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騒乱のデストリーネ  作者: 如月ゾナ
第12章 波乱の武闘大会
171/304

第171話 分断

 

 ボワール王国から出立したフレイシアたちはフテイルを目指していた。


 いつも通りウラノが運転しておりその隣にはグランフォルが座っている。


 馬車の幌の中にはフレイシア、アリル、眠っているデルフ。


 そして、もう二人。


 サフィーとフレッドがいた。


 旅の食料なども幌の中に置いているため始めと比べて狭くなってしまった。


「今、思うと大所帯になりましたね〜」


 デルフの頭を膝に乗せているフレイシアが暢気な声を出す。


「って! なんでこの二人が乗っているのですか!? 王城から出るときに分かれたはずでは!?」


 アリルが透かさずフレイシアに向かって言うがそれに答えたのはフレッドだ。


「アリル様、フレイシア様は悪くはございません。私からお願い致したのです」

「別に悪いと言っているわけでは……一言ぐらいは前以て言って欲しいのです」


 じとーっとフレイシアをアリルは見詰める。


「も、申し訳ありません。何分、急でしたので」

「はぁ〜今に始まったことではありませんし……それでどういうことです?」


 アリルに促されフレッドは説明する。


「城から出た後、旦那様と奥様の下に伺いました。そうしているとき、ジャンハイブ様からの使者が訪ねてこられその周辺に家を建ててやっても良いと破格の申し出を受けました」

「ジャンハイブが……? よっぽどあなたたちを目に掛けているようですね」


 しかし、ここにいると言うことはその申し出を断ったに他ならない。


「私はすぐに頷こうとしたわ。でも、フレッドが少し考えさせてくれって言ったの」


 謎は深まるばかりで続けるようにとアリルがフレッドに視線を送る。


「確かに旦那様と奥様のお近くで過ごすのは私としても願ってもないこと。ですが、今回の騒動は私たちと無関係ではありません」

「そこに住むのと騒動がどんな関係があるというのです?」

「それは紋章です」


 アリルの質問に答えたのはフレイシアだ。


「紋章?」


 アリルは首を捻りフレイシアの言葉の続きを待つ。


「アリル。今回の敵の目的は何と思いますか?」

「それはフレイシア様とデルフ様のお命では?」

「確かに今まではそうでした。ですが、今回に限ってはそうとは言い切れません。思い出してみてください。敵、クライシスはデルフの動きを止めた後、どう動きましたか? 身動き取れないデルフに止めを刺そうと動きましたか?」

「あっ。……ジャンハイブに向かっていきましたね。なるほど、だから紋章ですか」

「はい。敵の狙いは私とデルフの命ではなく紋章だったのです。そもそも、正確には今までも私たちの命ではなく私に宿るこの紋章を狙ってきました」


 フレイシアは自分の左胸を擦りながら答える。


「ということは……」


 アリルは再びフレッドに視線を向ける。


「はい。お察しの通り、お嬢様の身にも紋章が刻まれております。お嬢様が紋章持ちと敵方にばれた以上、その場に止まり続けることは得策ではありません。聞いたところ、あれほどの実力者がデストリーネには幾人もいるとか。一人ならまだしも複数人では悔しいですが私だけではお嬢様を守り切ることは不可能です。ですので先日の夜、夜分ながら失礼してフレイシア様にご相談に伺ったのです」


 フレイシアはどきっと鼓動を早くなり紛らわすように咳払いをする。

 アリルが訝しげに首を傾げるが見ないことにして口を開く。


「ま、まぁフレッド殿から申し出が無くてもこちらからお誘いしようかと思っていました」

「フレイシア様、敬称は不要です。お嬢様は貴方様の庇護下に入ります。そして、私はお嬢様の代わりに貴方様の配下となることを誓います。どうぞ何なりとお申し付けくださいませ」


 フレッドはその場で改めて跪き頭を下げる。


「サフィー、あなたはそれで良いのですか?」

「フレッドがこれが良いって言うからよ。ふ、ふん」


 ぷいっと顔を背けるサフィー。


 フレッドはそれを微笑まし眺めてフレイシアに囁く。


「ああ申しておりますがお嬢様はあなたのことを気に入っているご様子。もしかすると奥方さまに重ねておられるかもしれません。どことなく雰囲気が似ておりますので」

「ちょ、ちょっとフレッド!!」

「なるほど、そういうことですか」


 それを聞いたフレイシアは少し悪戯な笑みを浮かべる。

 そして、大きく両手を開く。


「サフィー、こちらに来なさい」


 サフィーは目を点にして見ていたが顔を赤らめてすぐに顔を背ける。


「わ、私は子どもじゃないのよ」


 フレイシアはその言葉を聞いても変わらずに微笑みながら手を広げ待っている。


「……もう!!」


 サフィーは仕方が無いといった様子でフレイシアの胸に顔を埋めた。

 それをフレイシアは優しく抱擁する。


「あなたはまだまだ子どもです。今のうちにたくさん甘えていればいいのですよ。私の前ではもう気を張る必要はありません。今までよく頑張りましたね。」


 サフィーは顔を埋めたまま何も言わなかったが顔を埋めている部分の洋服が湿ってきた。


 フレイシアは優しく頭を撫でる。


「ところでフレッド?」


 アリルがぐいっと顔を近づけてまじまじと顔を見詰める。


「な、なにか?」

「あなたは魔力でできている。安直に言えば魔道人形(ヒューマノイド)。本当に人にしか見えないです。気になっていたのですがその姿は固定ですか?」

「いえ、この姿は無意識ながらお嬢様が望まれたものです。例えばこのように……」


 そう言った瞬間、フレッドの身体が輝きだし光その物になった。

 その光がしばらく蠢いた後、形を得て現われたのはメイド服を着た清廉でお淑やかな女性だ。


「という感じに性別も自由自在に変えることができます」

「……驚きました。見た目、声、雰囲気もまるで別人です。いや、雰囲気はまだ面影を残しているようですが一目見ただけでは分かりませんね」

「ですので潜入、暗殺の際は私が適任かと」


 そう言っていると顔を上げたサフィーがフレッドに目を向けた。


「フレッド! なによその姿は!! 戻りなさい!!」

「……かしこまりました」


 サフィーの言葉によりフレッドは先程と同じ過程を経て元の姿に戻った。


「これは反則ですね」


 唖然とするアリルの呟きにフレイシアも頷く。


「ええ、味方になってくれて良かったです。使い方によってこの力は恐ろしい物になります」

「それでフレイシアさん」


 サフィーがちょんちょんと指で尋ねてくる。


「ふふ、姉、もしくは母とでも呼んでくれて良いのですよ?」


 サフィーは顔を赤らめ黙ってしまう。


「じゃなくて! 今から何処に向かっているの?」

「フテイルという国です。そこは私のお姉様が王である国ですよ」


 それを聞いたサフィーは安堵するように息を吐いた。


「どうかしましたか?」

「いや、ジャリムの方向に行くのかなーって思っていたから」

「ジャリムに何か?」

「い、いや何もないのよ。あはははは」


 完全に怪しいサフィーに詰問しようとフレイシアは動こうとするが代わりにフレッドが答えてくれた。


「お嬢様は恐れているのです」

「恐れている?」

「ちょ、ちょっとフレッド!」


 サフィーは慌ててフレッドの口を止めようとするがもう遅かった。


「ボワールの子どもたちの間でジャリムまでの行路の森の中には大きな洋館があって最近そこには黒髪で人食いの少女がいるという噂が流れています。いわば怪談話ですね」

「ひっ。言わないで!!」


 サフィーは顔を真っ青にして蹲ってしまう。


「噂……ですよね?」

「ええ、噂話でしか聞いたことがありませんので」


 フレイシアは再びサフィーに目を向けるとまだ蹲っている。


「この噂でお嬢様がどれほど眠れぬ日を過ごしたことか……」


 サフィーの様子を見ればその光景の想像は難しくない。


 フレイシアは再び悪戯な笑みを浮かべてまたも両手を広げる。


「怖いならまた撫でてあげますよ」

「もう!! 怖くないから!!」


 サフィーが顔を赤らめて必至に抗議する。


 しかし、そのとき急に馬車が止まってしまった。


「到着ですか? 補給地点にしては近すぎますが……」

「少し様子を見てきます」


 アリルはそう言って外に出ようとするがその肩に手が置かれた。


「デルフ様!?」


 数日間眠ったきりのデルフが立ち上がっていたのだ。


「……あっ」


 驚きから固まっていたフレイシアは慌ててその身体を支えるため動こうとするがすぐにその動きを止めてしまう。


 なぜならデルフの瞳はいつも以上に鋭くなっており纏っている雰囲気も尋常ではないほど殺気を放っていたのだ。


「陛下、絶対に外には出ないでください。アリル、陛下の護衛を。フレッドはサフィーを守れ」


 各々の答えを聞かずそう言い残してデルフの姿が掻き消え幌の出入り口が靡く。


 フレイシアは何も言えずに呆然としていたがすぐにデルフの様子からあることに気が付く。


「まさか!?」




 馬車を止めたウラノは嫌そうに苦笑いをしていた。


「これは……不味いですね」

「ああ、万事休すってやつか? 前にするだけで冷や汗が止まらねぇぞ」


 ウラノとグランフォルの視線の先には三人の人物が立っていた。


 白が主体の派手なローブを身に纏っており懐には剣を三本携えているデストリーネ王国総団長であるウェルム。


 黒のドレスを着用し首には毛皮のマフラーを巻いており片手にはグランフォルと同じような魔術書を持っている女性、現魔術団長であるカハミラ。


 そして、フレッドと同じような黒の執事服を着用している青年であるシフォード。


 天騎十聖の中でも一筋縄でいかない三人が揃っていた。


 特にシフォードはウラノたちからすると未知の存在でどのような攻撃を行ってくるか予想もできない。


 ウラノとグランフォルは逃げることは不可能と判断し運転席から地面に降り立つ。


「一応、確認しておくが、あれが天騎十聖で間違いないんだな?」

「はい」

「あんなのが後七人もいるのかよ。想像以上にやばいな」


 そして、ウラノとグランフォルは戦闘態勢を取る。


 だが、そのとき後ろから黒い影がウラノたちの前に降り立った。


「殿!」


 デルフは振り向くことなくウラノに言葉を淡々と述べる。


「ウラノ、直ちに馬車に乗りフテイルに向かえ」

「と、殿は……」


 デルフはウラノの言葉を待たずに続いてグランフォルに言葉を放つ。


「グラン、俺が合図したら全力で魔法を放て手加減は無用だ」

「お、おう」

「いいか。躊躇するな。合図したら絶対に撃て」


 二度の確認にグランフォルは戸惑いながらも頷く。


「と、殿……」

「現時点からお前がこの隊をまとめろ。そして、フテイルに戻ったら俺の代わりとしてタナフォスの指示に従え。分かったら行け! 時間がない!」


 デルフの焦りが伝わったウラノは頷きデルフを残して運転席に戻った。


「待たせたな。一応、聞いておこうか。何の用かと」


 クククと笑うウェルム。


「まぁ、何かと聞かれたら追い打ちってところかな。君が随分疲弊しているってクライシスから連絡があってね。そこにある紋章二つを貰うチャンスかなと思った次第さ」


 ウラノが指さす先は幌の中だ。


「させると思うか?」

「やめておきなよ。虚勢だというのは分かっているよ。報告通り随分と無理をしたようだね。今の君の力は全力の半分にも満たないだろう」


 ウェルムの言うことは全て合っている。


 今のデルフは立っていることが奇跡に近く気を抜けばまた意識を保てなくなるほどだ。


「試してみるか?」


 そのときデルフの身体の周りから黒の瘴気が出現した。


「ちっ、そんな身体でまだ……」


 しかし、デルフも無理して発動しているため激痛が絶え間なく続いている。

 平然としている表情を保つのがやっとで一歩でも動けばそれも崩れてしまう。


「なに警戒しているんだ。どうせ分身なんだろ。臆病者が」


 それでもデルフは敢えてウェルムを挑発する。


「聞き捨てなりませんね。その言葉」


 すると、いつの間にか背後に回っていたシフォードが右手に付けた鉤爪でデルフの首を狙っていた。


 さらに前からはカハミラがグランフォルと同じような魔道書を手に持って詠唱を始めている。


 しかし、これはデルフの狙い通りだった。


「ば、馬鹿! お前たち!」


 ウェルムは二人が我を忘れていることに気が付き叫ぶ。


「やはりな。お前の配下は忠誠心が強い。そんな者を激昂させるのは簡単だ。その主であるお前を貶せばいい。冷静そうな二人のこの姿を見る限り相当に効いているようだな」


 鉤爪が首元にまで迫っているのにもかかわらず眉一つ動かさないデルフ。

 そして、大きく息を吸い込み叫ぶ。


「今だ! グラン! やれ!!」

「えっ、お前はどうするんだ!?」

「いいからやれ!!」

「ちっ! どうなっても知らねぇぞ!! 最終章第一項……」


 デルフの鬼気迫る声に折れたグランフォルは魔道書のページを捲り詠唱を始める。


 グランフォルの動きに気が付いたウェルムはその視線を魔道書に向ける。


「あれは、母上の……いや、それよりもあの魔法は……不味い!!」


 だが、もう間に合わない。


 ウェルム以外の二人は怒りでデルフしか見えておらずグランフォルの詠唱に気が付いていない。


 そして、詠唱が完了する。


「“超新星スーパーノヴァ”!!」


 途轍もなく大きな魔方陣がウェルムたちに向けて広がっていきそこに魔力が集中していく。


 そして、鼓膜が破けそうな轟音と共にその前方一面に高出力の衝撃波が放たれた。

 いや、一方向に向けての透明の爆発といった方が正しいかもしれない。


 小さな丘であれば即座に粉々にし木々も根ごと引き剥がし次第に形を崩れさせていく。


 それをデルフたちは直撃した。


 直撃した瞬間、デルフたちの姿は一切見えなくなり魔法を放ち終えたときその射程に入っていた土地には何も残っていなかった。


 地面を大きく削った跡が彼方まで残っているぐらいで完全な更地となっていたのだ。


 グランフォルは息切れしながらも魔道書を閉じることなくウラノに言葉を放つ。


「……ジョーカーを探しに行くぞ」


 殆どの魔力を使い果たしグランフォルの言葉は辿々しい。


 “超新星”は魔力量が増えたグランフォルでも全魔力に近い量を消費しなければ放てない魔法なのだ。


 ウラノはしばらく黙ったままだったがようやく出した返答は否であった。


「いえ、このままフテイルに向かいます。念のためグランさんには申し訳ないですが馬車に魔法を掛けてください」

「な、なにを言っているんだ……。お前の主君だろ! それで良いのか!?」


 ウラノは歯を食いしばりながら重々しく自分に言い聞かせるように答える。


「殿はフテイルに行けと命じられました。そして、その間は小生がまとめるようにと。確かに殿の身は心配です。ですが、殿ならば無事に違いありません」


 “感覚設置センストラップ”はデルフの言いつけで自分ではなくフレイシアに付けるようにと命じられていたためウラノにも今のデルフの安否は分からない。


 それでもウラノは断言できる。

 デルフは無事であると。


「ならば小生は殿の言いつけに従いフテイルに戻ります。いずれ殿が戻られたとき早急に事を起こせるように準備を進めることこそ殿が望まれていること」


 グランフォルはウラノの瞳を見てそれが苦渋の決断であると理解してくれたようで力を抜き頷いた。


「そうだな。あいつがそう簡単にくたばるわけがないからな。ここからの安全は任せろ。もう二度とあいつらは俺らを見つけることはできない」


 そして、グランフォルは魔法を発動する。


「フレイシア様には……後ほど報告します」


 こうしてデルフを残してフレイシアたちはフテイルに向かった。


 


 バッシャーン


 大きな水しぶきを立て身体が沈んでいく。


 流れが速く意識が朧気になりながらもデルフはここが水の中だと理解した。


 しかし、身体は一切の言うことが聞かなっておりそこから抜け出すことは叶わない。


 そして、ついに意識も途絶えその流れに身を任せた。


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