組合長との会談 前
メイリーの屋敷にはその日から何通もの手紙での呼び出しが届けられた。しかしメイリーはそれを悉く無視した。別に呼び出しに応じるのがどうしても嫌だ、と言う訳では無いのだがわざわざ応じてやる義理もまた無い。それに緊急の呼び出しならば、強制依頼という形を取る筈であり、それならばメイリーも無視はできない。
しかしそれをしないと言うことはこれが組合長の個人的な用事であることが分かるので、無視しても概ね問題は無いとメイリーは判断したのだ。しかしそれは規則上問題が無いと言うだけで、その行為が許されていると同義では無い。メイリーのこの行動は組合長側に呼び出す大義名分を与えてしまった。遂に組合長はメイリーに対して、何度も呼び出しに応じないことを理由に強制依頼と称して呼び出しをしてきたのだ。
(どうせ呼び出すなら最初から強制依頼で呼び出せばいいのにな。別に結果は変わらないのに)
と回りくどいことは嫌いなメイリーは思いつつ、メイリーは今度こそ組合長の呼び出しに応じるのだった。
冒険者組合に行くと組合長の執務室へ通された。途中で吃驚しながら事情を聞きたそうにしているレレナに遭遇したが、彼女の上司にあたる人物がそれを遮ってきたので、彼女には諦めて貰った。執務室に入るとそこには中々鍛えられた体躯をした中年男性が座っていた。
(この人が王都冒険者組合の組合長かな?)
しかしその男性は何らかの仕事をしているようで、メイリーの方を見もしない。そのためここまで連れてきてくれた受付嬢に目線で尋ねると、部屋の中央に配置されているソファーに座るように指示されたため、組合長を待つことになった。
しかしどれだけ待っても組合長の仕事が終わる気配は無い。それどころかこちらに対して一言の謝罪すら無い。そのため受付嬢に後日で良いか尋ねると、もう少しで終わるから待っているように言われたので仕方がないので待つことにするのだった。
組合長側からのメイリーの印象は、自由気ままな子供である。そのため手紙での呼び出しでは応じないことも想定していた。それを含めてこちら側が有利に話が進められるように策を練っていた。呼び出しておいて待たせたのもその一貫である。これでメイリーが怒って出ていけば、依頼を拒否したと見なせるし、組合長に怒りをぶつければこちらは待ったのにという理由で、更にこちら側が有利になれる寸法であった。誤算があったとすればメイリーが何を言うでもなく、ただじっと待ち続けてしまっていることであった。
(何故だ。今までの行動から彼女は自由を奪われて拘束されるなんてことを一番嫌うはずだ。直に日が暮れる。これ程待たせているのに文句の1つも言わない。何故だ?)
メイリーは受付嬢に問い掛けて以降、一言も発言することなく、何か考え事でもしている様子であった。
Bランク冒険者を強制依頼で呼び出して半日近く無為に過ごさせた。このままでは手紙での呼び出しの負い目がチャラになるどころか、こちら側が借りを作ってしまう結果になるだろう。少し焦りを滲ませながら、漸く組合長、クダンがメイリーに話し掛ける。
「いや、待たせてすまない。漸く仕事が片付いた」
「…ああ、お疲れ様です。ちょうどゆっくり考えたいことがあったので気にしなくていいですよ」
メイリーの声に怒気がない。本当に気にしていない様子だ。これでは今までの行動からの印象とまるで別人である。話が長引けばこちら側が不利になると思ったクダンは、早速本題に入ることにした。
「呼び出した用件だが、まず『宝竜の迷宮』で宝竜を討伐したな?これはクリーア領の冒険者組合で君が『宝剣』を売却したという報告を受けているので、確認がとれている」
「はぁ。まあそうですね。宝竜なら倒しましたよ」
「…どうやって倒した?」




