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騒乱のデストリーネ  作者: 如月ゾナ
第12章 波乱の武闘大会
159/304

第159話 開幕

 

「すごい人ですね」


 闘技場の周りの人の数に圧倒されるフレイシア。

 王城暮らしから一転して数年は経ったがそれでも人混みにはまだ慣れることができていない。


「闘技場のお披露目だからな。一目でも見てみたいと集まっているんだろうな。それにこの国にとっては初めての娯楽かもしれないしな」

「殺してはいけないルールで戦うなんてぬるすぎると思いますけどね」

「殺しありなんてしたら娯楽にならねぇだろ……」


 ぼさぼさ頭の青年グランフォルは呆れて頭を掻く。


 ちなみにこの場にはデルフとウラノはいない。


 既に出場者専用控え室に向かっておりついさっき別れたばかりだ。


 今、フレイシアたちが向かっている先は一般用の立ち見席だ。


 今回はグランフォルが言ったとおり闘技場のお披露目であり入場料は無料となっている。

 それも相まってフレイシアたちの周りには人の波が次々と押し寄せている状態だ。

 急がなければ席が埋まってしまう可能性が十分にある。


 フレイシアたちは早歩きで闘技場の中に入っていく。


「しかし、出場者の数をどうやって絞るのでしょうか」


 アリルが不思議そうに首を傾げる。


「こんなに人が集まっているということは武闘大会の出場者もそれなりに集まっているのでしょう?まさか、いつ終わるか分からないトーナメントにするとは到底思えませんし」

「ああ、そのことですか。昨日、チビから聞いたのですがもう既に選考は終わっているらしいですよ。出場者はデ……ジョーカー様たち含めて八人らしいです」

「えっ? いつの間に?」

「とは言ってもチビも知らないうちに通っていたと言っていましたが……」


 フレイシアと同じくどうやらアリルもまだ疑問が残っているようだ。


「元々、選考は何ブロックかに分けそのブロックごとに一斉に戦わせてその勝ち抜いた者たちでのトーナメントを行う予定だったらしいが……」

「……それは初耳ですね。一体いつの間に調べたのですか?」

「俺も俺で調べているってことだ。護衛って名目でサボっているわけじゃないぞ」

「ふーん。……それで他には何かないのですか?」


 じとーっとアリルは半目でグランフォルを見詰める。


 その目を見てグランフォルはここでもう何もないとでも言えば先程の感心が呆れに変わってしまうと直感したようで必死に思い出そうとする。

 そして、自分が知っていることをまとめるように呟き始めた。


「…どうやら、この武闘大会は元々軍の強さを誇示するために開かれるものであるらしく軍人が殆ど参加していたらしい。そんな大会に一般人が参加しようとはとても思わないし高らかに宣伝しているわけでもないから外から実力者が集まることもない……ああ、そうか」


 グランフォルが理解したと同時に側で聞いていたフレイシアも合点がいった。


「つまり、デ……ジョーカーたちが選考に呼ばれなかったのは……そもそも必要なかった。その選考はジョーカーたちに見合う相手を選ぶものだったから、ということですね」

「そうだな……。英雄王とまで言われているぐらいだからジョーカーの実力ぐらいある程度、最悪やばいやつぐらいまでは一目で確実に分かっているだろうしな。間違って殺してしまわないように配慮してくれたのか、自分が早く戦いたいからなのか。性格を聞く限り後者だと思うが……」


 そうこう言っている間に空いている場所を見つけてそこまで移動する三人。


 しかし、人の数が凄まじく開いているように見えたが三人が並んで立つと息苦しく窮屈極まりなかった。

 それにただ人がいるというわけではなくこれから始まる闘技大会への期待に胸を取らせて熱狂して騒いでいる人が殆どであるため尚更立ち眩みをしそうになる。


「あっ……」


 ふと、そんな声がする方向を振り向くと少し汚れているが鮮やかな洋服を着用している金髪の少女が驚いたように見詰めていた。


「あっ……」


 それに気が付いたアリルも同じように驚く。

 まさにばったりと出会ってしまった。


「知り合いですか?」

「先日、話したサフィーという少女です」

「ああ〜」


 フレイシアが納得しているとサフィーは驚いた様子から一変してそっぽを向く。


「ふんっ。逃げずによく来たと褒めておいてあげるわ! 精々、無駄な応援でもしときなさい」


 そう言い残してサフィーは歩き去って行く。


「全く本当に可愛くありませんね!」


 だが、その足も途中で止まってしまう。


 サフィーの目の先に視線を向けてみるとそこに同年代と思わしき子どものグループが立ち塞がっていた。

 その先頭にはリーダーと思わしき少年が立っている。


 この少年のことも報告から聞いておりフレイシアは先の展開がある程度読めた。


「なによ。どきなさいよ。邪魔よ」

「ふん、貴族ってのは落ちぶれた後も偉そうにしているんだな。だけどな、今にその生意気な口も叩けなくなるぜ」


 少年は自慢するように胸を張って威張るがそれに対してサフィーは冷めている。


「それはあなたの方じゃないの? フレッドの前で倒れ伏すあなたのお兄様の姿が目に見えるわ」

「ぐっ、言わせておけば……」


 苛ついている少年だがすぐに何か思いついたように口元を釣り上げた。


 それが不気味に思ったのかサフィーはたじろぐ。


「何よ……」


 すると、少年は後ろにいる仲間に目配せし大きく息を吸い込んだ。

 そして大声を張り上げた。


「おいおい、よく普通に元貴族のモラーレン家のお嬢様がここに来られたな! お前の父親がどんなことをしたのか知っているのか!?」。


 それに続いて仲間たちも笑みを浮かべながら大声を張り上げる。


 すると、その周りのざわめきがさっぱり消えてしまった。


 この闘技場の観客の大半がボワール王国の国民たちだ。

 同時にあの悪政に耐えてきた者たちでもある。


 その者たちにとって前王家に最後まで加担し続けてきたモラーレン家のことを快く思う者などいるはずがない。

 むしろ、憎らしい気持ちで一杯だろう。


 ざわめきが消えたと言ったがまた違うざわめきが生まれた。

 それはモラーレン家やサフィーに対する小言だ。


「ねぇ、あれってモラーレンの娘よね」

「ああ、あの愚王に最後まで付いていったモラーレン家だ」

「そこまでして地位が欲しかったのか。やはりあの王の下にはろくなのがいねぇな」

「俺たちのことなんか奴隷としか思っていないのだろうさ」


 そんな小言がクスクスという笑い声とともに周囲を埋め尽くす。


 小言といえども周囲の者たち全員が発してしまえば嫌でも聞こえてしまう。


 少年はしてやったりと満足げな顔をするがサフィーの表情は一切揺らいでいない。

 それがまた少年をむっとさせてしまう。


「それで満足なのかしら? それじゃそこ、どいてくださる?」


 サフィーが少年たちの間を突っ切って進みある程度のところで止まり舞台の方に身体を向ける。


 周りの国民たちはまるで腫れ物を扱うようにサフィーの周りから距離を取った。


 平然そうな表情をするサフィーだが徐にぎゅっと拳を握ったことをフレイシアは見逃さなかった。


「……二人ともここは窮屈です。場所を変えましょう」


 そして、フレイシアは移動しサフィーの隣に位置取った。


「何よ、笑いに来たの? ふん、無様だと笑いなさいよ」


 サフィーは目を合わせずに呟く。


「いいえ。そんな意味のないことをする道理はありません。ただ人が多い中ここだけが不自然に開いていたので見逃す手はないと考えたまでです。まったく良い特等席ですね。よければご一緒しても?」

「……あなたも笑われるわよ」

「ふふ、笑いたい人は笑わせておけば良いのです。さぁ、せっかくのお祭りです。楽しみましょう♪」

「……ふん、好きにすればいいわ」


 サフィーは戸惑いを必死に抑えてそう捻りだした。


 そうこうしているうちにいつの間にか現国王であるジャンハイブの演説が終わってしまい第一回戦が始まろうとしていた。


 舞台には薄い赤髪で黒スーツを着用している青年と半裸の強大な筋肉が浮き出ている巨漢が上がっている。


「フレッド……」


 サフィーが願うように手を組み目を瞑る。


 そして、姿は見えないが先程の少年と思わしき声が聞こえてきた。


「兄貴!! そんなやつ瞬殺だ!!」


 傍から見れば勝敗は既に付いているだろう。


 ひょろっとした執事に日々鍛錬を怠らずに鍛え抜いた軍人。

 見た目から明らかだ。


 周りの観客たちも消化試合だと言わんばかりに嘲笑ったような目で見ている。


 目を瞑って祈っているサフィーは小刻みに震えだした。


 それを見かねたフレイシアはぽんっとサフィーの肩に優しく手を乗せる。


 サフィーは目を開け不思議そうにフレイシアに目を向ける。


「な、なに……?」

「あなたは彼の主なのでしょう?」

「え、ええ。そうよ」

「なら、自信を持って目を離さずに焼き付けるのです。それがあなたの使命ですよ」


 最初は文句で言い返そうとしたサフィーだがフレイシアの真剣な眼差しに虚を突かれて押し黙ってしまう。


 そして、フレイシアはにこっと微笑む。


「いいですね?」

「……はい」


 こくりと素直に頷くサフィー。

 その光景だけを見るとあの生意気な様子は全くなく本当に素直な子どもの姿だった。


 それを見てアリルは唖然としていた。


「あの生意気なサフィーがこうも大人しく……。さすが、デルフ様が主と仰ぐ御方です」


 そして、戦いのゴングが鳴らされ試合が始まった。


 先に動いたのは屈強の戦士だった。


 一発でも当たれば失神は免れないような大振りの拳を何度も振り抜く。

 しかし、フレッドも負けていなくそれを巧みに躱し続けている。


「隣がうるさいですね」


 アリルは顔をしかめる。


 それもそのはず、隣では少年が周りを気にせず大声を出して兄を応援していたからだ。

 所々にサフィーとフレッドに対する悪口が入っていることにもアリルは苛ついているようだった。


(なんだかんだ言っていましたがアリルはサフィーのことを気に入っているのですね。年の差は随分と離れていますがまるで姉妹のようです)


 思わずフレイシアは微笑んでしまう。

 どうやら、それがアリルにばれたようでぶすっと顔を背ける。


「サフィーを庇うわけではありませんがあなたに比べればあの少年の方が生意気ですからね。是非とも早急に勝ってもらって黙らして欲しいだけです」

「ふんっ。今に黙るわよ」


 調子を取り戻したサフィーがそう言う。


(ふふ、本当に仲が良いですね)


 そのサフィーの言葉通りに早くも戦闘は佳境を迎えていた。


 一見すると押しているように見える戦士だが躱し続けているフレッドには一切の痛痒は見えなかった。

 むしろ、戦士の方が焦りが顔に出ており体力も限界が近い様子だ。


 それでもフレッドは舞台の端まで追い詰められてしまった。


 しかし、全く追い詰められたように見えないフレッドの姿に思わずフレイシアは息を漏らす。


 息を切らした戦士がフレッドに目掛けて手刀を振り下ろしたとき全てが終わった。


 フレッドは自身の倍近くある大きさの拳を受け止めたのだ。

 衝撃により身体が吹っ飛ばされることなくまさにその全てを受け止めた。


 それで終わりではなく一本背負いで戦士を舞台の地面に叩きつけるまで見せた。


 その光景に観客全員は呆然としており言葉が出ていない。


 戦士は痛みに悶えているがまだまだ戦闘は続行できるダメージだ。


 フレッドも重々承知しているようで既に次の攻撃の態勢に入っていた。

 そして、無防備になった戦士の鳩尾に拳を放つ。


 その衝撃は凄まじく戦士の身体を突き抜けて地面を罅入れた。

 さらにはフレイシアのところまで風圧となって届いてきたのだ。


 その凄まじさに死んでしまったのではないかとフレイシアは過ぎったが戦士はびくびくと痙攣しており最悪は免れたようで一先ず安堵する。


 ふと、隣を覗いてみると唖然としている少年と目を輝かせているサフィーが目に入った。


 そして、試合終了のゴングが鳴り響く。


 フレッドは乱れた服装を正して顔をあげ予めそこにいると分かっていたかのようにすぐにサフィーの姿を発見したようで微笑んで手を振っている。


 サフィーは頬を赤らめて恥ずかしそうに手を振り返した。


「良い臣下ですね」

「ええ、私には勿体ないぐらい……」


 少し涙ぐんでいるサフィーにフレイシアも微笑んだ。


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