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騒乱のデストリーネ  作者: 如月ゾナ
第17章 天人の衝突 [中編]
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第240話 隠れた大爆発

 

「うーん。このままだと勝てないな」


 顔を膨らませて考える仕草をするグローテ。

 そして、何か閃いたらしく顔が明るくなった。


「そうだ。何も形にこだわる必要なんてないんだ」


 そうグローテが呟くと同時に背中から紫の翼が生えた。


「いや、違う……血?」


 その推測は正しく背中から噴き出した血が翼を形作っていたのだ。


 ウェルムの理解が追いつく前に上空に飛び上がった。


「……動きが本当に出鱈目だね」


 そして、ある程度の高さで滞空したグローテの腰から無数の血で作られた棘が飛び出してウェルムに放たれる。


 ウェルムは後ろに飛ぶことによって寸前で躱しその棘は地面に刺さっていく。

 躱しながらグローテに向けて自分の側を漂っている剣を飛ばす。


 だが、ウェルムは飛ばした後に気が付いた。

 飛ばした先には既にグローテの姿がなかったことに。


「どこに……!!」


 ウェルムは直感で自分の懐に目を向けた。

 そこには腰から飛び出た血の棘を漂わせているグローテの姿があった。


「避けられる?」


 グローテの嘲笑の声と共に右の手刀が突き出された。


 その手刀をウェルムは左手で掴み取る。


「!?」

「嘗めないことだね。いくら速いとはいえデルフほどじゃない」


 だが、グローテの口元に笑みが浮かぶ。


 そのときグローテの手を掴み取ったウェルムの左手から小さな紫の棘が突き出たのだ。


「この程度、何の問題もないよ」

「うん、これはもう逃げないように足止めしただけ」


 そう言うとウェルムの左手から突き出た棘はまるで固定するかのように折れ曲がった。


 そして、グローテはウェルムを固定した右手を思いきり上に振る。

 同時にウェルムの足が地面から離れグローテの目の前に無防備な姿を晒した。


「しまった!?」


 グローテは左拳を握りしめる。

 ウェルムも飛ばした剣を操作する。


 そして、グローテの左拳がウェルムの腹に突き刺さる。


「がっ……ごほっ!!」


 ペキペキとウェルムの腹部から骨が折れていく音が響く。

 口からは黒血が溢れるほど漏れ出ている。


 グローテは涙を零しながら満面の笑みを浮かべる。

 だが、わけも分からずすぐに顰めてしまった。


「?」


 自分の足下の地面には一本の剣が突き刺さっている。


 そうなると疑問が一つ、一体どこからその剣は地面に突き刺さったのか。


 それはすぐに激痛となって身体が知らせてくれた。


「ッ!」


 グローテは自分の身体の激痛が走る箇所に手を触れる。

 そこは自分の腹部だ。


 触れた瞬間、ぬめっとした感触を感じるともにそこには丁度その剣の刀身ぐらいの傷口があった。


「貫通して……」


 驚きこそしたが次にグローテの口から漏れたのは笑みだった。


「ふふ、だけどこの程度でしかない」


 グローテは傷口から流れ出る血を固めることでその傷を塞いでいく。


 だが、そのとき再び上空から飛んできた剣がグローテの背に突き刺さった。


「ぐっ……アハハ。やっぱすごいね」


 刺さった衝撃でグローテは蹌踉めいてしまう。


 その際にグローテの力が抜け固定されていたウェルムの左手が解放されてしまった。


 地面に倒れるウェルムは咳き込み血を地面に吐き出していく。


「はぁはぁ……まさかここまでやるなんてね。……もう少しは魔力を残しておけば良かったと心底後悔しているよ」


 グローテは身体に流れる血の勢いで刺さった剣を抜き地面に落とす。


 ウェルムも立ち上がり剣を自分の側まで移動させる。


 疲弊しきった両者はしばらく睨み合いを続けていたがついに地面を蹴った。


 その後、グローテの紫血による無数の様々な攻撃をウェルムは防ぎ反撃するといった攻防が続いた。

 だが、お互いに全力を出した攻防はそう長くは続かない。


 ウェルムは飛んでくる棘を余裕を持って躱す。

 そして、飛ばしている剣を動かそうとしたとき気が付いた。


「操作が効かない!? はっ!」


 ウェルムが目を向けるとグローテの両手には飛ばしていた二本の剣が握りしめられていた。


「ウオオオオ!」


 グローテは挟み込むように左右から剣をウェルムの胴体に振り下ろした。


 ウェルムは後ろに下がろうとする。


「アハハ! もう逃がさない!」


 地面を蹴ったはずなのだが全く距離が開かずにまたその場に着地をしてしまった。


「何が……」


 右足を引っ張られるような感覚を感じて目を向けるとグローテから伸びた血が巻き付いておりその動きを阻んでいたのだ。


「アハハハハハ。終わり!!」


 ならばと剣で防ごうとするがそれも血の鞭ではたき落とされてしまった。

 もはや、ウェルムにこの攻撃を防ぐ手立てはない。


「ちっ……」


 ウェルムは最後の抵抗に軽く手を振って魔力を飛ばした。

 その魔力はグローテの胴体に衝突するなり魔方陣を浮かび上がらせる。


「道連れだ!」


 そして、拳を強く握る。


 すると、グローテの身体、いや魔方陣が光り始め大爆発を起こした。

 しかし、その爆炎の中からグローテの笑い声が聞こえてくる。


「アハハハ。痛い痛い。やっぱり強い。怖い。だけど、逃げない!」


 煙が消えるとそこから口元から紫の血が垂れ笑顔のグローテが浮かび上がる。


 直撃を受けた腹部は酷く焼けただれているはずなのだが揺れることのない狂気染みた瞳でウェルムを見詰め続けていた。


 そして、ウェルムの視界がずれた。


「?」


 ウェルム自身も最初はわけが分からなかったがすぐに理解する。


「直撃したのにそのまま剣を振るなんて。ちょっと君を怖く感じるよ」


 ウェルムの身体はグローテが振った剣で真っ二つになって上半身が宙に打ち上がっていたのだ。


「うん、見事だよ。成功作だからこれぐらいして貰わないと」

「これで終わり!」


 グローテは地面を蹴って両手に持ったウェルムの剣を素早く何度も振る。


 為す術なくウェルムの身体は刻まれていく。


「でもここの戦争は勝たせて貰うからね。まぁ、後は頑張りなよ」


 そう言ってウェルムの身体は細切れになって地面に落ちてしまった。


 地面に落ちたウェルムの肉片はそう時間が経たないうちに光となって消失した。


「はぁはぁ……勝った?」


 善戦を演じていたがまさか勝てるとは思っていなかったグローテに疑問が浮かぶ。

 いくら分身とは言え相手は敵の首魁であるウェルム・フーズムだ。


 もう少し時間が経てばグローテの変則的な攻撃も見破られてしまっていただろう。


 ならば、なぜ勝てたのかとグローテは考える。

 ここで勝利の余韻に浸ることもできたが何やら嫌な予感がして考えずにはいられなかった。


 そして、あることに気が付く。


「……魔法をそんなに使っていなかった?」


 ウェルムが使っていたのは飛繰剣やその他の簡易的な魔法ばかりだ。

 事前情報にあった大規模な魔法は一切使っていない。


 単純にグローテが邪魔をしていたから使えなかったと考えるのは簡単だ。

 だが、もしその理由ではなかった場合だと何なのか。


 そのとき、グローテはウェルムの最後の言葉を思い出した。


「後は頑張りなよ」という言葉を。


 先程聞いたときはフテイルとデストリーネの戦いは劣勢の状態が続いていることへの皮肉かと考えたがもしそんな意味ではなかったとしたら。


 グローテは何か見落としている点がないか記憶を遡っていく。


「……確かあのとき」


 グローテが思い出したのはウェルムと戦い前のことだ。


「あのとき、魔方陣を作っていたけど……何もなかった。……まさか!!」


 そのときグローテは上空からかなりの光量が降り注いでいる事に気が付いた。

 太陽だけではこんなには光らない。


 グローテが真上に顔を上げるとそこには巨大な炎の球体が浮かんでいた。

 今も尚、一回り二回りと大きくなり続けている。

 まるでもう一つの太陽だ。


 これを見てグローテの思考は全て繋がった。


 ウェルムは魔法を使わなかったのではなく使えなかった。

 手っ取り早くここの戦争を終わらすために発動したこの炎球に全ての魔力を注ぎ込んでいたのだ。


「あのウェルム・フーズムの魔力を全て注ぎ込んだ魔法……」


 そのとき、前線を飲み込んでしまうほどの大きさになりゆっくりと動き始めた。

 向かう先はもちろん前線だ。


 グローテは後退りをする。

 しかし、その足の動きはすぐに止まった。


 逸らさず炎球に向いているグローテの瞳は決して揺らいでいない。


「これが地面に落ちれば間違いなく壊滅……止められるのは僕だけ。僕しか止められない!」


 グローテは覚悟を決める。


「これが僕の最後の役目! 僕が皆を守るんだ!」


 グローテにはこの炎球を弾き飛ばすことやなかったことにする神のようなことはできない。


 しかし、一つだけ方法がある。


 グローテは地面を蹴って豪速で飛び上がりそのまま突進する。


 その際に残る全ての魔力を全身に纏わせ紫血も大量に放出し炎球の中に飛び込んだ。


 しかし、それでも纏った魔力を突き抜けて自身の身体が焼かれていく。


「痛いし苦しい……だけど!!」


 一瞬、挫けそうになったグローテだが最後の力を振り絞り炎球の中心に辿り着いた。


 放出していた紫血は炎球を包み込んでいる。

 外から見れば炎球ではなく紫の球体が浮いているように見えるだろう。


「これで多少は被害を抑えられる」


 ふっとグローテは笑みを浮かべ纏っている魔力を一気に解き放つ。


 そして、炎の球体はグローテの血の中で弾け飛んだ。


 紫血のおかげでその大爆発による衝撃はかなり抑えられ被害はないに等しかった。

 だが、流石にその爆発の熱に耐えきれず血は蒸発して消えてしまったが。


 そして、何もなかったかのように上空には何も残らなかった。


 ただ、一つ米粒のような何かがその爆発の中心から落下し始め地面に叩きつけられる。


 グローテの状態はまるで墨のように真っ黒に染まるほどで、もはや火傷なんて言葉では収まらない。


 もはやグローテの命は風前の灯火だ。


 微かに残る意識の中、グローテは一言呟く。


「フレイシア……やったよ」


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