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騒乱のデストリーネ  作者: 如月ゾナ
第10章 武士の国
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第135話 勝利の宴

 

 本陣に戻ったデルフはアリルを抱えたまま足早に司令部まで向かう。


 そこには国王であるフテイルに軍師であるタナフォス、侍大将であるサロクが座っていた。

 その隣にはナーシャとフレイシアも座っている。


 前線で戦っていたサロクとナーシャたちは顔色から分かるほど疲労しておりサロクとナーシャに至っては満身創痍の様子だ。


 フレイシアは机に突っ伏しており微かに寝息が聞こえてくる。


「デルフ、いや、ジョーカーだったな。すまない、まだ言い慣れぬもので」

「別にいいさ。ここにいる者たちは皆知っているからな。ただ外では止してくれ。俺も極力は目に付かないところにいることにしているが」

「承知した。……改めて此度の助太刀、まことに感謝いたす」


 そう言ってタナフォスは頭を下げる。


 デルフは眠っているフレイシアに顔を向けた後、すぐにタナフォスに目を向ける。


「気にしないでくれ。第一、俺の主君が前に出ていったからな。協力国だけに戦わせるのは気が引ける」


 デルフはそう言った後、再びフレイシアを見る。


 するとフレイシアが突然立ち上がった。


 いきなりのことにデルフはびくっと反応してしまう。


「完全回復です!! もう大丈夫です!!」


 フレイシアはすっきりとした顔を見せて当たりを見渡す。


「お姉様! お待たせしました! 怪我を見せてください」

「いえ、私よりもアリルちゃんとウラノちゃんを先に見てあげて」


 そこでようやくフレイシアはデルフの存在に気が付く。


「デルフ! 帰ってきましたか! 怪我はありませんか?」


 元気よく捲し立てるフレイシアに身じろぎしてしまう。


 デルフはなんとか平静を保ち返答する。


「はい。私よりもこいつらを見てやってください」


 デルフはアリルと側に控えているウラノを前に出す。


「これは大変!!」


 そして、フレイシアは治療に入った。


(陛下が徐々に姉さんの性格に染まりつつあるな……)

『しかし、こちらの方が見ていて楽しいがの』


 それでも王としての立ち振る舞いは忘れて欲しくはないとデルフは願う。


「申し上げます!」


 そのときこの場に伝令の一人が入ってきて跪いた。


「大義。近う」


 フテイルがそう言うと伝令は側までより耳打ちする。


 伝令が退室していくとフテイルはタナフォスに目を向けて一回深く頷いた。


 タナフォスはフテイルが言わずとも分かったようで一礼するとデルフに目を向ける。


「デストリーネ軍は完全に退却したようだ。我らも速やかに撤退する」


 そう言ってタナフォスは表情を和ませる。


「到着次第、宴を開く予定だ。その折りに此度の話聞かせてくれ」

「分かった」


 そして、フテイル軍の退却が始まった。




 フテイルに到着したデルフたちはその日の夜に宴が開かれることとなった。


 鮮やかな着物を着用しおめかしをしたナーシャが上座に座りすぐ隣にはフレイシアが座っている。


 フテイル、タナフォス、サロクも席に着いておりデルフたちも大広間に案内されそのまま席に座った。


 フレイシアに治療されて目覚めたアリルは気絶していたという失態に深く気落ちしてこの場に来てからも俯いたままだ。


 デルフはよく頑張ったと褒めたが自分の中ではかなりの失態だったようでこれ以上はデルフの口から何を言っても責めていると受け取られかねない。


 時間が解決してくれると祈るばかりだ。


 ウラノはと言うとアリル程ではないが修行不足だと落ち込んでいる。


(この宴で気が晴れれば良いが。まぁ自分たちの欠点を認識できただけでもこの戦いは儲けものだな)


 デルフたちの後ろには約百名の武将たちも座っており大宴会となっている。

 城下街にも酒や食料を振る舞っていた。


 タナフォス曰く、勝利の宴よりもフレイシアとの協力関係を結んだことを盛大に祝うためのものらしい。


「えー皆さん。今回はお集まりくださって本当にありがとうござます」


 妙に畏まっているが言葉を噛んでいるナーシャにデルフは首を傾げる。


(まさか緊張しているのか……いや、それは考えづらいか。そうだとするとどこか分からない小娘がいきなりフテイル様を置いて場を仕切るのは忍びないと言ったところかな)


 だが、そろそろ限界が来るだろうなと思ってナーシャを微笑の目で見詰める。


「そうですね。今回の戦い並びにフレイシア陛下との……ええい! 面倒くさいわ! コホン、さぁ、皆! 今回の戦いよく頑張ったわ。大いに飲んで騒いで戦場の泥を落とそうじゃない! 勝利とフレイシアとの強固な絆を結べたことを祝してー、乾杯!!」


 そして、宴が始まった。


 あの屹然としていた武将たちが酒を飲み笑いながら騒ぎ始める。


 隣でナーシャの音頭を聞いていたフテイルも酒を飲みながら爆笑している。


 だが、それに対してデルフの隣にいる二人は変わらずに静かだった。


「おい、お前たち。落ち込むのは後にしろ。その空気はこの場には合わないぞ」


 そう言ってアリルとウラノの二人の盃に酒を注ぐ。


「飲めば気も晴れるさ」


 そう言って酒を勧めると二人は顔を見合わせた後、ゆっくりと盃を手に持った。


「殿の酌を断るわけには参りません」

「デ、デルフ様が……僕に……」


 そして、二人は一気に盃を傾けた。


 それを見てデルフも安心し自分も酒を呷る。


(まぁ、酔えないけどな)

『しかし、この様を見ていれば雰囲気だけでも酔えそうじゃがの』

(確かに、な)


 デルフは微笑しながら水としか感じない酒を再び口に含んだ。


 そのとき隣からいきなり大声が耳に響いてきた。


「おい! チビ! 僕の盃が乾いてますよ! さっさと注ぎなさい!」


 何事かとデルフは横を向くと顔を真っ赤にして視線が定まっていないアリルがウラノに迫っているところだった。


「アリル……あなた酒に弱いなら先にそうと……」

「うるさいです! 早く注げと言っているでしょ!!」


 そう言ってアリルはウラノを羽交い締めにした。


「痛い痛い!! 関節が! あなた……弱いだけじゃなく絡み酒ですか! めんどくさい!」

「あは、あははははは!! 痛い! 痛いだって!!」


 ウラノは力を入れてようやく抜けだした後、溜め息をついている。


「笑い上戸まで……」


 だが、アリルの快進撃はまだ終わらない。


「なんですか……その仏頂面は!」


 爆笑しているアリルは突然笑いを消してウラノにのし掛かった。


「ぐわっ!」


 ウラノも少し酔いが回ってきたようで上手く身体が動かなくそのままアリルの下敷きになった。


 アリルの下で抜け出そうともごもご動いているが上手く力が入らないようで全く抜け出しそうにない。


 デルフはそんな光景を微笑ましく思いながらも自分に矛先が向くのを恐れてばれないように立ち上がる。


「殿…。小生を置いて……逃げるのですか……」


 そんなデルフの動きにいち早く気が付いたウラノの声がアリルの下から聞こえてきた。


「……頑張れ」


 デルフは少し考えるがアリルの顔がこちらに向きそうになったので早口でそう答え一目散に去って行く。


 デルフが逃げた先はナーシャが座っている上座だ。


 ナーシャが近づいてくるデルフに気が付いたようで隣に来いと手を招いている。

 すぐ隣にはフレイシアがナーシャの乾いた盃に酌をしていた。


 本当はタナフォスと相談をしたかったのだが大事な姉に呼ばれては断るわけにもいかない。


「お姉様、飲み過ぎですよ」

「いいのいいの。今日ぐらいは久しぶりだし。ほらあなたも飲みなさい」


 そう言ってナーシャはフレイシアに酒を渡し飲ませる。


 フレイシアは一気に飲み干してしまう。


「フレイシア、あんた強いわね〜」

「まぁ……勝手に解毒魔法が働いて少しの間しか酔えないのですよ」

「なにそれ〜融通が利かないのね〜」


 顔が真っ赤になっているナーシャはデルフに視線を向け酒を注ぎながら口を開く。


 その表情はどこか寂しそうだった。


「デルフ、あなたはいつまでこの国にいるの?」

「この国の当面の危機は去ったから少し経てば出ようかと考えている」

「そう。じゃあ、そのときにはお別れね」

「そう寂しそうにしないでくれ。一生会えないわけじゃない」


 ナーシャはデルフ以外の誰にも聞こえないような小声で呟く。


「私、まだ不安なのよ。本当に王様になれるか。皆ちゃんと私に付いてきてくれるか……。ちゃんと変われるか不安なの」

「変わろうとする必要なんかないよ」

「どうして?」

「姉さんは今やこの国の主。自分に自信を持ちドシッと構えておけばいいんだ。つまり今のままでいいんだよ。王様の雰囲気や態度なんて言うのは知らずの内に身につくさ」


 ナーシャは何回も頷いて笑顔を見せる。


「そうね……。そうよね! 分かったわデルフ!」

「それに姉さんにはこの国をさらに大きくして欲しいんだ」

「……またいつもみたいに待っているだけかと思っていたんだけど私にもできることがあるのね」

「ああ、もちろん」


 そのときナーシャがデルフに抱き掛かってきた。


「姉さん!?」

「私……頑張るから。デルフも無事でいてね……お願い」

「分かった。俺としても夢半ばで倒れるのは御免だからな」


 デルフもナーシャを抱き返す。


「すーすー」

「寝てしまったか」

「だからお姉様、飲み過ぎと言いましたのに……」


 そして、側に控えていた女中にナーシャを預け寝室に運ばせる。

 フレイシアもナーシャを介抱するために付いていった。


 よってこの場はフテイルが仕切ることになった。


「ワハハハ。流石、エレメアの娘じゃ! 嵐のように去って行ったわ」


 デルフはそう言うフテイルに顔を向ける。


「フテイル様、何回もしつこいようですが何卒姉をよろしくお願いします」


 デルフはその場に正座し深々と一礼する。


 フテイルは盃になみなみと入った酒を一気に呷った。


「ぷはぁ……。お主も心配性よのう。うちのタナフォスによく似ている。じゃが、その誠意に応えて改めて返答しよう」


 フテイルは口を止め姿勢を正し再び口を開く。


「お主の申し出、しかと受け取った。このフテイルの命ある限り支えると約束しよう」

「ご厚意感謝いたします」


 顔をあげるとフテイルが皺だらけの顔でにかっと笑っていた。


「この際じゃナーシャが即位するところを見ていくといいじゃろう。タナフォス!」

「ハッ。早急に段取りを整えます」


 側でデルフたちのやり取りを見ていたタナフォスがその場で頭を下げる。


「そうですね。姉の晴れ舞台……見逃すわけには行きませんね」

『姉思いじゃのう』


 ここ返事するのは恥ずかしいのでリラルスの言葉は無視する。


 フテイルと話しているとタナフォスがデルフに近づいてきた。


「デルフ。ああ、案ずるな。この場にいる者はそなたの正体は気付いている。それと同時に箝口令を敷いている。この場に口外する者などいたりせぬよ」


 そう言われるとデルフとしては特に言うことはない。


「それでなんだ?」

「そなたと少し話をしようと思ってな」

「丁度良かった。俺もそうしたいと思っていたんだ」


 タナフォスは微笑しながら頷き当たりを見渡す。


「場所を変えるか。この場ではせっかくの賑わいに水を差してしまう」

「そうだな」


 タナフォスとデルフは少し席を外すとフテイルに言い残してタナフォスの執務室に向かった。

 部屋から出るときフテイルの騒ぎ声が聞こえてきて驚いて二度見してしまったことは否めないだろう。


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