父さんの真実
結局、夏休みが終わるまで天童家にお泊まりしてしまった芽依であったが、昨日家の回りを見に行けば記者たちも芽依への取材を諦めたのか、記者たちの姿は無くなっていた。
「これで家に帰ってじっくりゲームができる」
「明日から新学期だよ。それに私の家でもちゃんとゲームしてたよね!やってること芽依の家でも私の家でも変わらないよね?」
「そんなことはない」
雑談をしつつ帰る準備を整える芽依。その時芽依の端末に着信が入る。差出人は義妹の聖からであった。内容を確認すると記者たちが自分の方まで取材に来たということ、そしてと言うことはおそらく義母さんにも取材が行っている可能性が高いから気をつけてというものであった。
(そうか。私から話が聞けなかったから他に行ったのか。まあ義母さんにこれ以上嫌われようが困らないからいいけど、あんまり義母さんに此方に注意を向けられるとアレがバレる可能性があって嫌だな。聖もその心配をしてくれたんだろうし)
元々義母さんは金目当てで芽依の父さんと結婚した。そして自費販売し売れずに会社が倒産したのを見て、父さんを見限り貯金を持って離婚した。これが義母さん視点からの事の顛末である。
しかしこれはそこまで単純な話ではない。根本から言って父さんの会社はゲーム会社の中でも、ゲームを販売するのではなくゲームのプログラム等の技術を他の会社に売る会社である。しかも新技術をどんどん開発するような会社だ。ゲームを自費販売して全く売れなかった程度で倒産するほど柔な会社ではない。
では何故倒産したかというと、自分たちの渾身のゲームが売れなかったことに拗ねた父さんたちが、自主倒産したというのが真相である。元々小規模な会社であるし、父さんを含め個々人で特許を取ったり、副業をしていたりする人たちが多く、一時的に会社が倒産しても、そこまで困る社員がいなかったからこそできる荒業なのだが。
(やってること学生みたいだから、知らなきゃ分からないと思うな。でもこれを知られると義母さんが面倒なことをしてくる可能性がなぁ)
こんなことを知らない。というかおそらく特許の件も御存じない状態の義母さんであるが、父さんが失踪している、しかも貯金は全部持ち逃げした。なのに芽依が『魔法演舞』で大活躍。という状況を考えれば何処かに資金源があることは分かってしまうだろう。少し事情に詳しい記者に聞けば真相に辿り着いてしまうかもしれない。
そうなると特許を寄越せくらい言ってくるかもしれない。最悪なのはまだまだ父さんが金を産めると分かり再婚してくる可能性だ。そうなると芽依の未来は絶望でしかない。
(私も多少活躍しちゃったから、前は落ちこぼれの芽依ちゃんで済まされたけど、今度は教育ママの矛先が此方に向くかもしれない。イコールゲームの時間が大幅に減る。最悪だな)
結局芽依の考えていることはそこなのだが、義母さんが帰ってきてもこなくても、面倒事になる予感に辟易する芽依なのであった。




