冒険者組合の内情
メイリーは冒険者組合にて、メイリーが発見した新しい初心者迷宮のルートについての情報提供の報酬について、受付嬢のレレナから説明を受けていた。
「残念ながら初心者迷宮の発見だけで、Bランクに成り立てメイリーさんをAランクに昇格させる訳にはいきませんので、報酬として金貨150枚とAランクの依頼3回分の評価点を付与するということに決定しました」
「はぁ。わかりました」
報酬に関してはとくに頓着していないメイリーは、受付嬢の話を一応聞きつつ、今朝新たに覚えた魔法の数々の確認作業を行っていた。
(雷魔法の応用の磁力と光学魔法を応用した太陽レーザー。他にも色々と思い出してきた。まあ何でこのタイミングかわからないけどありがたい)
強敵と戦った後などに思い出すことが多い前世の魔法たちだが、今回はそういったタイミングとは関係なく思い出した。しかし有用な魔法も多いため、メイリーは使いこなせるように修練しなければと意気込む。
「本来ならもう少し報酬が多くても良いのですが…メイリーさん!」
「なんです?」
「何かしましたか?」
突然レレナからの漠然とした質問にメイリーは疑問符が浮かぶ。
「何かしたかと尋ねられても、色々とやっていることは確かですね」
「いえすいません。組合長や上司の受付嬢さんなどからメイリーさんについて色々と聞かれたので少し…」
メイリーとしてはあまり思い当たる節はない。あるとすれば『宝竜の迷宮』での一件くらいだろう。
「第2王子の依頼を受けたくらいです。それ以外だと特には、」
「それですよ!大きな声では言えませんが、基本的に中立な冒険者組合ですが、元統括組合長、簡単に言えば各都市の組合長たちのまとめ役である人物が第1王子を支持してるんですよ」
そういえばリュートがそんな感じの話をしていたことを思い出す。とは言え冒険者は組合を通さない依頼の受注は、自己責任であるということ以外特に制約は設けられていない筈なので、問題はないと思う。ただ一点気になることもある。
「元なんですか?」
「ええ。先ほども言いましたが冒険者組合は基本的に中立ですので、現職の組合長やましてや統括組合長が冒険者関連以外での個人、団体を支持することは個人的にであっても許されていません。しかし職を辞した後であれば一応問題ではありません」
一応とつける辺りグレーゾーンなのだろう。
「元統括組合長の功績は語りきれないほどでして、あの方が何かを仰らなくても冒険者組合や冒険者個人が進んで役に立とうとするほど、まだまだ影響力が強いので、中立の存在である組合としては…」
「色々とあるんですね。私にはあまり関係ないことですが」
元統括組合長とやらにお世話になった人たちが、今偉くなり権力を持ってしまっており忖度することで、そのしわ寄せが元統括組合長と接点の無い末端に掛かっているため不満があるのだろう。なんとなくの内情を把握したメイリーは、面倒なので報酬を受け取り礼を言って帰ろうとする。しかし、
「ここはメイリーさんにも横の繋がりを築いて貰う必要がありますよ!本来ならパーティーを結成するかクランに入るのが良いんですがメイリーさんは嫌がりそうなので、ここに丁度良い依頼があるんですよ」
「横の繋がりね」
レレナから依頼書を手渡される。他の冒険者とあまり関わっていないメイリーには確かに、信頼できる他の冒険者は存在しない。しかしメイリーとしては必要に感じないので断ろうとするが、レレナの目がキラキラしている。渋々依頼書に目を通す。
「えーと、依頼の補佐?」
「そうなんです。高ランク冒険者が新人育成をサポートする狙いの依頼で、元統括組合長の息が掛かってない冒険者との繋がりを持てる依頼なんですよ!」
確かにメリットはある依頼だ。しかし興が乗らない。新人育成であるため大した敵が出るわけでは無いからだ。
「うーん。やっぱり、」
「駄目ですか?」
「はぁ。わかりました。受けますよ」
こちらを思っての提案であるので無下にもできない。それに依頼内容が『魔樹/トレントの討伐』という、そういえば会ったことのない魔物に、多少心が動かされたこともあり依頼を受注することにしたのであった。




