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騒乱のデストリーネ  作者: 如月ゾナ
第8章 一時休戦
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第107話 王国の現状

 

「それで、王都の状況はどうなっておったのじゃ? あのような暴動を簡単には治められるとは思えんのじゃが」


 しかし、ウラノが口にしたのはリラルスの考えとは正反対だった。


「いえ魔物を操ることで民たちの混乱は沈静化、早くも王都の復興が始まっていました」

「それは……本当か?」


 リラルスは壁にもたれていた背中を上げて恐る恐る尋ねる。


「はい。ジュラミール様が王位に付き先導することで民たちの不安もなくなっている様子でした。」

「お兄様が……」


 リラルスは少し考えた後、口を開く。


「今まで籠もりきりだった者が王となってそううまくいくものか…」

「安全と思っていた王都があんなことになったのだもの。皆、藁にも縋る思いだったのじゃないの?」


 ナーシャがそう言うがそこでウラノが口を挟む。

 その表情から後ろめたさをリラルスは感じ取った。。


「い、いえ。それが魔物の襲撃、ハイル陛下とフレイシア様の暗殺など全ての罪は……殿に被せられました」

「なんじゃと……いや、そうか。そのためにデルフの精神を破壊しようとしておったのか。傀儡となったデルフの首を民たちの前で跳ねるために」


 恐らくと言うようにウラノは頷く。


「殿を退けたジュラミール様とその配下たちの実力がそのまま王国の救世主としての信頼にへと変わっているのは確かです。そして、殿は反逆者ジョーカーとして各国にも人類の敵と手配されているようです」


 ジュラミールの配下が天騎十聖(てんきじゅっせい)と称しているとウラノは付け加えた。


「天騎十聖。粋な名前を付ける。十中八九、ウェルムたちであろうな」

「ちょっと待って。フレイシアは生きているじゃない。それにそんなこと皆信じちゃうの!?」


 しかし、フレイシアが生きていることを知られていないのはリラルスとしては僥倖であった。


 “再生”を持つフレイシアが生きていることを知られれば死に物狂いで捜索を始めるはずだ。


「確かに受け入れるのが早すぎるのもあるが……それはジュラミールの手腕よるものだと考えることができる」

「先日、王都にて復興を始める前に陛下とフレイシア様の壮大な葬儀を執り行ったようで……。復興に関しても国からの援助金が多く出ているようです」

「よくもぬけぬけとできるものじゃ」


 リラルスは溜め息交じりに言う。


「それじゃ、今すぐ出て行ってフレイシアが生きていると触れ回り嘘つきだって言ってやればいいんじゃないの?」


 そのナーシャの案をリラルスはすぐさま否定する。


「それは愚策の中の愚策、奴らの思うつぼじゃ。もし民たちが信じている理由が魔法による洗脳の場合、私らの言葉は届かぬし。ウェルムは戦えないとしてもこの戦力では勝つことは不可能じゃ。それにフレイシアが奪われでもすればもはや立て直しすら不可能になる」


 今動くデメリットは考えれば切りがないほど出てくるのだがメリットは数少ない。

 勝算はほぼ皆無だと言えるだろう。


「それもそうよね……」


 納得したナーシャはすぐに引き下がった。


「それとケイドフィーア様の予測とは違い戦争準備も進められているようです。魔物が続々と王都に集められています」

「そうか。そうなると洗脳の線が濃くなったのう。民たちがそれ見て正気でいられるとはとても思えん」

「はい。それにもう一つ分かったことがあります。魔物を操れるのはウェルム殿お一人ではないことです」


 ウラノの発言によりリラルスもそれに気が付く。


「良く気付いたのう。確かに…それは厄介じゃ。ケイドフィーアの話が正しければウェルムは一年は魔力が使えないはずじゃ。魔物が動かせるとなると動くのは早いか? いや、今は王都の立て直しに力をかけたいはずじゃ。あやつらもそこまで焦らんじゃろう。しかし、念のため動向は引き続き追ってくれ」


 そして、ウラノは次の報告に移る。


「既に一、二、四番隊は王都に入っています。五番隊は見かけていません」


 ウラノの発言が疑問に思ったリラルスはすぐさまそれを尋ねる。


「三番隊はどうなのじゃ?」


 それに対するウラノの返答はまたもリラルスの想像を超える物であった。


「三番隊は……新部隊として新たに発足していました」

「ど、どういうことじゃ?」

「元の三番隊はなかったことになり新しく作り直されたのです」


 リラルスは少しの間、言葉が出なかった。


「五番隊は作り直されていないのか?」

「少し王城に忍び込みましたが確認はできませんでした」

「そうか、ならば今ある隊を無視して作られたわけではないのじゃろう。それが意味することは…」

「既に三番隊は……」


 ウラノも同じ結論に至りリラルスの言葉に補足した。


「そんな……」

「嘘……」


 ナーシャとフレイシアも三番隊に少なくはない思い入れが衝撃を受けたようだ。


「大体は分かった。ウラノ、今すぐ挑戦の森へ向かってくれ。本当に三番隊が壊滅したのか知りたい」

「了解しました」


 そして、ウラノは祠から出て行った。


 いまだ呆然としているナーシャたちを見てリラルスは手を叩き正気に戻させる。


「取り敢えず、食事にしようか。腹が減っては消極的になってしまうからのう」

「わ、わかったわ」


 そう言ってナーシャはいそいそとウラノが調達してきた風呂敷に入った食料を漁り始める。


 フレイシアはようやく落ち着ける時間が訪れ今までの出来事を思い出したのか深く気落ちしてしまっている。


 無理もない。


 実の兄が父を殺しさらに自分の命まで奪おうとしてきたのだ。

 とてもじゃないがすぐに落とすことはできるとは思えない。


 しかし、リラルスはそれを承知でフレイシアに声を掛ける。


「フレイシア、今聞くのは少々酷かもしれんが……お主はどの道を選ぶ?」

「……道とは?」


 しかし、リラルスは少し考えゆっくりと首を振った。


「……そうじゃの。これは私が言うべきことではないの」

「?」

「まだ考える時間は十分にある。自分がどう動きたいか考えていた方が良いじゃろ。私から言えるのはこれぐらいじゃ」


 フレイシアは不思議そうに首を傾げる。


 だが、リラルスはこれ以上なにも言わない。


(ここから先は私の役目ではない。フレイシアの騎士であるデルフの役目じゃ)


 そしてリラルスたちはこれからこの祠を隠れ家として過ごし続けた。


 その目的はデルフの復活。


 その中、ウラノの報告により挑戦の森にて所々魔物に食い散らされた騎士たちの死骸が発見されその奥では隊長であるガンテツの亡骸が見つかったとあった。


 持っていた刀は折れ、身体の殆どが粉砕されていたらしい。


 致命傷として鳩尾が人の拳ぐらいの大きさに貫通していたとあった。


 しかし、騎士たちの死骸はあったもののその数は総数よりは数少ない。


 リラルスは隊長として総崩れを防いだガンテツを讃え静かに黙祷した。


 だが、逃げ延びた三番隊の消息は分からないままであった。


「不幸は続くものじゃな」


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