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騒乱のデストリーネ  作者: 如月ゾナ
第17章 天人の衝突 [中編]
251/304

第251話 龍人

 

 大連合対デストリーネ王国の最終決戦、その西方戦場。


 依然としてボワールと五番隊の連合がデストリーネの砦に攻め寄せていた。


 デストリーネにとってこの砦は守りの要として機能している。

 だが、こちらの手に入れば逆にデストリーネ本国を攻める足掛かりとなる拠点に変貌する。


 つまり、この砦を落とせばかなりの有利を得ることができるどころか大局的に殆ど勝利と言っても過言ではない。


 現在、相手は籠城の構えを見せており味方は様々な手を使って攻め寄せている。

 だが、戦況は大して変わっていない。


 均衡したせめぎ合いが続いている。


 兵力差にそれほど開きはないが籠城戦で不利であるのは攻め手だ。

 そんな大連合勢が互角の戦いを演じているのも指揮官が優秀であるが故だろう。


 しかし、それだけが理由ではない。


 少し離れたところで英雄王ジャンハイブ、五番隊隊長イリーフィアの働きが何より大きかった。


 天騎十聖の一人である“騎士王”クライシスを食い止めているのだ。


 天騎十聖は数の暴力で押し潰すことはできない。

 野放しにすれば一瞬にして兵たちは戦いにもならずに蹂躙されてしまうだろう。


 だからこそ、天騎十聖には名だたる実力者をぶつける必要がある。


 だが、その戦況は芳しくなかった。


「はぁはぁ……」


 戦っているはずのジャンハイブとイリーフィアは敵を前にして息を切らして膝をついていた。


「もう終わりか?」


 そんなクライシスの笑いが混じった声が聞こえてくる。


 ゆっくりと歩いてきたクライシスの姿は異様なものに変貌していた。


 顔にはある程度の鱗が覆われており頭には二本の角が生えている。


 鎧で身体を包んでいるが、もちろんその身体には無数の鱗が覆っている。

 さらに、背には折り畳まれた翼、腰からは目立つ太い尾が伸びていた。


 これが、クライシスが与えられた能力である“竜化バハムート”。

 その派生の力である龍と人の姿が混ざった“竜人ドラゴニュート”だ。


 ジャンハイブたちと壮絶な争いを繰り広げていたはずなのだがその身に一切の傷がない。


「ちっ、嘗めやがって」


 舌打ちをしてジャンハイブは右手で聖剣ファフニールを握りクライシスに斬り掛る。


 だが、大きく振り下ろされた聖剣は鱗を纏った腕で簡単に受け止められてしまった。


「これが、お前が持っていた紋章に込められた能力本来の力だ。ただの鱗を生やすだけじゃない」

「なるほどな。いざ、前にしてみると確かに厄介だ」


 ジャンハイブは防がれた聖剣を素早く動かしてようやくクライシスの虚を取った。


 横に薙いだ聖剣は見事にクライシスの横腹に直撃する。

 その衝撃で鎧は砕け散った。


 しかし、肝心の刃はクライシスの身体に触れるなり完全に勢いが止まってしまいそれ以上先には進まなかった。


「硬いな……」


 顔を顰めて後ろに下がるジャンハイブ。


 そんな中、高速で移動をしてクライシスの背後を回ったイリーフィアが光の矢を作り出し長弓で放つ。


 矢はクライシスの背に残った鎧を貫通して直撃する。

 だが、全く気にも留めていない。


 これが歴戦の猛者である二人が苦戦している理由だ。


 ジャンハイブの力やイリーフィアの光の矢は鎧を砕き貫くほどの威力を持っている。


 普通に考えて威力不足ではないことは明らか。

 そんな威力を持ってしても砕くことができない鱗の方が異常なのだ。


 二人が膝をついていた理由は負傷ではなく殆どが疲労によるもの。


 実力だけならば二人がかりであるはずのジャンハイブとイリーフィアが勝っている。


 しかし、何度も攻撃が直撃しているはずなのだがその全ての攻撃がクライシスに通らなかった。


 たとえ、身体捌きの差や攻撃の当てた回数が多くてもダメージにならなければ意味がない。


 クライシスも腰に差していた剣を抜きジャンハイブと斬り合いを始める。


 ジャンハイブは片腕を失っているため聖剣を右手で握っている。


 常人ならばその大剣を片手で扱うことができない程の大きさと重量だ。

 しかし、ジャンハイブはまるで普通の剣のように防御を考えずに全力を用いて滅多打ちを始めた。


 だが、すぐに自分の過ちに気が付く。


(やばい!!)


 しかし、その素早い聖剣の動きにクライシスは剣で防ぎきれずに鱗を纏った腕をも盾として防ぎ始めた。


(!! まさか……)


 ジャンハイブはそれを見てまだ勝機がいつか訪れると即座に判断した。


(奴はまだ力に慣れきっていない)


 全ての攻撃を防ぐ鱗を持っているにもかかわらず剣などで防御する意味などない。


 もしクライシスの立場であるならばジャンハイブは防御は全て鱗に任せて攻撃に集中する。


 とはいえ、それは生まれながら紋章を持っていたジャンハイブであるからこそ躊躇なく行えていた。


 一撃を受ければ致命傷であった者にとって咄嗟に躱したり防御することは身に染みているはず。

 それは一朝一夕で抜けるものではない。


 クライシスは頭では分かっているが攻撃に反射的に反応している。


 逆にジャンハイブは防御をあまり考えない力任せの攻撃が主体となっている。


 こうならばどっちもどっちで妙な均衡が生まれていた。


 そして、ジャンハイブの聖剣がクライシスの剣や腕の防御の僅かな隙間を掻い潜り胴体に直撃した。


 だが、やはり刃が通らずに弾かれてしまう。


「すげぇな。剣の腕で俺が押されるなんてな。この能力がなければとっくにやられていたな」


 素直にジャンハイブを称賛するクライシス。


 だが、全く攻撃が意味をなしていない現状だとただの皮肉にしか聞こえない。


「まぁ、これが天人と人間の明確な差だ。昔は騎士王と名乗っていたがそんなプライドは捨てよう。ここからは能力主体の蹂躙だ!」


 そう言って大きく息を吸い込み肺を膨らませる。

 さらに、頬が大きく膨らむや一気に吐き出された。


「“竜の息吹(ブレイズブレス)”」


 クライシスの口から燃え盛る炎が吐き出されたのだ。


「なっ……」


 ジャンハイブの目の前が急に真っ赤に染まる。


 頭に危険という文字が浮かび上がり反射的に仰け反る。

 それが幸いして何とか寸前で躱すことに成功した。


 だが、僅かに髪が焼かれてしまい微かに焦げてしまう。


「ちっ! お返しだ!」


 ジャンハイブは距離を取るついでにクライシスの脛に蹴りを入れる。


「ッ!」


 だが、あまりの硬さにダメージを受けたのはむしろジャンハイブの方だった。


 怯み距離を取り損ねたジャンハイブにクライシスは蹴りを放ち思いきり吹っ飛ばす。


 そんなジャンハイブとクライシスの戦闘の隙に狙いが定めやすい場所に移動したイリーフィア。


 長弓を構えて光の矢を引く。


 一見すると鱗を隈無く纏っているように見えるが鱗と鱗の間に僅かな隙間がある部分もある。


 その部分をしっかりと見極めてイリーフィアは光の矢を放った。


 放った瞬間、一本の矢は枝分かれするように五本になってそれぞれが鱗が薄い箇所、つまり急所に向かっていく。


 横目を動かしてそれに気が付いたクライシスは慌てることなくその場で片手を突き出して掌を伸ばす。


「“騎士王きしおう威光いこう”」


 クライシスの周囲から覇気が飛び出して光の矢はクライシスに触れる間もなく跳ね飛ばされてしまった。


「……相性悪い」


 ぽかーんと口を開けて見詰めていたイリーフィアは一言、不機嫌に呟いた。


 “騎士王の威光”はクライシスの覇気に魔力を乗せることで質量を宿した魔法だ。


 重さは込めた魔力量に比例し向きも自在に操ることが可能だ。


 厳密には異なるが重力を操作しているという認識で問題はない。


 クライシスは剣を構えて“騎士王の威光”を自身の背中を押すように向ける。

 すると、急加速し瞬く間にジャンハイブに向かっていった。


 ジャンハイブは即座に地面に落としていた聖剣を握りしめ振り下ろされた剣を受け止めた。


 どーんと強烈な衝撃が周囲を駆け抜ける。


 武器の大きさ自体はクライシスの平均的な剣よりジャンハイブの聖剣の方が圧倒的に大きい。


 普通ならばクライシスの剣はへし折れてもおかしくはない。


 なぜ、折れないのか。

 その理由は一つ。


「俺のファフニールを受けてもビクともしないとは、その剣、魔法剣だな」

「といっても頑丈にしただけだけどな」


 その話している間もジャンハイブは力を入れ続けるが鍔迫り合いは均衡していた。


 もう片手があれば押し返して何発も浴びせることができているだろうが無い物を強請ねだっても仕方がない。


 そのとき、クライシスの口の端が吊り上がった。


(まずっ……)


 ジャンハイブは再び炎を吐かれるのではないかと身構える。


 しかし、違った。


 笑みを浮かべたと同時にクライシスの剣の力が増したのだ。

 いや、真下と言うよりも重くなったと言ったほうが正しいだろう。


「くっ……」


 身構える僅かな隙を突かれたのもあるがそのクライシスの力は片手で支えるには重すぎた。


 そして、ついにジャンハイブの膝が落ちてしまった。


 聖剣に込められた力も命を奪われない必要最低限しか込められていない。


 透かさずクライシスは右足を浮かしてジャンハイブの腹部に蹴りを入れた。


「ぐぁ!!」


 呻き声が漏れジャンハイブは言葉にできないほどの痛みに悶えてしまう。


「終わりだ」


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