそしなかったもののいつ落ちてもおかしくないほどゆらゆらと不安定に揺れ動き斜め下に下がる。


 そして、黒に染まった魔眼を持つ少女ヨソラ・カルストはようやく地上に降り立った。


 彼女の一番の友人であるサフィー・モラーレンを浮かせていた力を思わず抜いてしまう。


 それほど高くはなかったが急に地面に落下し尻をぶつけたサフィーの口から「いたっ!」と漏れた。


 サフィーは文句を言おうとヨソラに不機嫌な顔を向けるがその様子を見て開きかけた口を結び直す。


 右目の魔眼から黒い涙が頬に垂れているヨソラの姿が目に入ったからだ。


「サフィー、ごめん。すこし、きゅうけい」

「え、ええ。分かったわ。」


 ヨソラが力を抜くと浮き上がっていた髪は右目を覆い隠す。

 肩で息をしており必死に息を整えようとしている。


 そんなヨソラをサフィーはしつつも視線を来た道に戻してポツリと呟く。


「……フレッドは大丈夫かしら」

「フレッド、つよい。サフィーが、ぶじ。だいじょうぶ」


 ヨソラは励ましてくれるがそれでもサフィーの心配は収まらない。


「ね、ねぇ。もう戻らない? どうせフレッドならもう勝っているわよ」

「だめ」

「なんでよ!」


 フテイル本陣から数分飛び続けてこの場まで到達したがヨソラが全力を出して魔眼の力を引き出したためかなりの距離が離れている。


 歩いて帰るには子どもの足では日を跨いでしまう程の距離だ。


 もう一度その距離を渡る力が戻るまで時間がかかると言うのもあるが、そもそも戻るという選択肢がヨソラにはない。


「フレッドからたのまれた。もどるのはフレッドをこまらせるだけ」

「うっ……。そ、そうね。私もフレッドのお荷物にはなりたくないわ」


 頑固なサフィーもフレッドを出されると強くは言えずに頷いた。


 だが、ヨソラとしては密かに安堵していた。


 ここで駄々をこねられれば気の遠くなるほどの時間を説得に回さなければならないからだ。

 その心労を思うだけでげんなりしてしまう。


 しかし、そこで止まらないのがサフィーだ。


「だけど、このままジッとしているのもなんか私らしくないわね」


 何やら不穏な言葉がヨソラを通過する。


 ヨソラは知っている。


 サフィーが何かを考えるとき、十中八九良からぬことを思い付くことを。


 ヨソラは何か言われる前に先手を打つ。


「サフィー、ヨソラたちがいってもーー」


 だが、すぐにサフィーの声が強引に遮ってしまう。


「逃げてばかりじゃここまで来た意味がないでしょ! ふふ、一泡ぐらい吹かせてやるわ!」


 こうなったサフィーを止めることは殆ど不可能に近い。


 それでもヨソラはフレッドとのサフィーを守るという大切な約束を完遂するために止めようと試みる。


 だが、そのヨソラの行動の前に騒音や衝撃がヨソラたちの前を通り過ぎていった。


「なに?」


 よくよく耳を澄ませてみると剣戟や爆発などの戦闘音が微かにだが響いてきている。


 どうやらこの場は戦場に近い、と辿り着いたときには遅かった。


 サフィーは自信満々の笑みを浮かべていたのだ。


「行くわよ!」

「まって!」


 ヨソラは疲弊した身体を無理やり動かし意気揚々に向かおうとするサフィーの腕を掴む。


「きけん。サフィー、あぶない!」


 表情は一切変えていないがその言葉には力が宿っている。


 サフィーはヨソラの意志の強い瞳を見て顔を逸らすと少し迷いが見えた。

 しかし、その迷いは数秒もしないうちに再び固まってしまう。


「危なくても行くのよ!」


 そこでサフィーの様子がおかしいことにヨソラは気が付く。


(サフィー、あせってる?)


 サフィーの様子から余裕が全く感じられなかったのだ。


 すると、サフィーはまるで念じるようにブツブツと独り言を始めた。


 そして、今まで心の内に秘めていた本音が暴発する。


「私は何もできていない。フレッドの役に立とうとしたけど見ているだけで何もできなかった。もう見ているだけなんて嫌なのよ!」


 口しか大きな事を言えていないのはサフィー自身が一番よく理解している。


 それでもネガティブな発言するよりはよっぽどマシだと自分に言い聞かせてきたのだ。


 しかし、今となっては自分をそうやって自分を騙すことすらできなくなっていた。

 ただ焦りしか生まない。


 周囲にはフレイシアの貢献をするものばかりの中、サフィーだけが何もできていないのだ。


 その焦りで功を急ごうとするのも当然と言える。


「……私も何かできるとは言わないわ。だけど、何か行動をしないと絶対に後悔する」


 ヨソラの子どもの頭ではサフィーの脳内を正確に読み解くことはできなかった。


 しかし、それでもサフィーが重要な決断を下しての言葉というのは何となく理解できた。


(サフィー、もう、止まらない)


 ヨソラが付いて行かなくてもサフィーは一人でも向かうだろう。


 それはヨソラにとって決して容認できない。


「わかった」


 ヨソラは頷く。

 だが、サフィーが嬉しそうに笑みを浮かべるの前に一つ釘を刺しておく。


「サフィー、ヨソラのうしろ。やくそく」

「そんな……」


 サフィーは反射的に突っぱねようとするが途中で言葉を止めた。


 一回ふぅーと息を吐き、迷いのない笑みを見せて本心からの言葉を言い直す。


「分かった。そうするわ」


 ヨソラは頷きサフィー右手を引いて歩き始める。


 その堂々とした後ろ姿を見てサフィーは微笑んだ。


「ヨソラ、ありがとう」


 そのお礼の言葉はどうすればサフィーを守れるのかを深く考えて上の空であったヨソラの耳には入らなかった。


 しかし、何か言っていることが分かりヨソラはサフィーに目を向ける。


「なにか、いった?」


 すると、サフィーは顔を赤らめてヨソラの前に出る。


「な、何もないわ。さぁ、行きましょ。私たちが行く前に終わったら味気ないわ!」


 いつもの調子に戻ったサフィーをじーっとヨソラは立ち止まり見続ける。


「やっぱり、サフィーに、よわきはにあわない」

「ヨソラ、何してるの! 置いていくわよ!」

「いま、いく」


 ヨソラは小走りでサフィーの後を追い、二人は西方戦場にへと向かっていく。


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