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騒乱のデストリーネ  作者: 如月ゾナ
第16章 天人の衝突 [前編]
212/304

第212話 天兵

 

 怒り狂った騎士三人は剣を抜いて攻めかかってくる。


 タナフォスは木刀を構えて相手の動きに集中する。


「死ねぇぇ!!」


 騎士の一人が剣をタナフォスの脳天目掛けて大きく振り下ろした。

 それと同時に他の騎士たちは背後に回っており背に向けて突きを放つ。


「ふぅ〜」


 三方向から刃が迫る最中、タナフォスは静かに息を吐いて目を閉じる。


 騎士たちは諦めたと確信し何も警戒せずに攻撃を続行する。


 だが、そのときタナフォスが動いた。


 まずは脳天から向かってくる剣を木刀で防ぎ弾く。

 その後、自身を回転させ的確に背後から狙いを定めている剣の切っ先を木刀に当て軌道を逸らした。


 常人を超えた速度と洗練された剣術に騎士たちは意表を突かれ直ちに後ろに下がった。

 だが、タナフォスとしてこの動作はただ軽くいなしただけに過ぎない。


「どうした? もう終わりか?」

「ちっ、大見得を切るほどではあるな」


 騎士の一人がそう呟く。

 だが、もう一人が大きく首を振る。


「そんなことはどうでもいい。問題はどうやって木刀なんかで俺たちの剣での攻撃を防いでいるかだ」


 タナフォスは薄ら笑いを浮かべわざわざその解を答えてやる。


「なに、簡単な話だ」


 そう言ってタナフォスは片手で持った木刀を前に出して良く見せる。


 ようやく騎士たちはその木刀が輝いていることに気が付いた。


気光刀きこうとう。フテイルの武将にとっては基礎の技だ。木刀では威力よりも耐久力を増やすことが御の字ではあるが」


 そして、再び木刀を構え直す。


 このときタナフォスは既に自身の勝利を確信していた。


(木刀で対処できる以上、この騎士たちの実力は窺い知れる。もはや、時を待つのみ。……これの出番はまだ先だ)


 チラリと視線を腰に差している刀に向けるがすぐに敵に戻す。


「ちっ。だがな、いくら硬くなったところでお前の攻撃は俺たちには通用しない!!」


 そう言って再び三人は攻め寄せてくる。


「なぜ三人のみかと思ったが……」


 この実力ならばもぬけの殻同然のフテイルを陥落させるには十分だが人数を増やせば素早く陥落させることができるはず。


 奇襲のため少人数として向かわせた線もあるがそれではあまりにも少ない。


「なるほど、連携力が強みか」


 三人の動きはまさに阿吽の呼吸と呼べる代物だった。


 一人が正面から向かってくる間にいつの間に移動したのか二人は既に背後に回っている。


 三人が別々の動きをしながらパズルのピースのように当て嵌まるような連携力。


 それこそがこの三人でなければならない理由だとタナフォスは見破る。


 だが、タナフォスに通用するかはまた別の話であるが。


「一つ、指南してしんぜよう」


 そう言ってタナフォスは背後の敵を無視して正面の騎士との距離を瞬く間に詰めた。


「なっ!?」


 タナフォスの動きに反応できずに身体を硬直させる騎士に対して木刀を腹部に叩きつける。


「がっ!!」


 吹き飛ばされた騎士は進行路にあった岩に衝突して運良く勢いが相殺された。

 もし、障害物が何もなければ彼方まで弾き飛ばされていただろう。


 だが、その代償は大きく壮絶な痛みに転がりながら悶えている。


 その姿を見てタナフォスの背後に回っていた敵は唖然と攻撃の手を止めてしまう。


 後ろの騎士の動きが止まったことを気配で感知してタナフォスは言葉を続ける。


「……それは、一つが欠ければ即座に連携が崩れてしまう点だ。通じるのは同等かそれ以下の力を持つ者に限る。もし、看破されたときの動きも考えておくべきだ」


 タナフォスが言い終わるとようやく悶えていた騎士が起き上がった。

 だが、肩で息をしており困憊の様子だ。


「はぁはぁ……なぜだ。なぜ木刀でこれほどのダメージが……」

「少し頭を捻れば分かろう。気光刀の魔力を衝撃としてそなたの身体に貫通させたのだ。全てを鎧で防げるとは思わないことだな」


 タナフォスの説明を聞いて相当なダメージだったのか剣を杖として地面に突き刺し身体を支え呼吸を整えながら騎士は舌打ちをする。


「ペラペラと喋りやがって」

「申したであろう。指南をするとな。……それにこの程度の技、知られたところで問題にもならぬ」

「ほざくな!!」


 またも騎士たちはタナフォスに襲いかかる。


「何度も同じ事を。人の話は聞くべきだ」

「黙れ!! 俺たちの技は天騎様に匹敵する!! 貴様ごときに破られてたまるか!!」


 幾重もの剣線が飛び交うがその全てをタナフォスは木刀で防ぎきる。


 さらに、騎士たちが隙を見せたところに木刀を打ち込む。


 一人は腕、一人は胴、一人は頭に。


 頭に打ち込まれた騎士は比較的にダメージが大きく蹌踉めいている。


「そなたたちの力を見て安堵した。まだ我が兵である武士たちの方が打たれ強い」

「……確かにお前の方が実力は上のようだ。だがな、それはここまでの話だ!!」


 一人の騎士がそんな言葉を吐くと残る二人は大きく動揺を見せる。


「ま、まさかやる気か!?」

「こんなところで……」

「考えろ!! 俺たちが為すべき事は国を奪うことではない!! 敵の戦力を削ることだ!! 腹を括れ!! こいつを生かしておいては不味い!!」


 怒気を含んだ声で叫ぶ騎士に二人は同調する。


「ハハハハ!! お前はここまでだ!!」


 タナフォスはその大声の言葉の内容に引っかかる物があったが次の三人の騎士の変化に目を奪われてしまう。


 三人の騎士の身体が徐々に肥大化を始めたのだ。

 耐えきれなくなった三人の鎧や兜が弾け飛び各々独自の変化を見せる。


 一人は身体をこれでもかと言うレベルまで肥大化させ巨人とまではいかないが大男、タナフォスが見上げないと顔が見えない体格まで増大した。


 それもぶよぶよの身体ではなく引き締まった肉体でありその拳から放たれる一撃の威力は想像に難くない。


 もう一人は体格こそ大して変わりはないが背面から無数の触手を伸ばしている。


 最後の一人は前者の二名ほどの変化はなかった背に肉の翼を生やし宙に飛んで浮かんでいた。


 その三人の姿にタナフォスは心当たりがあった。


「強化兵?」


 強化兵。

 それは現時点では強化型、放出型、変化型の三種に分かれている。


 明らかに前に立つ三人はそれぞれの型の変貌を遂げていた。


 しかし、タナフォスに疑問が生じる。


「前回に見たときよりも姿が異様……」


 特に強化型を見れば明らかだ。

 前はぶよぶよの肉体で完全な制御ができていない様子だった。

 現にサロクとの戦いの時には身体の増長に付いていけず自ら血を流していたほどだ。


 しかし、今はぶよぶよの肉体は引き締まり完全な筋肉として維持されている。


 タナフォスの呟きに遺憾を示した強化型の天兵がタナフォスに怒鳴りつける。


「俺たちを強化兵の様な出来損ないと間違えるな!! 俺たちは天騎十聖候補である天兵クトゥルベンだ。この姿になった以上、貴様に勝ち目はない!!」

「この姿だとな!! 理性がぶっ飛びそうになるんだよ!! 綺麗に死ねると思うなよ!!」


 目が血走っており完全に己の内側から溢れ出る力に飲み込まれそうになっている騎士たち。


 今はお互い隙を探り合っているが痺れを切らしていつ襲いかかってきてもおかしくない。


(強化兵の源である悪魔の心臓(デモンズハート)の力に耐えきれる者を天兵と呼んでいるらしいな。……グローテと同じ。いや、グローテとは何処か違う)


 グローテは三種の型に所々似たような姿に変わりはするが全く同じとは言いづらい。

 そして、目の前の三人よりグローテの方が極めて厄介とタナフォスは考える。


(とてもではないがグローテのような変貌をした者がいるとは考えにくい。いても一人か二人……。恐らく敵は量産が目的。ならばグローテの変貌は偶然の産物でありこの者たちと同等の存在を簡単に作る方法があると考えればまだ筋が通るか)


 つまり、敵軍にはこのような存在が多数いるかもしれないとタナフォスは推測する。


 そう考えている間にも恐るべき姿に変貌した天兵たちがタナフォスに襲いかかってきた。


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