秘密裏に
メイリーが去った後、残された者たちの雰囲気は悪い。護衛2名は怒りを露にしており、それを睨み付ける侍女、そして居心地が悪そうにしているリュートと何も喋らず貰った手紙を見ているテイル。するとリュートが耐えきれず謝り出す。
「すまないテイル。君の師匠に失礼な物言いをしてしまった。折角紹介してもらって、依頼も達成してくれたと言うのに。」
「ん、ああ、別に大丈夫だと思うぞ。メイリーはまあ色々変なところで意地を張るとこあるけど、別に根に持たない性格だしな。」
「そうか。よかった。」
空気が多少和んだ。しかしそこど、カンタンとライナーが横槍を入れてくる。
「リュート様。何度も申し上げていますがあまり田舎貴族とそのようにフランクに話すのはお止めください。」
「カンタン!」
「それとテイルよ。その手紙の内容をこちらで確認させてもらおうか。」
「ライナー!」
元々、王子の護衛に選ばれたこの2人のプライドは相当高く、田舎貴族の息子であるテイルを見下していたが、これがより強まったのが入学後すぐに行われた、2対1の模擬戦であった。ひょんなことから戦うことになったテイルが、2人を簡単に打ちのめしてしまったのだ。それ以降立場を守るためより一層見下して来るようになってしまったのだ。
「この手紙が何か?」
「どうせ秘密裏に落ち合うつもりなのだろう。その日にちがその手紙に書いてあるかもしれない。それに我々も同席させていただく。」
「そんなに『竜珠』が欲しいのか?」
「当たり前だ!」
「それなら『宝珠』の報酬もしっかり払うべきなんじゃないのか?」
「あ、あれは奴の言いがかりにすぎん。」
あまりの物言いに呆れてしまうテイル。よく見ればリュートも困惑顔から少し怒りが漏れてきている。メイリーがそういう性格ではないが、本当に言いがかりなのであれば、もっとリュートと交渉した筈である。それこそメイリーには『宝珠』を渡さないという鬼札があるのだから。
「『竜珠』でなくても目的は達成出来るんじゃ無いのか?」
「そうだね。」
「しかしリュート様。求められた結果以上の功績を残すことで、リュート様の王位継承への道がまた進むのです。それに魔獣増加を沈静化するアイテムの製造には確かに『宝珠』でも代用可能でしょう。しかし『竜珠』であれば更に多くの民を救うことが出来るのですよ!」
「それは、そうだが…」
「そう言うことだ。さっさとその手紙を見せろ!」
「…はいはい。」
テイルがライナーに手紙を渡す。その手紙の内容には近況報告等の他にライナーの言った通り、2日後に会おうという主旨の文が書いてある。これを見つけたライナーは勝ち誇った顔をして、
「2日後だな。テイル。貴様はこれに行かなくてよい。私たちで行かせてもらう。良いな。」
「何を言ってるんだ。そんなこと。」
「これはこの国の大事だ。貴様のような田舎貴族がどうこう言える問題ではない。良いな!」
「はぁ。わかった。」
その言葉を聞き終えたライナーたちはリュートを連れて帰っていくのだった。
リュートたちが帰った後、侍女のハープルが心配そうに声をかけてくる。
「テイル様。急いでメイリー様にお伝えしなければならないのでは?」
「うーん。まあ大丈夫だろ。なあ?」
テイルは呑気に返答し虚空に問い掛ける。ハープルが何をしているのか質問しようとすると、虚空から声が聞こえてくる。
「まあ大丈夫ですね。あの手紙はほとんど嘘なので。」
「えっ!」
声が聞こえた場所を見ると少しずつ姿が見えてくる。そこには帰った筈のメイリーが座っていたのだ。
「ハープル。あの手紙は中ではなく外側に魔法文字で本当の内容が書いてあったんだよ。『竜珠』が必要な理由とか護衛とリュートの関係性とかをメイリーは秘密裏に知りたかったみたい。」
「まあ、知ってることがバレなければ面倒に巻き込まれずにすみますから。それじゃあ、今後の対策でも話しますか?」
「ああ。」
結局、カンタンとライナーはメイリーの手のひらで踊らされていたに過ぎないのであった。




