注目の的
遂に夏休みが終わり新学期が始まった。その日の帰り道、芽依は一緒に帰っている凛に心配されるほどに疲れていた。内向的で完全インドア派の芽依は、クラスメートと夏休み中に交流することが無かったので、今日一気にお祝いの言葉を受けたのだ。しかも魔法競技への関心が高い学校だけに、一躍学校中に芽依の名前が知れ渡ってしまい、半日間見世物にされたのだ。
「意味が分からない。私を見てて何か楽しいか」
「まぁまぁ。校長先生も言ってたでしょ。創立以来の快挙だって。それに1年生での優勝って本当に稀なんだよ。だからまあ2、3日は我慢しようよ。それでもこんな感じなら先生に言って何とかしてもらえばいいじゃん」
「もう次は出ないようにしよう!」
芽依のそんな宣言を聞きながら凛は、変なところで押しの弱い芽依が学校の期待を一身に背負ったときにちゃんと断れるとは思えなかった。しかしそれを口にすることはせず、
「そうだね」
優しい笑顔で同意するのだった。
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第2王子の活躍により魔獣たちの異常発生は減少傾向にあった。ただしその魔道具は迷宮内にはさほど影響力を示さないのか、今回メイリーが達成した依頼などの、迷宮の氾濫が各地で起こっているようであった。
「という事で王都の冒険者たちも各地に派遣しているのが現状なんです。そういうこともあって、本来ならもう少しランクが高い冒険者さんたちに依頼する『下水処理場』の氾濫にE、Dランク主体のチームに依頼をした訳なんですよ」
鼠の魔獣の大半は小型であり、倒すだけならばEランク以上の実力を持っていれば容易い。しかし今回の鼠たちは毒や呪いを使ってくる。そういった魔獣を相手にするならば、そういった攻撃に対する耐性をスキルや装備にて備えている冒険者が適任である。
しかし各地に冒険者を派遣している現状ではそんな余裕もなく、フットワークの軽いBランク冒険者のメイリーを監督させ、依頼をこなしてもらったのだと言う。
「という事でメイリーさんには今後ともバシバシ依頼をこなして頂きたいですね」
「まあ私の興味がある依頼ならいいですけどね。今日は無さそうなのでこれで帰ります」
「ええっ!そんなこと言わずに、えーと『新緑竜の討伐』なんてどうですか?」
「新緑竜は基本おとなしく争いを好まない性格をしています。その依頼を出した人が何か悪さをしたのでは?それになにより新緑竜は中型魔獣くらいで、分類上亜竜ですよね?今はもっと強敵と戦いたい気分なので。それにちょっと新しい魔法を覚えるようと思っていて予定があるので」
「ま、待ってくださいよ。新しい魔法って…」
引き留めるレレナを置いてメイリーは帰ろうとする。しかし依頼が溜まっている現状でメイリーをただで帰すわけにはいかない。そのため会話を引き延ばしに掛かるレレナ。しかし、
「神聖魔法ですよ。それでは」
「神聖魔法ですか…ってえっ?ちょっと本当に待ってください!」
会話の引き延ばしに失敗し、更に教会と険悪な関係の筈のメイリーが神聖魔法を覚えるという、大胆な発言で更に混乱してしまうレレナであった。




