魔樹討伐 前
メイリーが依頼を受注した次の日、レレナの元に5人の若者たちが訪れた。彼らこそ今回メイリーが補佐する冒険者パーティー『悠久の風』の面々であった。剣士、重戦士、修道士/モンク、魔法使い、弓使いと、前衛後衛のバランスが良いパーティーである。彼らの中のリーダーである剣士アレンがレレナに話し掛ける。
「やっと俺たちの補佐役が決まったって聞いたんだけど」
「はい。決まりました。期限ギリギリになってしまいましたけど漸く」
「まあ本当なら補佐なんて必要ないから、期限切れになってくれても良かったんだけどな。まあ今回はレレナさんの頼みだから引き受けたんだけど」
「ありがとうございます。」
若干の色目を使ってくるアレンにレレナは内心、苦笑いを浮かべながら対応する。組合の規則により自身のランクの1つ上か1つ下の依頼しか受けられないのだが、これには抜け道が存在する。それこそがパーティー制度なのだ。悠久の風のメンバーは全員Fランクの新人である。そのため本来はDランク相当の依頼であるトレント討伐は受注できない。しかし彼らがパーティーを組んでいるため全員合わせてEランク冒険者相当という扱いとなり、依頼が受けられるようになってしまうのだ。
それには良い面も勿論あるのだが、自分達の力量を過信しすぎて死亡する冒険者も後をたたず問題となっている。
「それで俺たちの補佐をしてくれる奴ってのは誰なんですか?確か話だとCランクかDランクの冒険者に頼んでみるって言ってたと思うけど?」
「はい。なんと今回はBランクの冒険者の方が依頼を受けてくれることになりました」
「へー、Bランクか」
そこまでの驚きを見せない『悠久の風』たちからは、自分たちの強さへの自信が窺える。Bランクを遠い存在と捉えていないのだろう。
「それでその冒険者の名前、」
「レレナさん。おはようございます」
「メイリーさん!ちょうど良かった。紹介しますよ!」
会話を遮るように組合に入ってきたメイリー。レレナの言葉で彼ら全員が彼女に注目するのだった。
レレナから依頼の説明を受けたメイリーはアレンたちと一緒にトレントが出現している地域に出発した。いつもは空間魔法か飛行魔法で移動するメイリーだが、今日は彼らに合わせて乗合の馬車で目的地まで行くことになった。
(乗合の馬車なんて初めて乗ったな。何か冒険者らしいな)
意外にテンションが高まるメイリーとは対照的に、『悠久の風』の前衛3人はメイリーに怒りの感情すら覚えていた。言葉には出さずともなぜ自分たちよりも一回りも小さい少女が、Bランクで自分たちがFランクなんだという思いなのだろう。
魔法使いと弓使いの少女はメイリーに憧れの感情を抱いていた。メイリーは冒険者組合では有名人の1人である。後衛職でソロというのは前衛職が思っているよりも難易度が高い。そんな事を自分たちよりも年下の同性がやれているという事実が嬉しいのもある。
(やっぱり実用性を求めすぎずにロマンを大事に行動するのも大切かも)
当の本人は怒りや憧れをぶつけられていることにも気がつかず、初体験の旅を楽しんでいるのであった。




