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騒乱のデストリーネ  作者: 如月ゾナ
第14章 廃れた正義
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第185話 打ち上げられた光

 

 外に飛び出すと上空には太陽のような輝きを放つ球体が浮かんでいた。

 見たところ輝いているだけで他に何かが生じているというわけでもない。


「状況の説明を!!」


 ノクサリオがそう叫ぶと慌てた表情の隊員が駆け寄り口早に状況の説明をする。


「先程、捕らえた敵兵が突然掌を上に向けてあれを……。今のところ何も被害は出ておりません!」


 ノクサリオの眉間に皺が寄る。


「被害は出てない? 取り敢えず、警戒を続けろ。それと、捕虜の監視を怠るな」

「ハッ!!」


 隊員は頭を下げて戻っていく。


「ノクサリオ、まずは尋問ダ」

「ああ、分かってる」


 そして、ノクサリオとアクルガはこの事態を引き起こした捕虜の下に向かった。


 デルフはその場に止まり光る球体を眺めていた


(輝く球体……。しかし、それによる被害は皆無。するとその目的は……なるほど)


 デルフはちらりと隣に立つアリルを見る。


「アリル」

「はい」

「どう思う?」


 相変わらず説明が足りないデルフの問いかけにアリルはきょとんとした顔をになり首を傾げる。


「どうとは?」

「被害は何もない。何のために捕虜はあのような真似をしたか」

「最後の悪足掻きではないのでしょうか?」

「確かにその可能性もあるが、もし何か目的があるとすれば何だ?」


 アリルは険しい顔付きで親指を唇にとんとんと当てる。


「そうですね。捕虜からすればここは敵地で妙な真似をすれば命はないと考えるのが普通ですね。つまり、この行為は命を賭ける意味があるもの。しかし、被害は皆無ですか……」

「何も敵の目的は戦力を削ることではない」

「あっ……」


 ここまで言えばアリルも思い当たったようだ。


「そうなると……この流れは敵の算段通りだったのかもしれません」

「ああ、あのときノクサリオを取れれば幸い。もしも逃したとしても別の手を打っていた。ザンドフと言ったか、戦闘狂の類いかと思っていたが存外頭が回るようだな」

『しかし、妙じゃの。デルフ』


 そこでヨソラと談笑していたリラルスがいつの間にかデルフの隣まで移動していた。


(何がだ?)

『強い信頼関係じゃなと思ってのう』


 まだデルフはリラルスが何のことを言っているのか見当もつかなく顔を顰める。


『だってそうじゃろ? 囮役を自ら買って出て最後まで役目を果たすとは。捕虜ではなく問答無用で殺されるかもしれないのにのう』

(一理あるな。それもあの男の人望の賜か。……いや、待てよ)


 デルフの頭にもう一つの可能性が浮かび上がる。


(こんな重大な役目。下っ端ごときがやるものと思えない。それこそそれなりの実力があって信頼関係がなければ……)


 デルフはそこであの村での出来事を思い出す。


(投擲した短剣は威力とスピードは申し分なく的確にノクサリオを取りにきていた)


 最近、ウェルムなどの規格外と戦いすぎて基準がおかしくなっているため気付かなかったが今思えばそれだけでも十分に強いと言えた。


 そう考えると不自然な点がある。


(そう言えばノクサリオを助けた後、そう時間が経たずにアリルが捕らえて連れてきた)


 確かにアリルも強いがあの一瞬で捕まるほどあの男がやわとも思わない。


(まさか、わざとか?)


 デルフはそう考えたときノクサリオたちが向かった方向から金属がぶつかる音が聞こえてきた。


「やはりそうか……。ヨソラ、こっちに」


 デルフが膝を突いて手招きするとヨソラはトコトコと近づいてきた。

 そのヨソラを両手で優しく抱え上げ「アリル、行くぞ」と言って思い切り地面を蹴る。


 数秒もしないうちに見えてきたのは隊員たちと戦っている捕虜の姿だった。

 捕虜の身体を縛っていた縄は切断され地面に落ちている。


 隠し持っていたと思われる短剣を片手に持っている。


 剣を持っている隊員たちの方がリーチの長さもあって有利なはずだが防戦一方の状態だ。


「やはり実力を隠していたか」

「そのようだナ。恐らく奴が賊の第二位ナンバーツーなのだろウ」


 その戦闘の光景を眺めていたアクルガが感心したように頷いている。


「ということは気が付いているか?」

「アア、賊の本隊はここに向かっていル」


 さすがはアクルガだとデルフは笑ってしまった。

 だが、それは打ち上げられた光球の意味に気付いたことに対してではない。


 そこに辿り着いたのにもかかわらず変わらず余裕な態度を続けている事に対してだ。


 別にアクルガは強がっているわけではない。

 本心から大したことはないと思っているのだ。


 久しぶりにそんなアクルガの姿を見ることができたデルフは感慨深くなる。


「おいおい、二人とも!! なんでそんな余裕なんだよ!! 聞いてたぞ!! 今ザンドフがここに向かってきているんだって!?」

「ああ、その通りダ」


 捕虜であった男は短剣を持ちながらにやっと笑みを浮かべている。


 今は隊員たち相手に圧倒しているがそれも限度があり数の差には勝てない。

 それなのにもかかわらず諦めた表情は一切ない理由は一つ。


 援軍が向かっているからに他ならない。


 これでザンドフがこちらに向かっているという考えは確信に変わる。


「その通りだ? お前、戻ったと思ったら良くない方向で……。ああ、そうだったな。お前はそう言う奴だ」

「いいから行ケ。部下たちがやられるゾ」


 そう言ってアクルガはノクサリオの背を足で押した。


「うわぁぁ!!」


 ノクサリオは身体のバランスを崩して敵に向かっていく。


「やばいやばいやばいやばい」


 敵は短剣を構えて向かってくるノクサリオを睨み付けている。


「そう言えば、あいつ斧槍はどうしたんダ」

「持ってるわけがないだろ!!」


 ノクサリオの武器である斧槍はその大きさから常に携帯するのには不向きで拠点の中では持ち歩いていない。


 もちろん、丸腰なわけではないが懐にしまっている短剣を抜く時間は残されていなかった。


「やばいやばいやばいやばい!!」

「ハッハッハッハ、お前なら大丈夫ダ!」


 その光景を隣で見ていたデルフは溜め息を吐いた。


「アクルガ……お前も悪い癖が直ってないな。まぁ見てて飽きないが」

「そんなこと言ってないで……!?」


 そうしているうちに敵の短剣がノクサリオに向けて振り下ろされた。


「仕方がない。アリル」


 そのデルフの一言が呟かれてすぐにノクサリオの前にアリルが現われた。

 既に抜いている二本の短剣で敵の攻撃を防ぐ。


 突然出現したアリルに警戒した敵は後ろに下がる。


「た、助かった……」

「勘違いしては困るのですが……まぁいいです。それよりもあなた、煙は?」


 アリルは呆れたような視線をノクサリオに向ける。


「は?」

「だから、有毒の煙を出せばあれも退いたのでは?」

「いやいや、あれは無差別だから何も言わずに使うと味方にも被害が出る」


 アリルはチラリと周囲を見渡す。

 確かに満身創痍になった隊員たちが地面に手を突いて息を整えていた。


「だからといって命よりもそれを優先しますか……お人好しですね」


 そして、アリルは短剣を構えた。


「まぁ、最近僕もその気持ちは分かるようになってきましたけど」


 言い終えたと同時にアリルの姿は掻き消える。

 次、姿を現したときは敵の目の前だった。


 両手の短剣を突き刺すように持ち替えたアリルは全力で振り下ろす。


 それを寸前で躱す捕虜男。


「全く心外ですよ。あのとき手加減していたようですね」

「ちっ」


 男は即座に短剣を振るがアリルは余裕で躱す。


「“鎌鼬かまいたち”」


 アリルが放った真空波が男の短剣の刀身を真っ二つにした。


「なっ……」

「さぁて、終わりです」


 後退る男の目は泳いでおりかなり狼狽えていた。


「……ノクサリオだけじゃなかったのか。なんでこんな奴が……」


 アリルが短剣を振り下ろそうとしたとき男は破れかぶれに掌を向けた。


「クソが!!」

「遅いです……よ!?」


 そこから光球が飛び出しアリルの視界を数秒だけだが眩ました。

 だが、目を潰したからと言ってこの男の実力では意味がない。


 殺気を向けた瞬間、この男の運命は決まる。

 しかし、アリルはいくら待っても殺気を感じなかった。


「動くな!!」


 ようやく聞こえてきたのは男の荒げた声だった。


 視界が戻ったアリルが目にしたのはヨソラを持ち上げて人質に取った男の姿だった。


 ヨソラの首元に手を当てている。

 少しでも動けばヨソラの首を貫くつもりなのだろう。


 ヨソラは表情を変えずに為すがままになっている。


 先に反応を見せたのはアリルではなくデルフだった。


「お前……少しでも傷付けてみろ」


 デルフの本気の怒りが籠もった視線が男を貫く。


「な、なんだ……なんなんだ一体!!」


 男は後退るとヨソラが持っていたぬいぐるみが地面に落ちた。


「あっ……」


 ボキッ!!


 そう鈍い音が急に広がった。


 男はまだ気が付いていなかったが周りから見れば明らかな出来事だ。


 ヨソラが軽やかに着地してすぐしゃがみ込んでぬいぐるみを拾い付着した砂埃を払う。


「あ? 勝手に動く……!?」


 男は勝手に離れて動くヨソラに手を伸ばそうとしてようやく気が付いた。

 ヨソラを持ち上げていた手がへし折れていた事に。


「グアアアアア!!」


 激痛からのたうちまわる男だが次の瞬間、動きが完全に止まる。

 しかし、呻き声は残ったままだ。


 すぐ側でヨソラが片手の掌を男に向けていた。

 念動力によって完全に動きを止めているのだ。


 こうなってしまうとデルフでも抜け出すのは難しい。


「お嬢様!! お怪我は!?」


 アリルは駆け寄るが無表情ながらもヨソラは呆れが混じっていた。

 そして、一言。


「アリル……あまい」

「ぐはっ……」


 その言葉はアリルには大ダメージだったようだ。


 その場に崩れ落ちるアリルにヨソラは構わずデルフの下にとことこと戻っていく。


「おとう、さん……ただいま」

「あ、ああ。おかえり」


 一連の流れを呆然と眺めていたデルフはいつの間にか怒りが消えていた。

 取り敢えず、ヨソラが無事であることに安心する。


「子どもまで……本当にお前らえげつないな……」


 ノクサリオは引き攣った笑みを浮かべてそう呟く。


「それでアクルガ。こいつどうする?」

「逃がしてやレ」

「いいのか?」

「アア、十分に面白い物を見せて貰ったからナ。それに逃がしたところで問題なイ」

「お前らしいな」


 デルフはヨソラに念動力を解くように言おうとしたそのとき、集落の入り口の方が騒がしくなってきた。


 その正体は無数の馬の足音だ。

 時間は経たずに盗賊の集団が顔を見せた。

 迷わずにこちらまで向かってきている。


 その先頭にいるのは言わずもがな、「ザンドフ!!」とノクサリオが叫ぶ。


「よう。ノクサリオ。決着をつけに来たぜ」


 サーベルを肩に置いたザンドフが馬の上から笑みを浮かべていた。


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