非常識な女
2次予選が終了し最終予選への通過者が39人であった。確か毎年、決勝トーナメントは16人で行われるためまだまだ多い印象を抱いていた。
「これで1日目の日程は終わりだよね?」
「…芽依。興味無くてもプログラムくらいちゃんと読んどこうよ。2次予選の通過者が50人を下回った場合、敗者復活戦をするって書いてあるでしょ。」
確かに魔法競技は得意な魔法によって有利不利がはっきり出てしまうため、救済措置は有っても良いかなと思う。ただ、
「そうなんだ。それって私は出なくて良いんだよね。」
「まあ芽依は勝ち上がったから別に今日は出番無いけど。」
「なら帰ってゲームやってて良いかな?」
芽依には関係の無い話であるため泊まる予定のホテルな帰ってゲームしたいのだ。
「えー。遠出だとVR機器は運ぶのめんどくさいし、精密機械を収納するのも何か怖いから持ってこないんじゃ無かったの?」
「ん?持ってきてないよ。でも携帯ゲーム器なら何台か持ってきてて。ほら!だから帰ってやりたい。」
「今は本番中だよ!駄目に決まってるでしょ!ここでやりなさい。」
「えー、まあいいけど。」
と言うことで芽依は渋々、会場でゲームをすることになった。
芽依はゲームに凛は敗者復活戦に熱中していると、男性と女性の2人組が近付いてきて男性の方が話しかけてくる。
「ちょっといいかな?鹿島芽依さんだよね?」
しかし2人とも熱中し過ぎて返事は無い。男性が困っていると、
「ちょっと聞いてるの!鹿島芽依さん!」
かん高い声で騒ぎ出す。すると漸く凛が2人組に気付く。
「えーと、どうされました?」
「ああ、やっと気付いてくれた。えーと私たち『魔法ダイジェスト』の高橋と三輪と申します。よろしくお願いします。」
「えっ!あの?凄い!購読してます。」
「世間話はそれくらいにして、今回は『魔法演舞』特別版の取材でして、ぜひ鹿島さんにインタビューをと思いまして。ご協力頂けますでしょうか?」
彼らは魔法についての特集が毎月出される有名な雑誌の記者たちであった。彼らの取材は『魔法演舞』があるこの3日間のみだけ、ある種新聞のように発行される特別版の物であった。この雑誌の注目度は凛の反応を見れば分かる通り高く、その雑誌の記者が直接インタビューに来ると言うことは、それだけ芽依の活躍が凄かったと言うことであった。しかし
「あ、ああー。駄目だと思いますよ。今、ゲームしてますし。」
「えと、ゲーム?」
男性記者さんが困惑した表情を浮かべてしまう。すると先程から険しい表情を見せていた女性記者の方が、
「少し結果を出したからと言って調子に乗らない方が良いと思いますが…鹿島さん。ゲームなど止めてインタビューにお答えください。」
かなりきつめな当たりをしてくる。 ただ残念なことに芽依の場合、調子に乗ってインタビューが来ても無視してる私カッコいい状態ではなく、ただただゲームに夢中なだけなのでそんな言葉が耳に入るわけもなく、返答はない。痺れを切らした女性記者は芽依のゲーム器を取り上げる。
「はぁ?何するの凛!」
「わ、私じゃなくてそっち!」
「はぁ。えーと、返してくれませんか?」
「やっと此方を向いてくれましたね鹿島芽依さん。こんにちは『魔法ダイジェスト』の三輪と申します。『魔法演舞』1日目についてインタビューさせていただきたいのですが?」
「返してくれませんか?」
「インタビューにお答えいただけたらお返ししますよ。」
「はぁ。わかりました。」
「漸くご理解いただけたようで。それでは早速ですが…」
「やっぱり何台か持ってきてて良かった。」
そう言って2台目のゲーム器を鞄から取り出した芽依は、ゲームを始めようとする。流石に見かねた凛が説得を試みる。
「芽依。インタビューくらい答えてあげようよ。」
「私は初対面でいきなりゲームを取り上げてくるような非常識な女に答える言葉は持ち合わせていない。そもそも『魔法ダイジェスト』って何?」
「な、『魔法演舞』出場者が『魔法ダイジェスト』を知らない。そんなわけ無いでしょ!もういいわ!」
自分の仕事にプライドを持っている風の女性記者はゲーム器を放り投げ、憤慨して帰っていってしまった。
「全く。非常識な人だな。それで『魔法ダイジェスト』って何なの?」
「芽依も大概だと思うけど、『魔法ダイジェスト』って言うのはね…」
その後凛から説明を受けた芽依は、取り残されていた男性記者の高橋さんに謝られつつインタビューに応じるのであった。




