魔除け結界
トレントとの生息域は建造物に使う上で適した木材の宝庫であり、王都やその周辺都市にとっても大切な場所の1つであった。そのためトレントの間引きは定期的に行われていたが、それにしてはトレントの異常発生に加えて、エルダートレントの出現。その後メイリーが調査したところ、他にも数体のエルダートレントなどの上位の植物系魔物が多数確認できた。
やはりここら辺の地域も魔獣や魔物の異常発生の影響が出ているのだろう。そのためその旨を組合に報告したメイリーたちには、依頼とは別途で報酬が支払われる事となった。流石にメイリーの討伐したエルダートレントなどの討伐報酬が支払われることは無いが、情報料など色々だそうだ。また組合の評価点にも加算されると言う話であったので、
「私の依頼は補佐役なので、評価とか報酬とかは『悠久の風』に渡してください」
と言ったところ元々の評価点や今回の依頼などを諸々合わせたら彼らは晴れてEランクへ昇格したようで、次の日に全員で報告に来た。そして彼らのリーダーであるアレンが代表してメイリーに問い掛ける。
「何で手柄を全部、俺たちに譲ってくれたんだ?エルダートレントにしても森の異常事態にしてもあんたが貰うべき報酬じゃないか?」
まさかそんな質問をされるとは思っていなかったメイリーは、少し考えて言葉を選ぶ。
「手柄を譲ったつもりはない。私は補佐役として十分な報酬を貰った。それ以上の報酬を貰うつもりは無いから。迷惑なら謝っておくけど?」
「いや、迷惑なんてとんでもない。しかし何故報酬を受け取らないか聞いてもいいか?」
「…報酬を貰いすぎれば借りが生まれる。それは私が冒険者として行動する上で邪魔になる。私は地位や名誉や金が欲しくて冒険者やってる訳じゃないので、自由に冒険するのに冒険者が適してるから私は冒険者なの。まあ別に納得してくれなくていい」
そう言い残してメイリーは立ち去っていくのだった。新人冒険者たちからの羨望の眼差しを受けながら。
メイリーはそれから4、5日間、本来とは異なる生息域に発生した魔獣の討伐などの依頼を、レレナに頼んでできる限り強い魔獣がいる確率の高い物を選んで受注した。空間魔法により各地に即座に移動できるメイリーは、現在人手不足の王都の冒険者組合において大活躍であった。
しかしそんな忙しい生活もどうやら終わりそうであった。魔獣や魔物を沈静化し、異常発生を抑える魔道具である『魔除け結界』を張る装置が、宮廷魔道技師たちによって開発され、設置されるたらしい、との一報が流れたのだ。しかもその魔道具の製作の立役者が第2王子であるリュートとのことであった。
その効果なのか魔獣討伐の依頼は徐々に減り出し、メイリーが飛び回る必要が無くなってきたのだった。
(はぁ。まあ好きなことに時間が割けると考えれば良いことか。強い魔獣が探しやすいから異常発生は好ましかったのだが)
そんな事を思いながらメイリーが自身の屋敷に戻ると、するとシルキーのドライが帰ってきたメイリーを見つけて近づいてくる。
「えーと、ドライ。どうかしましたか?今日の魔力補給は済ませた筈だけど?」
「てがみきた」
「手紙?誰から…組合からだ」
「くみあいからだ」
組合から手紙が来ることは別におかしなことではない。遠方で仕事をする機会の多い物などには手紙で呼び出すこともあるだろう。しかしメイリーは今日も組合に行っている。もし用件があるならその時に言えば良かっただろう。
しかしそれをしなかったということは、何個か理由が考えられるが一番ありそうなのはメイリーの担当をしてくれているレレナには伝え難い。もしくは何らかの不都合があるのでメイリーに直接伝えに来たということだ。
(考えすぎかな?手紙の内容は…呼び出しか。えーと、組合長直々に私を呼び出すのか。やっぱり大事になりそう)
メイリーはこの手紙について色々と考えた結果、取り敢えず呼び出しを無視することに決めるのだった。




