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騒乱のデストリーネ  作者: 如月ゾナ
第16章 天人の衝突 [前編]
220/304

第220話 予想外の連続

 

 タナフォスは激戦区に迫り来るその軍勢の規模をいち早く知るためその場から飛び上がった。


「!?」


 空中からその軍勢の全貌が明らかになったがタナフォスの表情に余裕がなくなる。


「……この不気味な気配。そして、あの全身鎧フルプレート


 その姿は数時間前に相対したばかりでありタナフォスはすぐにその正体に辿り着いた。


「……天兵クトゥルベンか」


 とはいえさすがにその軍勢の全てが天兵というわけではなく魔力の制御が安定していない存在の比率が高い。


 恐らく強化兵も混じっているのだろう。


 強化兵の数の方が多いとはいえその数こそが問題だ


 目視だけでも軽く五百を超えていた。

 天兵の数はおよそ百。


 天兵の実力を知るタナフォスはその数がどれほどの驚異か深く知っている。


「量産はされていると考えていたがまさかこれほどだとは……」


 さらに奥に目を向けると目の前の軍勢を差し置いて一際不気味な気配を漂わせる三人の姿が見えた。


 一人は天兵たちと同様に全身鎧で身に纏っている騎士で見覚えはなかったが残りの二人は別だ。


 赤と黒のメッシュの髪に鎧姿の少女。

 身長はアリルより少し大きいくらいだがそれでも平均よりも少々下回っているだろう。


 そんな少女に似つかわしくない自分の身長と同等の長さの鉄棍を持って肩に乗せている。


 “喧嘩屋”クロサイア


 タナフォスは大会議時にグランフォルが見せた天騎十聖の姿と名前を思い出す。


(二つ名からしても少女の姿と似つかわしくないが……)


 そして、もう一人はこれこそよく見たことがある人物だ。


 姿こそデストリーネ王国元四番隊隊長であるソルヴェル・ファムログ。

 しかし、中身は全くの別人。


 “滅国”ヒクロルグ


 タナフォスはデルフが言っていた言葉を思い出す。


「敵の首魁であるウェルム・フーズムは死体を依り代として別人の蘇生を行うことができるだったか。信じたくはなかったがあの姿を見れば信じるよりほかはあるまい。……死者の冒涜もいいとこだ」


 身につけている装備もかつての重鎧ではなく黒をベースに鮮やかに装飾を施したローブであることから別人というのは間違いない。


 タナフォスもソルヴェルとは昔に何度か顔を合わせたことがあるためそう確証できた。


 そのとき、クロサイアの視線がこっちに向いた。


「!?」


 タナフォスは木刀を抜き身構えるがクロサイアは口元を釣り上げるだけで何の動きも見せない。


 結局、何事も無くタナフォスは着地した。


(余裕げ……いや、楽しんでいる?)


 木刀を腰に差して重い表情で考えを巡らせる。


「どうやら天騎はまだ動くつもりはなさそうだ。今は天兵と強化兵の軍勢の対処が先決。強化兵ならば武将一人で事足りると思うが……」


 天兵が相手では最低でも武将を三人でようやく一人と渡り合えるだろう。


 だが、武将はフテイルの精鋭百人のことで今は戦線の維持に手一杯だろう。

 どう足掻いても数が足りないというのが現状だ。


 唯一、サロクを含めた武将の上位四名の四天王ならば単独でも撃破は可能だがいくらなんでも数には限度がある。


 それに敵は天兵だけではない。


 は何とか維持している状態であるが敵はまだ余力を残している。

 その残った軍勢がいつ押し寄せてくるかは相手次第であり見当がつかない。


「シュールミットはまだ動かないか?」


 シュールミットさえ動いてくれればまだ打てる手はあったが返答は先程と同じで動く様子は一切なしだった。


「どうしたものか……」


 シュールミットの動きを読めなかった自分自身にタナフォスは歯ぎしりする。


 だが、そのとき後ろからとんとんと優しく叩かれた。


 振り向くと泣いた表情をしている仮面を被ったグローテが立っていた。


 タナフォスが「どうした?」と尋ねる前にグローテは口を開く。


「僕が……行くよ」


 予想外の言葉にタナフォスは目を丸くして言葉を失う。


「フレイシアと……約束したんだ。僕は皆を守るために戦う」


 表情や眼差しは仮面に隠れて見えないがその言葉には確かな意志が宿っていた。


「……任せてもいいか?」


 有無を言わせない言葉に気付いたときにはタナフォスはそう言葉を出していた。


 グローテはタナフォスの言葉に深く頷く。


「そなたの覚悟、感謝する」


 話を聞いていたグランフォルが近寄ってくる。


「悪いな。俺が行ければ話は早かったんだがカハミラとの戦い前に魔力を消費したくなかったんだ。さっきの大魔法でも大分消耗してしまったこともあるし」

「承知している。そなたにしかあの大魔道士と渡り合えない。そなたはそなたで全力を尽くしてくれ」


 グランフォルは頷いた後、すぐに戦場に目を向ける。


「それで、どうするんだ? 天兵といったか? その軍勢はもうすぐ前線に到着するぞ」

「衝突する前に天兵の侵攻を食い止めたいが今から間に合うか?」


 グローテの仮面は相変わらず涙は零しているが困ったような表情に変わる。


「ギリギリ?」と呟いてこてっと首を傾げた。


「なるべく、巻き添えはなしにしたいところだが……致し方なしか」

「いや、俺に一つ案がある。まぁ、少し強引だが」


 グランフォルが提示した方法は魔法によって吹き飛ばして豪速で向かわせることだった。


 確かにそれならば走って行くよりもかなりの時間を短縮することができ現段階で理想的な状況に持って行くことができるだろう。


 だが、問題はそれがグランフォルの魔法だということだ。


 魔道書の魔法は全てが高威力であり身体の負担はかなりのものとなるだろう。

 だからといって無理に力を抑えて想像している加速が出来なかった場合は意味がない。


 つまり、グランフォルの高威力の魔法を一身に受け止めなければならない。


 だが、それでもグローテは迷わず頷いた。


「オーケー」


 そして、グランフォルは魔道書のページを捲り魔法を発動させる。


「第一章第一項“衝撃インパクト”、第八章第一項“最大化マキシマイズ”」


 グローテの足下と背後に二つの魔方陣が出現した。


「グローテ、奴らに時間を与えるな。変形する前に倒せ」


 タナフォスがグローテへ最後の忠告をした直後、足下の魔方陣から強烈な衝撃がグローテを襲う。


 体重の軽いグローテをいとも簡単に上空に舞い上がらせる。

 数秒も経たずしてさらに背後の魔方陣も同様に発動した。


 強引なやり方だがその衝撃は瞬く間に激戦区を通り過ぎグローテを天兵の軍勢の真上まで連れて行く。


「グローテ、初めてまみえたときより大分変わったようだ」


 ポツリとタナフォスは呟く。


「ところで、グラン」


 魔道書を閉じて魔力の回復に集中しているグランフォルは片目を開けてタナフォスに向ける。


「どうした?」

「某の見落としかもしれんが敵本陣の天騎十聖の中に魔導王カハミラの姿が見当たらなかった。そなたも確かめてはくれぬか?」


 タナフォスは視線や殺気の感知は得意だが相手の魔力を感知することは乏しい。

 近距離ならば可能だが遠距離ともなると精度はかなり不確かになってしまう。


「なに? ジョーカーの話じゃ敵の最大戦力であるカハミラを置くのは正面って話じゃなかったか?」


 そう言いながらグランフォルは敵陣に意識を向ける。


「マジかよ。反応がないぞ」


 グランフォルのその言葉と殆ど同時に東方でタナフォスでも感知できるほどの高魔力の反応があった。


「ちっ! 大将さんわりー。どうやらジョーカーの読みが外れたようだ。俺は東方に向かう」


 グランフォルは再び魔道書を開く。


「承知した。武運を祈る」


 事の重大性を十分に理解しているタナフォスは手短に言葉を送る。


 そして、グランフォルもこの場を去って行った。


「敵も単純な戦法は取ってこないか……」


 デルフやタナフォスはフレイシアを狙っていることから正面にカハミラを置き圧倒的な力で奪い取ると考えていた。


 だが、カハミラを正面に置かないということは周りから壊滅させフテイル本軍を孤立させる狙いの可能性が高い。


「分かっていましたが一筋縄ではいかない相手ですね」


 フレイシアの姿であるフレッドがタナフォスの隣に立っていた。


 後ろからは心配そうな表情のサフィーとヨソラが付いてきている。


 タナフォスは安心させようと声をかけようとしたそのとき伝令がかなり焦った表情で走ってきた。


「報告します!! 敵陣に動きあり!! 総攻めを開始しました!! 既に激戦区に達しています!!」

「なんだと!?」


 タナフォスは走って自陣の一番前まで移動する。


 すると、目の先には激戦区に雪崩れ込んでいる残りの敵軍が目に入った。


 ついに、二万に対し六万というかなり厳しい展開になってしまった。


「……この地を死に場所とし全力を尽くして持ち堪えろ。一番手柄には格別の恩賞を与える。そう武将たちに伝えてくれ」

「ハッ!!」


 命を受けた伝令は急いで戦場に戻っていく。


「報告します!!」


 先の伝令と入れ違いで別の伝令がタナフォスの下で跪く。


「どうした!?」

「敵勢、激戦区を抜けここ本陣に進攻中!!」


 その報告にはタナフォスは信じられなく呆然としてしまう。


「なんだと!? 送り出したばかりではないか! もう突破されたのか!?」


 だが、伝令の答えは歯切れが悪かった。


「そ、それが……こちらに向かってくる敵は三名です」


 それはそれでタナフォスは驚きを隠せなかった。


「依然として我が軍は持ち堪えております。ですが敵勢三名のみ激戦区を抜けこちらに進攻中です!」

「大義!」


 タナフォスはそう言い捨てて正面に目を向けると確かにこちらに向かってくる三人の姿があった。


 敵はたった三人での特攻を強行しているが決して油断はできない。


 その三人こそ、この正面戦場の敵将である天騎十聖の三名だ。


「やってくれる。特攻とは……嘗められたものだ」


 新たな策を考える暇はもうない。

 そうしている間にも敵は瞬く間に距離を詰めているからだ。


 いや、もはや策をろうする必要はない。


 敵は数の有利を捨てわざわざ敵将が兵を付けずに出向いてくれたのだ。


 後は各々が死力を尽くすのみ。


「サロク!」


 タナフォスの言葉に反応したサロクが迎え撃つために走り出す。


「私も参ります!」


 その後ろから待機していたソナタも続いた。


「フレイシア陛下はここで待機を!」

「承知しました」


 そして、タナフォスも木刀を片手に走り出した。


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